この賢者は何かを知っているかもしれない
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
三人の声が重なっていた。
否定。
断言。
所有。
誰が正しいかではなく、
誰が譲らないかの問題だった。
カイトは、その輪から一歩、また一歩と離れた。
(……違うだろ)
彼女たちは真剣だった。
だが、だからこそ、現実から少し浮いて見えた。
(妄想だ)
(俺を、誰かと間違えている)
説明する気にもならなかった。
歯車は、元の場所に戻ろうとする。
ただ、それだけだ。
カイトは帰路についた。
夕方の街。
電線。
影。
コンビニの光。
世界は相変わらず、正確に回っていた。
交差点の前で、奇妙な集団に出くわした。
白い服。
笑顔。
手には、色の薄いパンフレット。
「いかがですか。
異世界への準備はできていますか?」
声をかけてきた男は、
妙に優しかった。
断る理由もなく、
カイトは一枚、受け取った。
――異世界主義
パンフレットには、そう書かれていた。
最高指導者
中村木・無刀
彼によれば、
誰でも異世界に転生できるという。
条件は一つ。
「良い人であること」
良い人とは、
無垢な人々に幸福をもたらす者。
その真理は、
全能の神――
人型ミアキスのゼンタイによって、
聖なる夜、クリスマスに啓示された。
カイトは読み終え、
紙を見つめたまま、動かなかった。
(……何だ、これ)
笑う気にも、怒る気にもならなかった。
ただ、
世界が、また少しずれた気がした。
「――カイト!」
声がした。
振り返ると、
アリア、ミカサ、ソフィアが立っていた。
頬を膨らませ、
目を細め、
無言の圧を放っている。
完全に、ラブコメの構図だった。
「どうして黙って行くのよ」
「説明しなさい」
「逃げるのは、良くない癖です」
三方向からの詰問。
カイトが口を開く前に、
三人の視線が、同時に止まった。
異世界主義者たち。
パンフレット。
一枚、二枚、三枚。
読み進めるにつれ、
彼女たちの目が変わっていく。
「……ねえ」
「もしかして」
「この人なら」
三人が、同時に顔を見合わせた。
「誰が本当の恋人だったか」
「分かるかもしれない」
結論は早かった。
次回、
イセカイズム大集会。
行くしかない。
カイトは、
パンフレットを握りしめたまま、
ため息をついた。
歯車は、
もう元の位置には戻れそうになかった。
街の音が、
また一つ、狂った。
――続く
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




