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透明なる鍛冶と烈火の防衛

運命の炉の間は、今、二つの異なる戦場と化していた。

内側では、ケイレンが世界の運命を賭けた最後の鍛造に集中し、外側では、ライラ、ゾーラン、エララが、マラコール軍団本体から彼を守るため、必死の防衛戦を繰り広げていた。

I. 透明なる鍛冶 (内なる戦場)

ケイレンは、運命の炉の前に座り、竜鱗の鎧をフル稼働させていた。鎧は、炉から流れ出る膨大な、荒々しい霊脈のエネルギーを、彼の心臓へと直接引き込む安定した導管となっていた。

彼の目の前の空間には、犠牲の魂の代わりとなるべき、**「代替触媒」**の設計図が、意識の光として浮かび上がっていた。それは、破壊と創造の極限のバランスを要求する、**究極の『形』**だった。

*「エネルギーを、無の点、**ゼロゼロてん*で制御しろ。最も暴れる力を、最も静かな形に収めるのだ。」

ブロム親方の教えが、ケイレンの意識の中で木霊した。霊脈の力は、彼の全身の皮膚を突き破り、魂を裂かんばかりの苦痛を与える。少しでも力を緩めれば、その荒々しいエネルギーに飲み込まれ、彼の魂は炉の中で燃え尽きてしまう。

ケイレンは、ブロムの槌を構える代わりに、意識そのものを槌とした。彼は、炉の巨大な霊力に対し、自分の命と竜の炎を投入し、その混沌とした力を、一点の**『純粋な鍵』**へと叩き込もうとした。

それは、熱も音もなく行われる、透明なる鍛冶だった。

II. 烈火の防衛 (外なる戦場)

炉の入口では、ライラ、ゾーラン、エララが、押し寄せるマラコール軍団本体の先遣隊と、死闘を繰り広げていた。敵の数は、無限に思えた。

「ケイレン!急げ!」ライラは、剣に霊力を纏わせ、咆哮と共に突撃してきた虚無の戦士を切り裂いた。彼女の動きは、疲れ果てていたが、指揮官としての意志は、鋼のように堅い。

ゾーランは、杖を地面に突き刺し、巨大な岩盤を隆起させる古代の土魔法を連発した。しかし、敵の数が多すぎる。岩盤の防壁は、一瞬で、無数の虚無の剣によって粉砕された。

「霊力が…尽きる…!」ゾーランは、喉を詰まらせながらも、最後の力で、炉の入口に、青い防御ルーンを刻みつけた。

エララは、竜の瞳の水晶の力を借りて、その身を盾とした。彼女の短剣は、敵の急所を的確に突き、次々と虚無の戦士を打ち倒していく。彼女の胸には、ケイレンへの信頼と、彼を守り抜くという唯一の決意だけがあった。

しかし、マラコールの親衛隊である、数体の強力な虚無の将校が、ついに防衛線を突破した。彼らは、ライラの脇をすり抜け、ゾーランを押し倒し、炉の間へと雪崩れ込もうとする。

「ここまでか…!」ライラは、血を吐きながら、最後の力を振り絞って立ち上がった。

エララは、虚無の将校たちがケイレンに迫るのを見て、顔を蒼白にした。ケイレンは、鍛造の過程の最も重要な局面にあり、外部の干渉には全く無防備だ。

「ケイレン…ごめんなさい…!」

エララは、決死の覚悟で、竜の瞳の水晶を強く握りしめた。彼女は、ケイレンの非犠牲的な方法が間に合わないと判断し、自らの命を犠牲にすることで、炉を強制起動させようと、炉めがけて突進した。

III. 運命の解放

その瞬間、ケイレンの意識の中で、ゼロ点が発見された。

彼の魂の全て、彼の愛、彼の後悔、彼の鍛冶師としての誇り、その全てが、荒々しい霊脈のエネルギーと、一点の完璧な調和に至ったのだ。

チーン!

それは、金床を叩く音ではなく、宇宙の真実を告げるような、澄んだ、透明な音だった。

ケイレンは、鍛造を終えた。彼は、炉から引き出した霊力と、自分の命を触媒にして精製した、究極の非犠牲的エネルギーの塊を、右手で掴んだ。

彼は、その塊を、以前ゴーレムから受け取ったルーン・キーに、光として結合させた。そして、エララが炉に飛び込もうとするまさに一瞬早く、そのルーン・キーを、運命の炉の起動盤に挿し込んだ。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

炉全体が、地球の核が目覚めたかのように、巨大な轟音を立てて爆発した。しかし、それは破壊の光ではない。

炉から放たれたのは、熱でも、炎でも、闇でもない。純粋な、黄金と白の、無限の光の波動だった。

この波動は、運命の炉によって完全に浄化され、再構築された、大陸の霊脈そのものだった。

波動は、炉の間を満たし、侵入した虚無の将校たちを包み込んだ。彼らは、悲鳴を上げる間もなく、その闇の構成要素が光によって浄化され、存在が霧散した。

光の波動は、深淵の壕の通路を駆け上がり、銀の砦の地下を抜け、そして、大陸全体へと解き放たれていった。

マラコール軍団は、大陸中に展開していたが、この純粋な霊脈の波動に触れた全ての虚無の魔力は、瞬時に消滅した。マラコールの力の源泉である腐敗が、根源から断ち切られたのだ。

世界は、救われた。

光が収束した時、運命の炉は静かに燃えていた。

ケイレンは、炉の前で、力なく倒れた。彼の竜鱗の鎧は消え、霊力は枯渇していたが、彼の顔には、疲労と、そして深い安堵の笑みが浮かんでいた。

エララは、炉の直前で立ち止まり、無事だった。ゾーランとライラも、光の浄化のおかげで、一命を取り留めた。

「…成功した…」ゾーランは、涙を流しながら囁いた。「彼は、運命そのものを打ち直したのだ…!」

ライラは、ケイレンのもとへ駆け寄った。彼女の目には、もはや冷徹な指揮官の光はなく、一人の少年を救った安堵があった。

世界を救った鍛冶師は、今、静かに眠っている。彼の旅は、最終的な創造と共に、終わりを告げたのだ。

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