ステータス画面の「職業:村人」をタップしたら、プルダウンメニューで「魔王」に変更できたので、とりあえず世界征服してみる
異世界転移したら職業が『村人』で処刑されそうになりましたが、 ステータス画面にプルダウンメニュー(▼)を見つけたので、 『魔王』に変更して物理的・システム的に無双します。
※サクッと読める短編です。
5時間目の数学の授業中だった。 退屈な数式が並ぶ黒板を眺めていた俺の視界が、突如として純白に塗りつぶされたのは。
「え?」 「な、なんだこれ!?」 「きゃああああ!」
クラスメイトの悲鳴と、平衡感覚が消失する浮遊感。 次に足裏に感じたのは、学校の床の感触ではなく、硬く冷たい石畳の感触だった。
「……おお、成功したぞ!」 「勇者召喚の儀は成功だ!」
視界が戻ると、そこはファンタジー映画のセットのような場所だった。 高い天井、煌びやかなシャンデリア、そして俺たちを取り囲むローブ姿の老人たち。 正面の豪奢な玉座には、偉そうな王冠を被った男が座っている。
「よくぞ参った、異世界の勇者たちよ! 我が国を救うため、その力を貸してほしい!」
テンプレだ。 ラノベで腐るほど見た、異世界転移というやつだ。 クラスの連中は混乱しつつも、「マジかよ!」「すげぇ!」と興奮し始めている。
直後、一人ずつ水晶玉に手をかざす「鑑定の儀式」が始まった。
「おお! 職業『聖騎士』! 攻撃力800だと!」 「こちらは『大賢者』ですぞ! 魔力1200!」
クラスのカースト上位連中が、次々とチート職を判定されていく。 特に、クラスの中心人物であるタカシは別格だった。
「職業『勇者』……!! 全ステータスが規格外だ! 間違いなく彼こそが伝説の救世主だ!」
王の間が歓声に包まれる。タカシは鼻高々にガッツポーズを決め、王女っぽい美少女に熱い視線を送られていた。 そして、最後。俺の番が回ってきた。
(俺も、もしかしたら……)
システムエンジニアを目指して勉強していた地味な俺だが、ここなら輝けるかもしれない。 淡い期待を胸に、震える手で水晶に触れる。
水晶が、ぼんやりと灰色に濁った。
「……む?」
神官が眉をひそめ、ステータスボードを読み上げる。
「名前:ケント。職業……『村人』。攻撃力……5」
シン、と広間の空気が凍りついた。 攻撃力5。その辺の野犬にも負ける数値。
「村人、だと?」
玉座の王が、汚いものを見るような目で俺を見下ろした。
「生産スキルもなし、魔法適性もなし。ただの一般人ではないか。……おい神官、これは何かの間違いではないのか?」 「いえ、何度鑑定しても『村人』です。ただの数合わせで召喚されてしまったようですな」
王は興味を失ったように手を振った。
「外れか。……ええい、目障りだ。その無能をここからつまみ出せ」 「へ? あ、あの……」
弁解する間もなく、屈強な衛兵に両腕を掴まれる。
「ぷっ、村人だってよ! ケントらしいな!」 「攻撃力5は草」 「ウケるー。一生畑でも耕してなよ」
クラスメイトたちの嘲笑を背に受けながら、俺はズルズルと引きずられていった。 タカシがニヤニヤしながら「元気でな、一般人」と手を振ったのが、最後に見た光景だった。
◆
そして現在。
「処刑は明日の正午だ。精々、神に祈るんだな。役立たずの『村人』風情が」
王城の地下牢。湿ったカビの匂いが充満する中、衛兵がそう吐き捨てて去っていった。 追放どころか、国家機密を知った部外者として処分されるらしい。救いがなさすぎる。
鉄格子の向こうへ消える足音を聞きながら、俺は冷たい石床に座り込み、深くため息をついた。
「……UIが不親切すぎるだろ、この世界」
俺は虚空を見つめていた。 そこには、俺にしか見えない半透明のウィンドウ――自分自身の『ステータス画面』が浮かんでいる。
【名前:ケント】 【職業:村人 ▼】 【レベル:1】
「この『村人』の横にある、ゴミみたいな汚れ……」
絶望的な状況だが、俺のエンジニアとしての習性が、その違和感を見逃さなかった。 文字の横に、極小のドット欠けのようなものがある。
俺は人差し指を伸ばし、その『▼』のようなドットをタップした。
ピロン♪
間の抜けた電子音と共に、リストがズラリと下に展開された。
「……は?」
[ 戦士 ] [ 魔法使い ] [ 僧侶 ] [ 盗賊 ] [ 遊び人 ] ……
俺は目をこすった。 スクロールできた。指で弾くと、リストがヌルヌルと動く。
「おいおい、嘘だろ。職業選択、ラジオボタンじゃなくてプルダウン形式かよ。しかもロック掛かってないのか?」
セキュリティがガバガバすぎる。 あの神官も王も、誰も気づかなかったのか? いや、この『▼』は俺の目にしか見えていないのかもしれない。いわゆるデバッグモードというやつか。
