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凱旋と最終決戦の号砲

ケイレンが銀の砦の門にたどり着いた時、雪は小降りになっていた。彼の背後には、虚空軍団の前線基地が崩壊したという、静かな勝利の証だけが残されていた。

彼は、重傷を負い意識のないエララを抱え、巨大な銀の門の前に立ち尽くした。疲労と霊力の消耗は限界を超えていたが、竜鱗の鎧の微かな余熱が、彼の魂を支えていた。

「開けてくれ、ゾーラン様…」ケイレンは、最後の力を振り絞り、門の横の守護ルーンに手を触れた。

門は、ケイレンが再鍛造した時と同じ、重々しい音を立てて内側へと開いた。

門の内部は、静寂と、清掃されたばかりの黒い灰の跡が広がっていた。そして、彼の帰還を待ち望んでいた二つの人影が、すぐに彼を迎え入れた。ゾーラン賢者と、ノースガード指揮官ライラだ。

ライラは、すぐにエララの状態を確認した。彼女の厳しい顔には、かすかな安堵の色が浮かんだ。

「生還したか。見事だ、ケイレン。そして、将軍グラウカスは?」

「排除しました。前線基地は崩壊したはずです」ケイレンは、その場で崩れ落ちた。

ゾーランが即座に駆け寄り、彼の杖から温かい回復の魔力を放った。ケイレンは、体が急速に冷えていくのを感じたが、竜鱗の鎧の微かな光が、彼の生命力を守っていた。

「エララは、すぐに治療が必要です」ゾーランは指示した。「ライラ、この者を治療室へ。私はケイレンを地下の炉へと運ぶ。彼の体は、炉のエネルギーと同期している。炉の熱で霊力を補給しなければ、命の危機に瀕する。」

二人はすぐに動き出した。治療室に運ばれたエララは、ゾーランから渡された古代の薬草と、残留する炉の霊力によって、すぐに容態が安定した。

一方、ケイレンは、再び竜の炉のある地下深くへと運ばれた。

ゾーランは、起動したままの竜の炉の横にケイレンを横たえさせた。炉から放たれる温かい霊力が、彼の全身を包み込み、疲弊した霊脈に、ゆっくりと生命力を注ぎ込んでいく。

「あなたは、驚くべき偉業を成し遂げた。そして、究極の防御である竜鱗の鎧を、実戦の中で具現化させた」ゾーランは、彼の蒼い瞳を輝かせながら言った。「しかし、その反動も計り知れない。あなたの体は、今、極度の疲弊から回復しようと、全ての霊力を消費している。この状態では、もう二度と竜鱗の鎧を具現化することはできないだろう。」

「そんな…」ケイレンは、声を出そうとしたが、喉から音が出ない。

その時、地下へとライラ指揮官が降りてきた。彼女は、ケイレンの顔を見て、静かに言った。

「その心配は無用だ、ケイレン。我々は、もはやあなたを消耗品として使うことはできない。将軍グラウカスの排除は、我々に三日の猶予を与えた。三日後には、マラコール直属の虚空軍団の本体が、この砦の門に押し寄せるだろう。これが、最終戦争の始まりだ。」

ライラは、手に持った古代の地図を広げた。

「虚空軍団の本体の指揮官は、マラコールの右腕、**影の支配者シャドー・オーバーロード**だ。彼はグラウカスよりも遥かに強大で、彼の力は、この炉の霊力防壁をも突き破る。我々には、この砦を放棄するという選択肢しかない。」

ゾーランは驚愕した。「放棄だと?この砦こそが、霊脈の中心、最後の聖域だ!」

「だからこそ、放棄するのだ、ゾーラン様」ライラの瞳は、冷徹な指揮官の光を帯びていた。「ケイレンの鎧は、究極の防御。しかし、一対一の戦闘のためのものだ。数十万の軍団を相手に、彼は無力だ。我々が、この砦に篭城すれば、霊脈が尽きる三日後に、全員がここで死ぬ。」

彼女は地図の、砦から遥か南の、古代の竜族の埋葬地を指差した。

「最後の戦略は、逃亡だ。エララの献身的な治療と、ゾーラン様の最後の霊力供給で、ケイレンの体を、三日後に再び、竜鱗の鎧を具現化できる状態まで回復させる。その間に、我々は砦を放棄し、竜族の埋葬地を目指す。そこには、竜族が残した、最終兵器があるはずだ。ケイレンの力を、その兵器を起動させるための最後の燃料とする。」

ゾーランは、苦渋の表情を浮かべた。「それは…あまりにも危険すぎる賭けだ。」

「他に道はない」ライラは断言した。「ノースガードの誓いは、玉砕ではない。種の存続だ。ケイレンの命と、竜族の遺産が、世界を救うための、最後の鍵となる。」

ライラは、炉にもたれかかるケイレンの方を向いた。「鍛冶師よ。あなたの役割は、変わった。あなたは、もう戦場に出る必要はない。あなたは、三日後に、最も重要な道具となる。あなたは、最後の鍛錬に入らねばならない。」

ゾーランは、ライラの命令に従うことを決意した。彼は、杖を振り上げ、炉から引き出された、純粋で温かい竜の炎を、ケイレンの体へと、最大の出力で注入し始めた。

「聞いて、ケイレン」ゾーランは厳かに言った。「これから三日間、あなたの心は、再び内なる炉に入る。ブロム親方と共に、あなたの竜鱗の鎧を、**究極の『形』**へと打ち直すのだ。これは、これまでの全ての鍛錬を超えた、命を懸けた、最後の試練だ。」

ケイレンの意識は、再び、白く眩い光に包まれた。

彼は、最終決戦の号砲を聞いた。それは、恐ろしい虚空軍団の足音ではなく、彼の魂の奥底で燃える、不屈の炎の音だった。彼の旅は、いよいよ、最後の段階へと突入する。

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