第4章 12月13日
「少女を殺す時は露出魔の格好をすればいいだニャン。黒色のロングコートの下は素っ裸!というのが最高だニャン。そうすれば誰もお前の事を、変質者だ!と信じて疑わないだニャン。10年以上も家に閉じこもっていた無職ニートの中年おやじが少女を殺したとしても誰も疑問に思わないだニャン」
「ニャニがニャンだかわからないだニャン」
「真似するなだニャン」
「真似してないだニャン」
「してるだニャン」
「してないだニャン」
「……」
「……」
僕は溜息をつきながら、
「だけど僕は黒色のロングコートなんて持っていないぜ?」
夕食後の紫煙をくゆらす至福の一時、猫は又喋り出した。
「安心しろだニャン。吾輩がそこに用意しておいただニャン」
猫の指差す方向を見ると、部屋の隅に黒色のロングコートがきちんと畳まれ置いてあった。その上には鈍く光る包丁まで置いてあった。一体いつから存在していたのだろうか?
試しに着てみたら僕のサイズにピッタリだった。足首まで隠れる露出魔御用達のロングコートといった趣きだ。左右に異様に大きなポケットが付いていて、猫が用意した包丁がスッポリと収まった。
「だけど12月にコート1枚じゃさすがに寒いだろう?」
そのコートの異様な暖かさに驚きながらも言った。
「なんなら女子高生用のスクール水着も用意しようかだニャン?」
僕はまた溜息をつきながら、
「その女の子はどうして僕なんかを好きになったんだろうか?」
「お前の個性的な顔を気に入っただニャン。蓼食う虫も好き好きだニャン」
「それだけかい?」
「それだけだニャン。お前は人様並の苦労もしてないから若く見えるしなだニャン。少女が憐れだニャン。少女は悪徳業者の飼育している食虫植物にだまされた可憐な蝶だニャン」
「憐れだと思うのなら女の子を殺すのは止めないかい?神なら殺す以外にも解決方法があるんじゃないかい?」
「ないだニャン」
僕はまたまた溜息をついた。
「さぁ、これで準備万端整っただニャン!明日はいよいよお前が世界の平和を守る為に少女を殺す日だニャン!」
そう言うと猫はガッツポーズをつくってみせた。
僕はYouTubeにアクセスした。ブルース・スプリングスティーンの「見張り塔からずっと」だ。
無職ニートの楽しみといえばインターネットしかないのだ。
ブルース・スプリングスティーンの演奏は、ギターを弾くというより、ギターをかきむしると表現した方がピッタリだった。そう、テレキャスターをかきむしっていたのだ。
僕は思っていた。この世にギターの音色ほど美しいものはないと。
ストラトキャスターやレス・ポールの音色は最高だ。だがテレキャスターの音色だけは好きになれなかった。単に個人的な好き嫌いの問題だが。
しかしブルース・スプリングスティーンの10分にも及ぶ「見張り塔からずっと」を何度も視聴しているうちに、ブルース・スプリングスティーンのテレキャスターの音色は苦悩と絶望の音色だと理解した。
ブルース・スプリングスティーンは苦悩と絶望を体現していた。
僕はその動画をmixiに貼り付け、簡単なコメントを添えて12月13日の日記として公開した。
(続く 最終更新日15年09月17日)




