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運命の炉の扉と影の支配者

ケイレンが幻影の試練を乗り越え、運命の炉の扉に竜の瞳の水晶をかざした瞬間、大地が激しく揺れた。

グワアアアアアン!

彼らの背後、深淵の壕の入口を塞いでいたはずの岩壁が、まるで粘土細工のように、内部から爆発した。そして、岩と塵の嵐の中から、一人の人影が現れた。

それが、虚空軍団の最高指揮官、影の支配者ザルゴスだった。

ザルゴスは、将軍グラウカスのような巨体ではなく、背が高く痩せた、優雅にさえ見える姿をしていた。だが、彼の全身は、純粋な闇と汚染の魔力で覆われ、そのオーラは、周囲の清らかな竜族の霊気を、瞬時に黒く変色させていく。

「見つけたぞ、竜の血脈よ」ザルゴスの声は、甘く、冷たい囁きだった。しかし、その声が響くだけで、ゾーランとライラは、心臓を鷲掴みにされたかのような、激しい吐き気を催した。

「この美しい竜族の霊気が、私の力で腐敗していく様は、なんと芸術的だろう。そして、お前の体内に流れる純粋な炎は、我がマラコール様の新たな依代にふさわしい。」

ザルゴスは、扉の前に立つケイレンだけを見据え、他の者には見向きもしなかった。彼の狙いは、ただ一つ、ケイレンが持つ霊脈の力だ。

ケイレンは、すぐに竜鱗の鎧を具現化し、ブロムの槌を構えた。鎧の黄金色の輝きは、ザルゴスの闇と対比し、広間を二分した。

「ここから先は、一歩たりとも通さない」ケイレンは、低い、決意に満ちた声で言った。

ザルゴスは嘲笑した。「愚かな。この聖域の霊気は、もう私のものだ。お前は、この大地そのものを敵に回すことになる。」

ザルゴスは、手を一振りした。すると、床の岩盤が、瞬時に黒くねじれた虚無の棘へと変形し、ケイレンめがけて襲いかかった。同時に、周囲の竜族の霊気が、ザルゴスの魔力によって腐敗した亡霊へと姿を変え、一行の背後から迫った。

「環境全体が、奴の武器だ!」ライラが叫び、剣で亡霊を切り裂こうとしたが、亡霊はすぐに再生する。

「私たちが、囮になります!」エララは、竜の瞳の水晶を胸に当て、その治癒力を頼りに立ち上がった。彼女とライラは、連携して亡霊と戦い、ゾーランは古代の守護魔法を展開し、ケイレンの背後を守った。

ケイレンは、迫りくる虚無の棘に対し、槌を振るう代わりに、鎧の力を最大出力で解放した。

シュウウウウ!

竜鱗の鎧の表面から、強力な浄化の波動が放射された。それは、熱でも、物理的な力でもない。ケイレンの魂の鍛造で得られた、**完璧な『純粋さ』**だった。

虚無の棘が、浄化の波動に触れた瞬間、その黒い腐敗が剥がれ落ち、瞬時に無害な岩の破片へと還元された。腐敗した亡霊たちも、ケイレンの波動の範囲内に入ると、光の粒子となって浄化され、鎮魂の霊気へと戻っていく。

「馬鹿な…!我が腐敗の魔力が、逆転されるだと!?」ザルゴスは、初めて驚愕の表情を見せた。

「お前の力は、不純物だ。そして、俺は、不純物を打ち直す鍛冶師だ!」ケイレンは叫んだ。

彼は、一歩、また一歩と、ザルゴスに向かって前進した。彼の足元から広がる浄化の波動は、ザルゴスが作り出す腐敗の領域を、少しずつ押し戻していく。

ザルゴスは、奥の手を使った。彼は、自らの全身の魔力を、究極の虚無の刃へと凝縮させ、ケイレンの鎧の最も強靭な部分めがけて、高速で突進した。これは、防御を無視し、ケイレンの心臓を打ち抜くための、一点集中の魔力攻撃だ。

「ケイレン!右から!」エララは叫び、同時に竜の瞳の水晶の僅かな力を利用し、ザルゴスの左側面に向かって、銀色の閃光を放った。

閃光はザルゴスに直撃しなかったが、一瞬だけ、彼の闇のオーラの安定性を乱した。

その一瞬の隙。

ケイレンは、このために、何百回も内なる炉で槌を振るい、魂を鍛造してきた。

「終わりだ、支配者!」

ケイレンは、ブロムの槌を胸の前に構え、竜鱗の鎧の全ての霊力を、槌の先端に一点集中させた。それは、竜の炎の全てを一筋の細い、究極の穿孔ドリルへと変える技術だった。

ゴオオオオオオオオ!!

ケイレンは、槌の先端から、純粋な琥珀色の竜の炎を放った。それは、将軍グラウカスを消滅させた時よりも、遥かに高密度で、精密な、浄化の光の柱だった。

光の柱は、ザルゴスの虚無の刃を打ち破り、彼の闇のオーラを貫通し、その核へと直撃した。

キイイイイイイン…!

耳障りな甲高い音と共に、ザルゴスの体は、中心から崩壊した。腐敗の闇は、純粋な炎によって、一滴残らず焼き尽くされ、彼は、この世に存在した痕跡すら残さず、消滅した。

ザルゴスが消滅した瞬間、埋葬地の霊気は、瞬時に清らかさを取り戻した。周囲の虚無の痕跡は消え去り、静寂が支配した。

「…やった…!」ライラが安堵の息を漏らした。

ケイレンは、竜鱗の鎧を解除し、その場に力なく座り込んだ。しかし、彼は、達成感に満たされていた。

その時、彼らの目の前にある「運命の炉」と刻まれた巨大な石の扉が、音もなく、内側へと開いた。

扉の奥から差し込む光は、青く、そして温かかった。それは、終焉の光ではなく、希望の始まりを告げる光だった。

ゾーランは、杖を握りしめ、扉の奥へと続く通路を見つめた。

「これで、最後の門は開いた。ケイレン、エララ、ライラ…運命の炉が、私たちを呼んでいる。」

彼らの前に広がるのは、竜族の残した最後の希望、そして、世界を救うための、真の選択の場だった。

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