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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
研修四日目
13/50

好きになった理由

 そうしてミヒロが館林の誤解を解く機会を失ったまま、午後はツアーの予行練習は始まった。スカイタートルの公園に続き、王子様ツアーでも行った丘の古城やこの国最古の建物を巡り、時間は午後5時になろうとしていた。


「さあて、明日のコースはここまでだ。大丈夫か?」

「はい!」

「いい返事だな。明日はがんばれよ」


 サービスアパートメントに送り届ける前に、燃料補給と、館林は石油スタンドに立ち寄る。そこで車の中で待つのは熱いし、コンビニで買うものがあるかもしれないと、2人は燃料を満タンにさせるまで、コンビニで待つことにした。

 日本のコンビ二と比べ、その品揃えの少なさにがっかりしながら見渡してると、館林が慌てて、店の外に出るのが分かった。

 そしてきれいな女性を話しているのが見えた。


(知り合いの人かな?あーまったく私とは別世界の人だな。どうやったらあんな風になれるんだろう?あんな風だったら、私も館林さんに女性扱いされるのかな)


 そんなこと思い始めると悲しくなっていくのがわかった。

 

(そうか。そうなんだ……)


 ミヒロはふと朝から自分を苦しめていた気持ちの正体がふいにわかり、笑い出したくなった。


(なんだ。私、館林さんのことが好きなんだ。だから、相手にされなくて悲しいし、他の女性と仲良くしてるのを見るといらいらするんだ。馬鹿だ、なんで私……。いっそ、パトリックを好きになればよかった。

 頼りがいないけど、優しいし、多分彼も私のことを好きだ。大切にしてくれるはずだ。なんで館林さんなんだろう)


 ミヒロはその場にしゃがみこんだ。

 そして顔を覆う。


「ミヒロ?」


 外から中に戻ってきた館林がしゃがみこむミヒロに声をかける。

 その声がひどく優しく聞こえる。


「……なんでもないです」


 ミヒロは涙を堪えると立ち上がり、笑顔を浮かべる。


「大丈夫か?お腹痛いとか?」

「……大丈夫です。ちょっと疲れただけです」

「そうか。ほら、燃料チャージ終わったから。アパートまですぐだぞ」


 彼はそう言うとぽんと頭を撫でる。


「館林さん……」


 その手から優しさを感じ、ミヒロは本当に泣きそうになった。


「あ、悪い、悪い。セクハラだった」


 しかし彼はくすっと笑うと、手をすぐ引っ込めた。


 館林の後に続き、店を出て、車に乗る。ミヒロはこのまま、彼の車にずっと乗っていたいような気持ちになる。その声をずっと聞いていたい気がした。


「着いたぞ」


 そう言われドアのロックをはずされ、ミヒロは悲しくなった。


「どうした?」


 降りないミヒロを館林が訝しげに見る。


「……館林さん。私、館林さんを好きになりました」

「!?」


 突然の部下の告白に社長はぎょっとして彼女を見た。


「なーんて、冗談です。明日は一人でがんばります」


 そう言って笑ったので社長は安堵の表情を浮かべた。それを見て、ミヒロは自分が完全に館林の恋愛対象ではないことを悟る。


「がんばれよ!明日は早いから、バスにこっちに来てもらうように手配しておく。午前8時だ。遅れるなよ」

「わかってます。あのピンクのアロハシャツは着ないといけないんですか?」

「ああ。そうだ。ミヒロ、あの時笑ったけど、結構似合ってるぞ。かわいい」


 ミヒロは館林の言葉に泣きそうになりながら、無理やり笑顔を作る。


「じゃ、今日はありがとうございました」


 車を降りると、ぺこりと頭をさげる。彼は一瞬、何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに表情を改めた。


「じゃ、明日、ツアー終わったら、送別会もかねて打ち上げといこう。パトリックも、アイリーンも一緒にだ」


 社長はそう言うと、部下に一度だけ手を振ると、車を出した。

 ミヒロは涙で視界がぐちゃぐちゃになりながらも、彼の車が視界から消えるまで見送っていた。


「ミヒッロ~」


 部屋に戻りシャワーを浴びたところで、電話がかかってきた。

 それはパトリックだった。


「今日はドウデシタ?」


 パトリックはいつもの優しい声音でそう聞く。ミヒロはどう答えていいか、わからず電話口で息をのむ。油断をすると、その優しさに触れ、涙が出てきそうだった。


「ミヒロ?ミヒロ。実はボク、アパートの近くにいるんデス。これから一緒にdinner食べまナイ?」


(ディナー……。夕飯……)


