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運命の炉と最後の創造

運命の炉の扉が開くと、一行は、竜族の埋葬地の最深部にある、巨大な円形の間へと足を踏み入れた。

そこは、もはや洞窟ではない。宇宙の運行を模したかのような、畏敬の念を抱かせる古代の工房だった。間の中央には、巨大な結晶質の炉が鎮座しており、その表面には、大陸の霊脈と直結していることを示す、複雑な青い光の回路が走り回っていた。炉の周囲の空間は、時間がゆっくりと流れているかのように、静かで重厚だった。

「これが…運命の炉」ゾーランは、その圧倒的な力に、敬虔な声を発した。「世界を打ち直し、霊脈を浄化するための、竜族の最終兵器だ。」

ライラ指揮官の目には、初めて希望の光が宿った。彼女の全ての犠牲と冷徹な戦略は、この瞬間のためだった。

その時、炉全体が青く発光し、空間に、何千もの魂が重なったかのような、深く、しかし穏やかな声が響き渡った。**古竜の意思こりゅうのいし**だ。

「よくぞ来た、竜の血脈を継ぐ者、そして守護者たちよ。我々の意志は、お前たちの勇気と献身を称賛する。外部の腐敗は排除された。今、お前たちの手で、世界の運命を打ち直す時が来た。」

古竜の意思は、炉の起動条件を改めて提示した。

「炉の起動には、二つの至高の力が要る。一つは、完璧に制御された、浄化の竜の炎。そしてもう一つは、炉の最初の炎を点火するための、至高の犠牲、すなわち純粋な守護者の魂のエネルギーだ。その力をもって、世界は浄化される。」

古竜の意思の言葉が終わると同時に、エララは、迷いなく炉の前へと進み出た。

「私が、その守護者です」エララは、ケイレンの方を振り返り、優しく微笑んだ。「私の魂は、ノースガードの最後の誓いによって、純粋な献身で満たされている。私が、この世界に償いをし、あなたの未来を守るための、唯一の道です。」

ライラは、無言で剣の柄を握りしめた。彼女の理性が、これが唯一の戦略だと叫んでいたが、その心は痛んでいた。ゾーランは、顔を覆い、止めようとした。

「待て、エララ!」

ケイレンは、エララの腕を掴み、彼女の胸元に、ゴーレムから受け取った竜の瞳の水晶をそっと押し当てた。水晶は、エララの体に触れると、すぐに温かい青い光を放ち始めた。

「俺は、認めない」ケイレンは、古竜の意思に対しても、揺るぎない決意で言い放った。

「俺の旅は、犠牲のためではない。俺は、親方の死から、そしてヴァレリウスの腐敗から、学んだ。力を得るために、魂を失う必要はない!最も強力なシステムとは、最も無駄のない、最も創造的なシステムだ!」

ケイレンは、竜鱗の鎧を具現化し、炉と自分自身の間に割って入った。

「古竜の意思よ。そのシステムは、根本的に欠陥がある。なぜ、世界を救うために、誰かの命を奪う必要がある?それは、虚無軍団と同じだ。俺の仕事は、不純物を排除し、**完璧な『形』**を作り出すことだ。」

ケイレンは、炉に向かって提案した。

「俺は、鍛冶師だ。俺は、エララの魂の代わりとなる**代替触媒だいたいしょくばい**を、この場で創造する!俺の命、俺の竜の炎、そしてこの炉から引き出した霊脈の力を使って、魂を犠牲にしない起動方法を、鍛造する!」

ゾーランは絶叫した。「ケイレン!それは、あなたの命そのものを、炉の巨大な霊脈に直接晒すことだ!失敗すれば、あなたの魂は、粉々になる!」

「他に選択肢はない」ケイレンは、ライラとゾーランに向かって言った。「俺たちは、ここまで来た。誰かを失うために、俺たちは戦ったんじゃない。俺は、この炉を使って、運命そのものを打ち直す!」

古竜の意思は、しばらく沈黙した後、空間に響く声で答えた。

「興味深い。血脈を継ぐ者よ。お前の決意と創造性は、我々の時代にはなかったものだ。お前は、犠牲を伴わない、新しい運命の設計図を描こうというのか。」

「そうだ」ケイレンは、ブロムの槌を構え、炉の前に立ち塞がった。

「世界を救うのは、破壊ではなく、創造だ。俺が、それを証明する!」

古竜の意思は、警告した。「お前には、時間がない。影の支配者が破壊されたことで、マラコール本体の憤怒が、今、深淵の壕の壁を叩き始めている。お前がこの試みを行う間、私たちは、極度の危険に晒されるだろう。」

ライラは、即座に決断した。彼女は剣を抜き、炉の入口を向いた。

「ゾーラン様、エララ。私たちが、ケイレンの最後の盾となる。奴がこの炉の起動を終えるまで、誰もここには通さない!」

ケイレンは、エララと一瞬目を合わせた。エララの瞳には、もはや犠牲の決意はなく、愛と信頼だけがあった。

彼は、炉から放たれる膨大な霊脈の力を、竜鱗の鎧を通して、自分の体内に引き込み始めた。炉全体が、ケイレンの挑戦に応えるように、激しい青い光を放ち始めた。

ケイレンは、ブロムの槌を、運命の炉の起動盤に当てる。世界の運命を賭けた、最後の鍛造が、今、この深き地底の工房で、始まった。

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