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無口で怖いオレのじいちゃんが、キャッフーな学園ラブコメを書いてるWeb小説作者だった

作者: たこす
掲載日:2026/06/01

 じいちゃんが入院した。


 持病の「なんかわかんないけどすんごいヤツ病」が悪化したらしい。

 どんな病気かわかんないけど、なんかすんごいヤツだという。

 場合によっては命に関わるほどなんだとか。

 で、そんなじいちゃんがなんかわかんないけどオレを病院に呼び出した。


 行ってみると、じいちゃんは全身にチューブを繋げられてベッドに横になっていた。

 見るだけで痛々しかった。


「じいちゃん……」


 声をかけると、じいちゃんはうっすらと目を開いてオレを見た。

 そして弱々しい声で言った。


「来たか、貴弘たかひろ


 正直、オレはじいちゃんが苦手だった。

 厳格で無口なじいちゃんはいつもムスッとしていて、声をかけてもニコリともしない。

 そのくせオレが遊んでると「勉強はどうした」だの「親の手伝いはどうした」だの口うるさく注意してくる。

 オレにとってじいちゃんは両親以上に煩わしい存在だった。


 けれども、目の前で弱々しい姿をしているじいちゃんを見ていると、胸が痛んだ。


「じいちゃん、だいじょうぶ?」

「ああ、みっともない姿を見せてすまんなぁ」


 いつもは見せない表情に、さらに胸が痛む。


「じつはな、貴弘。お前に渡したいものがあるんじゃ」


 そう言ってじいちゃんは小さなメモに走り書きした謎のIDとパスワードをくれた。


「なに? これ」

「貴弘は『小説家になろうよ』というサイトを知ってるか?」

「え? 知ってるけど」


 まさかじいちゃんの口から『小説家になろうよ』という単語が出てくるとは。

 普段気難しい顔をして新聞を読んでるじいちゃんがWeb小説投稿サイトの『なろうよ』を知ってることに驚く。

 ぶっちゃけ、オレはそこのヘビーユーザーだ。

 毎日追いかけてる作品が10以上もあるし、ランキングで面白そうな短編があったら必ず読むし、なんなら「推し作品を熱く語るスレ」というタイトルで某掲示板を真似たエッセイまで投稿してる。


 そんなじいちゃんがさらに驚くことを口にした。


「実はな、ワシはそこのユーザーなんじゃ」

「じいちゃんが?」

「作品も投稿しておる。『あのとき見た花の名前はなんだっけ?』というやつじゃ」

「え……」



 ええええええええーーーーーッッッ!?



 慌てて口に手を当てた。

 思わず病室中にオレのでかい声が響き渡るところだった。



『あのとき見た花の名前はなんだっけ?』



 略して『あの花』はサイトの中でもめちゃめちゃ有名な人気作だ。

 累計5万ポイントはあり、感想もレビューの数も桁違いの化け物作品。

 オレも感想を送ったことがある。


 あれ、じいちゃんが書いたものだったの?


 しかもあれは男向けの学園ラブコメものだ。

 ラッキースケベが毎回起こるやつ。

 その度に男の読者から「キャッフー」な感想が山のように送られていた。


 え? 


 あれ、じいちゃんが書いたものだったの?(2回目)


 でも確かにじいちゃんが入院したと同時にパタッと更新が途絶えていた。

 しかもめっちゃいいところで。



 ポカンとしてると、じいちゃんはメモを指さして言った。


「貴弘、もしワシに何かあったら、『小説家になろうよ』を開いてそのIDとパスワードでログインして欲しい」

「え? ログインって……」

「そして退会処理をして欲しいんじゃ」

「ええ!?」


 退会処理!?

 なんのために!?


「ちょっと待って、じいちゃん。退会処理ってなんで?」

「続きが更新されなくなったら読者も可哀想じゃからな。ひっそりと退会して作品を消そうかと」


 そんな横暴な!

 まあ、確かに作品は書いた作者のものだけど!

 でも僕だって何度もリピートしてる好きな回があるし、ヒロインの性格に癒やされる時もあるし、消されるなんて冗談じゃない。


「そんな、やだよ……」


 オレは駄々をこねるようにじいちゃんに言った。


「貴弘?」

「じいちゃんが死ぬなんて、絶対いやだよ!」


『あの花』が読めなくなるなんて!

 絶対絶対いやだ!


「縁起でもないこと言わないでよ!」


 思わず涙が溢れてくる。

 大好きな作品が消える。

 そんな悲しいことはない。


 あまりに大きい声だったのだろう。

 看護師がやってきて注意して帰っていった。


「貴弘……」


 じいちゃんはオレが息を切らせて怒鳴ったことに目を丸くしていた。


「じいちゃん、このメモは返す」

「じゃが……」

「だからちゃんと病気を治してよ。絶対だよ?」

「貴弘……そんなにワシのことを……。ありがとう……」


 そう言ってじいちゃんは普段見せない大粒の涙を流した。


「わかった、ワシももう少しこの病気にあがいてみる」

「うん!」


 そして退院したら早く続きを書いてくれ。






 数週間後。


 じいちゃんの「なんかわかんないけどすんごいヤツ病」は完治した。

 新しく認可された「なんかわかんないけどすんごい薬」を投与したら一発で治ったらしい。

 なんかわかんないけど現代の医療ってすごい。


 じいちゃんはすぐに退院して、『あの花』の続きを更新した。

 さらに入院中に何やらひらめいたのだろう。新作の投稿まで開始していた。


 タイトルは『転生が嫌なので女神たちの楽園でキャッキャウフフ生活を送る』というとんでもないヤツだった。


「じ、じいちゃん……」


 死んだばあちゃんが知ったら卒倒しそうなタイトルだ。

 よくこんな軽いタイトルを思いつくな。

 家ではムスッとして眉間にしわを寄せてる怖いじいちゃんなのに。



 そしてオレは活動報告にいって絶句した。



「やっほー! 読者のみんな! 僕だよ!

 この前ね、持病が悪化して入院しちゃったんだ。ぴえん。

 だから『あの花』の続きをなかなか更新できなくてゴメンコ。

 でも薬の効果でバッチリ治ったんだよ。現代医療ってすごいね☆

 入院してる間に、新しいのを閃いたから投稿しちゃった♪ てへ。

 じゃあ、みんなも病気には気をつけよーね!

 ばっはは~い♪」



 身内の(しかも普段は怖い祖父の)この軽いノリはきつい……。



 文面の最後の「ばっはは~い♪」の文字を見た瞬間、近いうちにオレのほうが退会するかもしれないと思った。




おわり

お読みいただきましてありがとうございました。


実際に自分が大好きだったネット小説が、作者の退会で読めなくなったことがあります。(自主的にか強制かは不明)

パソコンのデスクトップに貼り付けて、いつでもすぐ読める状態にしてたくらい好きだったのに……。


っていう悲しい出来事を思い出しました。

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