登場人物設定確認のための短文
「そんな目で俺を見てんじゃねーよ」
警官の制服に身を包んだ長身の男が振り返る。私は彼の後ろにいて、彼は私のことを見ていなかっただろうに、変な言いがかりをするなと心の中で悪態を吐く。
彼は目元を覆うサングラスの下、口元を愉快に歪めていた。私はそれを見て無感動に「むかつく」と小さく呟き、それを切片に言葉が口からこぼれる。
「見てないよ。あんたのことなんか」
「はぁ~? このクソガキがさっきから背中にビシバシ当たってんだよそのうざってぇ視線がよぉ」
「自意識過剰」
「お前以外にいねぇよ、こんなねちっこくて根暗で気色悪い視線を寄越すのは」
「自意識過剰」
男が拳銃の銃口を私に向ける。私は自分に向けられるそれを見ながら、さっき敵を倒した時に仕舞っていたはずなのにいつの間に、なんて場違いなことを考えていた。
私がここまで冷静でいられるのは、男が引き金を引かないと知っているからだ。いや、もしそれを知らなくても、私は冷静でいられる。
私にとっての冷静とは、いつも通り、日常生活で送るように心を動かさないことだから。
だから私はいつも通りに冷静に、覗く銃口を見つめ、男を見る。
男はそんな私に舌打ちをして銃を下げ――私の胴を蹴った。
身体に走る衝撃。鍛えていない身体に容赦なく叩き込まれたそれ。一般的な女子中学生である私が反応できるはずもなく、また耐えられるはずもなく横に吹っ飛ぶ。
建物の壁にぶつかり、身体を打ち、頭を打ち、崩れ落ちる。ぼとっ、という擬音が似合いそうだと考え、そんな自分の考えに笑う。
言いようのない痛みに浅い呼吸を繰り返し、冷や汗が流れる。痛みに滲む目を立っている男に向けると、男は満足だと言わんばかりに顔を歪ませていた。
「まぁ、お前なんてどうでもいいんだけどよ。……いやどうでもよくないか」
「…………」
「ロリコン上司に協力を願うよりかは、マシだっつー話だからな」
「…………」
「それに良いサンドバックにもなるしな?」
「……警官、もどき……」
「まー、な」
男はケラケラ笑った。
なんだってこんな男が警察官になれたのだろう。
悲鳴をあげる身体をなんとか起こし、立ち上がる。男はそんな私を見て鼻を一つ鳴らし、歩きだした。剥げたコンクリートで舗装された建物内に、足音が響く。
私は男の後ろ姿を凝視した。そして私は再度確認し、やはりかと呟く。
この男には何も無い。
普通の人間の目では見れない、私の目でしか見えないものが、まったく見えない。この男は、普通の人間にあるものが無いのだ。
そのことを確認し終えると、私は腹部の痛みを逃がすために息を吐き、男の後を追いかける。
彼が私を連れて回るのは、自分に持っていないものを私が持っているから。無いものを補うために私を利用している。
私も私で、無いはずなのに敵――悪霊や悪魔と呼ばれるもの――と対等、いやそれ以上に戦えている男を利用している。
彼と私の目的は一緒なのだ。ならば、その目的の前までは利用され、利用しよう。
男が通った通路。男の後ろで、朽ちかけたマンションの扉が吹っ飛び、私の目の前に緑色の物体が飛び出してきた。
男が振り返る。その手に拳銃を収めて。
人間の身体をベースにした全身緑色の何かが、赤い眼光を私に向ける。
だから私も動く。
「呪いをかけてやるよ」
緑色の何かが私に向かって腕を振り上げる。鋭い爪が鈍く光り、私の身体を引き裂こうとする。それを冷静に眺め、そして私は口ずさんだ。
「私のために死ね」
恐怖が無い。人として備わっているはずの恐怖が無い。私は見つめる。緑色。爪。恐怖は感じない。私は利き腕を前に突き出し、その爪に触れる。速くもない。遅くもない。私が触れると爪は止まる。
緑色の何かが驚きの表情を浮かべる前に、銃声が鳴り響いた。緑色の何かの眉間に小さな穴が空く。それを確認すると、私は横に飛びのいた。
男の容赦の無い蹴りが緑色の何かを前に飛ばし、私の背後を狙っていた新たな緑色の何かにぶつかる。
新たな緑色の何かは、仲間の身体を引き裂いて男に向かって走る。私はもう一度口ずさむ。
「私の目的のために死ね」
そうすると緑色の何かが躓き、男の膝をもろに顔面に受けてみせる。強烈な足技を食らった緑色の何かは緑色の液体を撒き散らしながら後ろに身体を仰け反らせた。
男の目が私に向けられる。ちょうど横顔が見える位置にいた私は、男の赤い目を見て目を細めた。
あの目、嫌いだ。
だから私は口ずさむ。
「私の目的のために死んでしまえ」
男は笑う。
「お互い様だったっつー話みてぇだな?」
私は笑った。
暴力警官と無感動少女。
ちなみに二人は赤の他人です。
登場人物設定確認といっても、まだ投稿していない小説のものです。
現代の日本に、魔術的な何かを盛り込んだもの。
いつの日か投稿するとは思いますので、その時になったらこの小説を消そうと思います。
P.S.殺伐っていいですよね。ただの独り言です。