第3章 12月12日
「少女を殺す事はお前の魂の救済にもなるだニャン」
「女の子を殺す事がどうして僕の魂の救済になるんだい?!」
「お前はそんな事もわからないのかだニャン。馬鹿に何を説明しても無駄だなだニャン」
夕食後の紫煙をくゆらす至福の一時、日中は丸まって寝ていた猫が又喋り出した。
猫は昨日と同じく机に腰を掛け足を組み煙草を吸っている。
「お前は40歳の無職ニート童貞男だニャン」
「まだ39歳だよ」
「どっちでもいいだニャン。お前は10年以上働かず、親に食わせて貰って、お小遣いまで貰っている無職ニートだニャン」
「この不景気なんだから仕方ないだろ。僕だって採用されれば働くさ。だけど採用されないんだから仕方ないだろ。面接でどんなに好感触を得ても後日来るのは不採用通知ばかり。今だって仕事を探しているさ。ハローワークのインターネットサービスでね。シンプルな話さ!応募したい求人票が見つかれば電話をする。上手くいけば面接してくれる。そして採用か不採用が決まる。僕は今まで全部不採用だっただけの話さ」
「お前は10年以上無職ニートなんだニャン。そんな奴を採用してくれる会社はどこにもないだニャン。世の中、そんなに甘くないだニャン。つまりお前はこれから先死ぬまで無職ニートなんだニャン」
くそっ!ペラペラとよく喋る猫だな。昨日まで一日中寝てばかりいたのに。丸めた体をポンと叩いたら「ウニャ?!」としか言わなかったのに。
「お前は恋人もいないだニャン。10年以上無職ニートで貯金が一銭も無くて、親の年金で生きている男と結婚したいと言う女性はどこにもいないだニャン。つまりお前はこれから先、死ぬまで童貞なんだニャン」
「……僕は……孤独が好きなんだよ」
やっとの思いで反論する。そして、
「僕はホモじゃないぞ!」
と自分でも訳の分からぬ事を口にしていた。
猫は煙草の煙をふっーと天井に向けて吐き出した。
「お前も少しは人様の役に立ったらどうだニャン?」
「女の子を殺す事が人様の役に立つ事なのかい?!」
「放って置いたら屠殺はこれからも月に一度のペースで発生するだニャン。お前はそれでもいいのかだニャン?世界を救おうという気持ちにはならないのかだニャン?」
自分の正気を疑う。
猫を信じる?
この猫の姿は僕の幻覚だろうか?
この猫の声は僕の幻聴だろうか?
どちらにせよ心療内科から精神科に転院した方が吉だ。
布団の中で考える。一体1年前の自分はどこへ行ってしまったのだろう?デジタル腕時計で今日の日付を確かめる。一体1年前の自分は何をしていたのだろう?帰りたい。1年前の、1ヶ月前の、1週間前の自分でもいいから帰りたい。僕はどこまでもこの死んだ様な日々が続くと思っていたのだ。
女の子を殺したら一体どんな日々が待っているだろう?歯を食いしばらなければならない。警察は、マスコミは、裁判所は、刑務所は、一体どんな目で僕を見るだろう?
僕は心の暗闇へ。
僕は自嘲する。
僕は考えたくない。
僕は思考を停止したい。
僕は無へ回帰したい。
僕は死にたい。
(続く 最終更新日15年09月17日)




