彼らを魔王と呼んでいいのだろうか?一体彼らは何者なんだ?
これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。
イセカイズム大集会の余韻が、まだ空気に残っていた。
控室の中。
白い壁。閉ざされた窓。
そして――それを満たす、異質な存在。
中村木・無刀の体を借りた“それ”は、静かに立っていた。
全身を覆う毛並みは微かに揺れ、光を反射するたびに、現実との境界が曖昧になる。
「我が名はゼンタイ。」
声は低くも高くもない。
だが、言葉は耳ではなく、直接、内側に落ちてくる。
カイトは、無意識に一歩下がった。
(……これは、嘘じゃない)
理解ではなく、本能が告げていた。
アリアも、ミカサも、ソフィアも、言葉を失っていた。
先ほどまでの疑念――詐欺師だという確信は、もう形を保てない。
ゼンタイは、ゆっくりと視線を動かし、四人を見渡した。
「汝らが抱く疑問は、単純でありながら、重い。」
沈黙。
「誰が、真実か。」
その一言に、三人の少女の表情がわずかに強張る。
だが、ゼンタイは首を横に振った。
「だが、その問いは誤っている。」
空気が張り詰める。
「真実は一つとは限らぬ。」
カイトの胸が、わずかに軋んだ。
歯車が、また一つずれる音。
ミカサが、眉をひそめる。
「……どういう意味?」
ゼンタイは、わずかに微笑んだように見えた。
「その前に、一つ、訂正しておこう。」
視線が、己の身体――中村木・無刀の姿へと落ちる。
「この男は、汝らが考えた通りの存在だ。」
アリアが息を呑む。
「……やっぱり、詐欺師なの?」
「うむ。」
あまりにもあっさりとした肯定。
カイトは思わず目を瞬かせた。
ゼンタイは続ける。
「虚飾を好み、言葉を飾り、金を集めることに長けた凡俗の人間。」
間。
「だが――」
空気が変わる。
「ある夜、この男は夢を見る。」
ソフィアの目が細くなる。
「……夢?」
「そうだ。」
ゼンタイの声は、静かに深く沈んでいく。
「我は、その夢の中で、この男に触れた。」
光のようなものが、毛並みの奥で脈打った。
「世界の構造。
魂の循環。
因果の歪み。」
言葉が、意味を超えて重さを持つ。
「それらの断片を、この男に見せた。」
カイトは、息を止めていた。
(……本当に、与えたのか)
「だが、この男はそれを“夢”と認識した。」
ゼンタイの声に、わずかな愉悦が混じる。
「理解できぬものは、現実として扱えぬ。」
ミカサが小さく舌打ちする。
「……だから、彼は宗教にしたってわけ?」
「うむ。」
即答だった。
「断片的な真理を寄せ集め、物語に仕立て、名を与えた。」
――イセカイズム。
「そして、金を得る手段とした。」
アリアが、複雑な顔をする。
「じゃあ……全部ウソってわけじゃないの?」
「全てが虚偽ではない。」
ゼンタイは静かに答える。
「ゆえに、危うい。」
沈黙が落ちる。
真実と虚偽が混ざり合ったもの。
それは、最も判断を狂わせる。
カイトは、ゆっくりと拳を握った。
(……じゃあ、俺たちの話も)
その時だった。
ゼンタイが、手をかざした。
何もない空間に、歪みが生じる。
紙の束が、そこから“現れた”。
音もなく、四冊。
それぞれの前に、一冊ずつ落ちる。
「これは――」
ソフィアが手に取る。
表紙には、簡素な文字。
――イセカイズム聖典
カイトも、ゆっくりとそれを手にした。
紙の感触は、現実そのものだった。
だが、どこか温度が違う。
「汝らの求める答えは、その中にある。」
ゼンタイの声が、静かに響く。
アリアが、すぐにページを開こうとする。
だが――
「急げ。」
その一言で、手が止まった。
空気が変わる。
先ほどとは別の緊張。
「時間は、多くない。」
カイトの背中に、冷たいものが走る。
「……何の話だ」
初めて、自分から問いを投げた。
ゼンタイの視線が、カイトに向けられる。
その奥に、底のない何かが揺れていた。
「来る。」
短い言葉。
ミカサが、一歩前に出る。
「誰が?」
間。
ほんの一瞬の沈黙。
そして――
「白と黒の、二色があるデーヴァたち。」
その名が発せられた瞬間、
空気が、凍った。
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