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私と彼らの7日間。  作者: ありま氷炎
研修三日目
10/50

反省会

「おし、好きなものを頼め」


 そう言って館林が連れてきた場所は観光客で人気のスポット、海鮮が食べられる屋台村だった。


「頼まないのか?じゃ、俺が頼むぞ」


 館林は元気のない2人にそう言うとメニューを見て、海老のピリ辛炒め、白身魚の包み焼き、イカの串焼きなどを頼み始めた。


「飲み物はライムジュースな。ここのライムジュースが新鮮でうまいんだ」


 館林はそう言うとライムジュースを3つ頼んだ。


「さて」


 一通り注文し終わり、館林は2人に顔を向けた。

 ミヒロはこの時がきたと思い、膝の上に置いた手に力を入れ、館林の顔を見た。


 あの時館林が来なければ、自分ひとりで斉藤を見つけることができなかったのは事実だった。あの時の館林は本当に頼りの甲斐のある上司だった。


(アロハシャツ着て、自信過剰で、遊んでるおじさんだと思ったら、全然かっこいいんだもん。違う違う!そうじゃなくて)


 思考が別のところに行こうとして、ミヒロは視線を館林に向ける。

 館林はじっとミヒロに向けていた視線をはずし、パトリックを見るとにやっと笑った。


「ま、叱るのはやめておく。結果的に斉藤さんはミヒロのサービスに喜んでたしな。別行動は基本的によくない。しかし、まあ、結果オーライだ」


 館林の言葉にミヒロは一気に脱力する。その隣のパトリックも同じだったらしく、大きく息をもらす。


「シンサン。脅かさないでクダサイ。マッタク」

「パトリック!そこで油断しない。お前はなんでミヒロの番号を間違って登録してるんだ。だいたい事前にミヒロにお前の番号を教えたのか?」

「えっと、アノ」


 パトリックは館林にそう言われ、困った笑みを浮かべる。


「もういいですよ。私があの時きちんと確認すべきでした。パトリックが悪いんじゃありません」

「ミヒロ~~」


 パトリックは嬉しそうに名を呼ぶ。


「甘いぞ。ミヒロ。甘やかすといつまでたっても番号は覚えないぞ」

「それは困ります」

「ダイジョウブ。ミヒロの番号はもう完璧に覚えましたヨ」

「本当か?言ってみろ」

「エット。90-79…」

「間違ってる。90-8だよ」

「パトリック、明日はしっかりメモ、取り直せよ」

「ハイ」


 しょんぼりした様子でパトリックはそう頷き、ミヒロはその姿がかわいいと思い微笑んだ。


「ミヒロ……こんなボク嫌いデスカ?」


 ミヒロの笑みを見て、パトリックが館林の前なのにそう聞く。


「えっと、その…」


 ミヒロは動揺して赤くなる。


「いちゃつくのは、俺のいないところでするように」

「そんなんじゃないんです!」

「ソンナンジャ?」


 今朝繰り広げたような会話を繰り返し、館林が思わず吹きだす。それを見てミヒロも笑う。そしてパトリックが「ナニガ、オカシインデスカ?」とつっこみを入れる。

 そうして、料理が運ばれてきて、お腹のすいていた3人はご飯にありつく。そして反省会は単なる食事会に変わり、3人は少しスパイスの効いた海鮮料理を楽しんだ。


「えっと、まずミヒロを家に送り届けてから、パトリックを事務所に送る。それでいいな?」

「ボクがミヒロを送りマス」

「それじゃ、遅くなるだろうが」


 パトリックの希望を館林が容赦なく切り捨てると、3人は駐車場の中に入る。屋台村の駐車場は平日ということでそこまで混んでいなかった。そして後部座席に乗り込もうとしたミヒロはふと見覚えのある女性が駐車場の横を通りすぎるようとするのを見た。


「あれ?」


 ミヒロの言葉にパトリックが反応する。そして助手席から立ち上がり、ミヒロの視線の先を見て、顔色を変えた。そこには華麗な歌姫に変身したアイリーンがいて、車に乗る前に一服しようとする館林の視界に入ろうとしていた。