 ミヒロはちらりとベッドの上の時計をみて、まだ8時を少しすぎたばかりだということに気がつく。


「ゴハン食べました?シンサンに電話したら、アパートに送った後ダカラテ言ってテ。食べてナイデスヨネ?ミヒロ、イマから行きます。待っててクダサイ」


 彼は彼女が何も答えていないのにも関わらず、そう言うと一方的に電話を切った。

 ミヒロはソファーに体を投げ出して、一瞬考えたが、パトリックと一緒に食事を取ることを決め、着替え始めた。


「ミヒロ~」


 自分を待つ彼女をみて、彼は嬉しそうに声を上げる。

 ミヒロはなんだか申し訳なくて困ったような顔を見せた。


「さあ、乗ってクダサイ」


 陽気な王子様はミヒロに笑顔を向けると、助手席のドアを開ける。


「……ありがとう」


 ミヒロはそう言うと助手席に乗り込んだ。彼は彼女がしっかりと椅子に座り、ドアを閉めるのを確認すると車を走らせた。



「ヤッパリ。そうじゃないかと思ってマシタ」


 パトリックはミヒロの話を聞くと驚いた様子を見せなかった。


「でもボクは諦めマセン。ダッテ、ミヒロはまだシンサンと付き合ってナイワケでし、ボクにもchanceがアルデショ?」


 王子は不敵な笑いを向けるとそう言う。そして、グラスに入った飲み物を飲み干した。


「ボクはミヒロが好きデス。ダカラ諦めマセン」

「……なんで、パトリックは私は好きなの?どこが?ワンピースのナミに似てるから?」

「ハジメワそうデシタ。でもイマは違いますヨ。ミヒロが好きデス。ナンンデって言われるとワカラナイケド。一緒にイタイと思いマス」

「………」


 ミヒロはパトリックの視線を受け、その真剣なまなざしから思わず避ける。自分がそこまで思われるのがなぜがわからなかった。


「ミヒロ。好きデス。理由ナンテ関係ナイデショ?」


 結局、ミヒロはそれから彼の眼差しを避けるようにして食事を取った。

 視線を受け止めることができなかった。


(私は自分の気持ちを知ってしまった。だから……。パトリックの気持ちには答えられない)


「ミヒロはナンデ、シンサンなんデスカ?」


 食事を取り終わり、サービスアパートに戻る車の中でパトリックはそう聞いた。視線は前方に向けられ、表情は硬かった。


「わからない。ただ、好きになったみたい」

「フーン。ボクも一緒デス。だから、ボクを避けナイデ」


 そう声がして、ふいに視界が暗くなる。唇に何かが触れたのがわかった。それがパトリックの唇だとわかったのは、対向車がクラクションを鳴らし、視界が晴れてからだった。


「パトリック!?」

「I kissed you, cos I love you(愛してるから、キスをした)」

「そんなの!」


 危うく、対向車とぶつかるところだった。

 ミヒロが怒ったようにして彼を見てると、パトリックがいつもの優しい笑顔を浮かべた。


「ゴメン。でもボクの気持ちはホントウだから」


 ミヒロはパトリックになんと言っていいかわからず、それからアパートに着くまでずっと窓の外をみていた。光り輝くネオンが車の中に入り、2人を照らしていた。


「着イタ」


 その声と同時にドアのロックがはずされ、ドアを開けて外に出る。

 ミヒロはパトリックと食事をしたことを後悔していた。


 彼がそんなに強く自分を思っているなんて思いもしなかった。


「ミヒロ!I’m really sorry, But please don't push me away(ホントウにゴメン。だけどボクを避けナイデ)」

「I know. (わかってる)」


 ミヒロはパトリックに振り向くことなくそう言うとアパートの中に入っていった。




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