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魂の鍛造と友愛の決心

ゾーランの強力な霊力治療によって、ケイレンの意識は再び、懐かしい内なる炉へと引き戻された。彼は、琥珀色の炎が揺らめく、完璧なブロム親方の鍛冶場の中に立っていた。

「おかえり、ケイレン」

ブロム親方の幻影は、いつものように穏やかだったが、その瞳には真剣な光が宿っていた。

「鎧の具現化は、見事だった。だが、お前が纏った竜鱗の鎧は、まだ未完成だ」ブロムは言った。「それは、究極の『盾』ではあるが、究極の『武器』ではない。お前が将軍グラウカスを倒せたのは、奇跡的な偶然と、エララの献身のおかげだ。」

ケイレンは頷いた。彼は、鎧を纏った状態での、力の不安定さを自覚していた。力を放出すれば、鎧が崩壊し、自身も傷つくリスクがあった。

「今回の鍛錬の目的は、**魂の鍛造こんのたんぞう**だ」ブロムは、金床を指差した。「お前の心そのものを、炉の熱と、鎚の衝撃に耐える、究極の金床にしなければならない。」

ブロムは、ケイレンに鎧を具現化するよう命じ、その上で、最大出力の竜の炎を放つように要求した。

ケイレンは、黄金色に輝く竜鱗の鎧を纏い、咆哮と共に炎を放った。しかし、炎は鎧の表面で暴走し、鎧全体が激しく振動した。炎は瞬時に霧散し、ケイレンは強烈な精神的な反動で膝をついた。

「違う!お前の心と炎が、同期していない!」ブロムが叱咤した。「お前の意識は、鎧を『外部の防御』として見ている。そうではない。鎧は、お前の皮膚の延長だ。流れる炎は、お前の血液だ!」

修行は苛烈を極めた。ケイレンは何百回も失敗し、精神的な疲労と魔力の燃焼で、内なる炉が黒く焦げ付くのを感じた。

彼は、炉の前で、何日も立ち続けた。意識の世界には、昼も夜もない。あるのは、炎と、槌のリズムだけだ。

「竜の炎は、槌の音では制御できない。それは、お前が持つ、より深く、より原始的な**『竜のリズム』に同調させねばならない」ブロムは、最後にヒントを与えた。「お前の内側で、嵐の中心にある静寂**を見つけろ。」

その頃、銀の砦の地上では、最終戦争への避難準備が急速に進められていた。

治療室で意識を取り戻したエララは、全身の激痛を無視して、すぐに立ち上がった。彼女の傷は、ゾーランの魔法と、竜の炉の活性化された霊力のおかげで、信じられない速さで回復していた。

「ライラ指揮官!」エララは、地図を広げるライラに駆け寄った。「避難とはどういうことです?この砦こそが、霊脈の中心、最後の聖域ではないのですか!」

ライラは、冷徹な目線でエララを見返した。「グラウカスの死は、マラコールを激怒させた。三日後には、影の支配者が、数十万の軍団を率いてここに来る。この砦は、霊脈が枯渇すれば、ただの石の箱だ。我々には、ここで玉砕する理由はない。」

ライラは、竜族の埋葬地へのルートを指差した。「我々の目的は、種の存続と、最終兵器の起動だ。ケイレンがその燃料だ。私たちは、彼がその役割を果たすまで、彼を守り抜く盾とならねばならない。」

エララは、ライラの冷徹な戦略を理解した。それは、彼女がノースガード時代に学んだ、最も過酷な選択だった。

「分かりました」エララは、静かに言った。「私は、避難経路の防衛と、最後の結界の設置を担います。この砦の構造は、私とゾーラン様が最もよく理解しています。」

ライラは、エララの覚悟に、わずかな称賛の意を示した。「感謝する。エララ。お前の知識と、忠誠心は、まだ役に立つ。」

「忠誠心ではありません」エララは、きっぱりと言った。「私は、あなた方の戦略ではなく、ケイレンへの誓いを守るのです。彼は、誰かのための道具ではない。彼は、生きて、この戦いを終わらせる。私は、竜族の埋葬地まで、彼の盾となり、彼の命を守り抜きます。それが、私とヴァレリウスとの戦いから学んだ、唯一の教訓です。」

ライラは、その決意を前に、何も言えなかった。彼女は、エララに、砦の最後の防衛ルーンの設定を任せた。エララは、ゾーランと共に、避難経路となる山道の最も危険な箇所に、虚空軍団を数時間足止めできるだけの、強力なトラップと、霊力結界の設置に取り掛かった。

その間も、ケイレンは内なる炉で、苦闘を続けていた。

嵐の中心の静寂。

彼は、炎の混沌の中で、心の最も穏やかな核を探した。それは、鍛冶師が、何千回もの打撃の後に見出す、無我の境地だった。

カチッ。

突然、彼の心の中で、何かが嵌った音がした。炎の奔流は変わらない。しかし、その奔流の中心には、一点の静止した琥珀色の光があった。

ケイレンは、その静寂の核を掴んだ。彼は、その核を操ることで、鎧の表面に、最大出力の竜の炎を、一筋の細く、完璧に安定した刃として具現化させた。炎は鎧を破壊せず、逆に鎧の強度を増幅させた。

**竜鱗のりゅうりんのよろい**は、今、究極の盾であると同時に、究極の剣となったのだ。

「…できた」ブロム親方の幻影は、満足そうに頷いた。「これで、お前は完全なる**『竜の鍛冶師』**となった。行け、ケイレン。お前の使命を果たせ。」

ケイレンは、深い安堵と共に意識を現実の世界へと引き戻した。

彼は竜の炉の温かい光の中で目覚めた。体は完全に回復していた。ゾーランが微笑みながら、彼に水差しを手渡した。

「三日間の鍛錬が、今、終わった。あなたの霊脈は、かつてないほど安定している」ゾーランは言った。

ケイレンは立ち上がった。彼の体は軽く、力に満ちていた。彼は、すぐにエララの元へと向かった。

エララは、最後の防御ルーンの設定を終え、砦の門の前で待機していた。二人は言葉を交わさずとも、互いの覚悟を理解していた。

「準備はいいか、ケイレン」エララが尋ねた。

「ああ。行こう、エララ」

彼らの前には、暗雲に覆われた山脈の道が広がっていた。そして、遠くの地平線からは、最終戦争の開始を告げる、虚空軍団の重々しい進軍の足音が、微かに響き始めていた。

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