「シンサン!」

「ん?」

 

煙草を銜えたまま、館林がパトリックのほうを見る。ミヒロがパトリックの意図がわかり、慌てて館林の後ろに回りこみ、アイリーンの姿見えないように立った。


「ボクにも一本クダサイ」

「お前このブランド吸わないだろう?」


 そう言いながら館林が車体の屋根ごしに煙草を渡す。パトリックはかなり必死な顔をして、煙草を受け取り、館林の煙草に火をつけようとする。


「?」


 いつもならそんなことに気がつかないパトリック。そしてなぜか自分の後ろの回りこんだミヒロ。

 勘が鋭い館林はにやっと笑うと、パトリックからライターを奪い、振り返る。

 ミヒロが手を大きく振り、消え行こうとするアイリーンの姿を隠そうとするが、間に合わなかった。


「アイリーン?なんだ今日はめちゃくちゃ美人じゃないか!」


 暗闇でよく見えないはずなのに、美人の姿は特別によく見えるのか、館林がそう言った。


「シンサン!」

「館林さん!」


 そして必死に止めるパトリックとミヒロの制止を振り切り、アイリーンの元へ走っていく。


「?!」


 アイリーンは突然現われた男、それが自分のボスだと気付き顔を歪める。そしてその後ろに顔を引きつらせたパトリックとミヒロを見て怒りの表情を見せた。


「ミヒロ、ボク殺されるカモ」

「……大丈夫よ。この国は安全なんでしょ?」


 今朝アイリーンから冷たい声でwatch your mouth と言われたことを思い出しながらもミヒロはそう答えた。 

 ミヒロとパトリックの視線の先でなにやら2人が話しているのが見える。

 内容はわからなかったが、館林がアイリーンに何やら親しげに話しかけ、何やら大人ムードが漂っていた。


(なんか見てていらいらする。なんでだろう。私と館林さんが話してもなんかあんな色っぽい感じにはならないんだろうな)

 

 ミヒロは胸がちりちりする思いを抱きながら二人のやり取りをみていた。パトリックは、その隣でアイリーンに殺されることを想像してるのか、顔を蒼白にさせていた。

 数分ほど2人はやり取りを繰り返し、館林はアイリーンに手を振り別れると、ミヒロとパトリックがいる駐車場に戻ってきた。


「なんだ。2人は知っていたのか。俺だけ仲間はずれにしやがって」


 館林は2人に子供のようにそう言った後、意地の悪い笑みを浮かべた。


「大方、アイリーンに脅されたか?まあ、しょうがないよな。うちの会社基本的にアルバイトは禁止だから。でもシンガーっていうなら話が別だ。俺は、いいアイディアを思いついたぞ」


 笑みを浮かべたままの館林はそれからそのいいアイディアについて語ることはなかった。パトリックが自分の身の安全を思い、館林に聞くが、館林は嬉しそうな笑いを浮かべ、明日のお楽しみというだけで何も話さなかった。

ミヒロがサービスアパートで先に降ろされる。それから車を事務所に停めているパトリックを事務所まで送るようだった。

 明日も迎えに行くからネ~とパトリックが窓を開け、ミヒロに向かって手を振る。ミヒロは自分より年上のパトリックを可愛いなと思いながら手を振り返した。


(パトリックは本当かわいいなあ。王子様系だし。とても年上には見えない……。でも全然頼りがいはないなあ……)


 ミヒロはサービスアパートの中に入りながらそんなことを思う。


(頼りがいといえば、今日の館林さんはかっこよかったな。

あーでも、私は問題外か)


 ミヒロはアイリーンを話す館林の姿を思い出しながら、ほろ苦い気持ちになる。


「ちょっと、今私何思って…」


 パトリックと館林を比べ、そんなことを思った自分にミヒロは苦笑した。


(私は研修に来てるんだから!)


 ミヒロはぶるんぶるんと首を横に振り、今考えたことを忘れるように自分に言い聞かせるとエレベーターに乗り、自分の部屋へ向かった。


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