開発者を小一時間問い詰めたい気分だが、今は好都合だ。 俺は震える指でリストを一番下までスワイプした。
そこには、禍々しい赤文字でこう書かれていた。
[ 魔王 ] [ 邪神 ] [ 創造主(※開発者用) ]
「創造主はさすがにBANされそうだから……とりあえず、これでいいか」
俺は**[ 魔王 ]をタップし、[ 変更を保存 ]**ボタンを押した。
『設定を変更しました。再起動します』
瞬間、視界がブラックアウトし――。 次の瞬間、全身に力がみなぎった。 着ていたボロ布は漆黒のローブに変わり、手にはコンビニのビニール傘の代わりに、不気味な魔剣が握られている。
ステータスを確認する。
【職業:魔王 ▼】 【攻撃力:999999...(オーバーフロー)】 【備考:世界を滅ぼせます】
「……バランス調整、放棄してんじゃねえよ」
俺は苦笑し、目の前の鉄格子をデコピンで弾いた。 ガゴォォォンッ!! 轟音と共に、鉄格子が壁ごと吹き飛び、向かいの牢屋まで貫通した。
「物理演算もバグってるな。よし、クレームを入れに行くか」
俺は悠々と牢屋を出て、玉座の間へ向かった。
◆
「いやぁ、あの無能な『村人』がいなくなって清々したな!」 「本当だよ。レベル1とか、同じ空気吸うのも恥ずかしかったしー」
玉座の間では、豪勢な宴が開かれていた。 クラスのリーダー格だった勇者・タカシと、その取り巻き、そして国王がワイングラスを傾けている。
そこへ、俺は正面の大扉を蹴破って侵入した。
「――よう。最後の晩餐か?」 「な、何奴だ!?」
国王が悲鳴を上げる。 全身から黒いオーラ(エフェクト設定:高)を放つ俺を見て、誰も俺がケントだとは気づいていないようだ。
「魔族か!? 皆の者、出会えーッ!」 「へっ、魔物風情がこの『勇者様』の前に現れるとはな!」
タカシが聖剣を抜き、光の速さで斬りかかってくる。 まあ、今の俺の動体視力なら止まって見えるんだが。
俺は避けるのも面倒なので、空中のウィンドウを開いた。 [ 設定 ] > [ 被ダメージ無効化 ] のチェックボックスをオン。
ガキィィィンッ!
タカシの聖剣が、俺の鼻先数センチの見えない壁に弾かれた。
「な、なんだと!? 俺の攻撃が当たらない!?」 「当たり判定切ってるからな」 「は、判定……?」
狼狽えるタカシ。 俺はため息をつきながら、彼の頭上にカーソルを合わせ、ダブルタップした。
ポウン。 タカシのステータス画面が、俺の目の前に展開される。他人のパラメータも閲覧・編集可能なのか。管理者権限持ってるな、これ。
【名前:タカシ】 【職業:勇者 ▼】
「お前の職業もプルダウンかよ。芸がないな」
俺はタカシの職業欄をタップした。 勇者、剣聖、賢者……いろいろあるが、こいつにはこれがいいだろう。
[ スライム(Fランク) ]
選択、保存。
「な、何をする気だ……う、うわぁぁぁぁ!?」
タカシの体がドロドロに溶け始めた。 数秒後。そこには、床にへばりつく水色のゲル状物体が一匹。
「ピ、ピキィ!?」 「おお、いい声で鳴くじゃん。踏み心地よさそうだな」
俺はスライム(元勇者)を爪先でつついた。 会場が凍りつく。国王は腰を抜かし、玉座から転げ落ちていた。
「き、貴様……何をした……魔法か!? 呪いか!?」 「いや、設定変更だけど」
俺は玉座にどかっと腰掛け、再びウィンドウを開く。 今度は**[ 世界設定 ]**のタブだ。
【現在の支配者:国王 アレクサンダー三世 ▼】
「ここも変えられるのかよ。とことんクソゲーだな」
俺は『国王』の部分をタップし、キーボードを表示させて**『ケント(魔王)』**と打ち換えた。
『世界クエスト:世界征服を達成しました』 『報酬:不老不死、無限の富、ハーレム権』
脳内にファンファーレが鳴り響く。 同時に、その場にいた騎士や貴族たちが、一斉に俺に向かってひれ伏した。
「魔王陛下! 万歳! 万歳!」 「ははっ、NPCの挙動(AI)が変わったな」
俺は玉座の肘掛けに頬杖をつき、眼下に広がる光景を冷ややかに見下ろした。 あっけない。あまりにもあっけない世界征服。
「……飽きたな」
俺は再び職業欄のプルダウンを開いた。 世界征服もしたし、次はスローライフでも楽しむか。
[ 富豪 ] [ 隠居 ] [ 猫 ]
「お、『猫』なんてあるのか。次はこれで昼寝でもするか」
俺は迷わず**[ 猫 ]**を選び、保存ボタンを押した。
ニャア。
この日、世界は一匹の気まぐれな猫によって支配されたのだった。
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「その機能、俺も欲しい!」 「スライムざまぁwww」
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