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鍛冶師の要塞化と出撃

ケイレンの意志が、指揮官ライラの冷徹な戦略と一致したことで、銀の砦には緊迫した空気が満ちた。しかし、その緊張感は、彼らが持つ時間の短さを反映していた。霊脈の活性化がもたらす優位性は、刻一刻と失われつつある。

ケイレンは、炉から立ち上がった後も体力の回復には至らなかったが、彼の目は目標を捉えていた。

「ライラ指揮官、ゾーラン様」ケイレンは、炉の機構にもたれかかりながら、かすれた声で言った。「俺が、奴らの心臓部を叩きに行く前に、この砦を守るための盾を完璧にしなければならない。」

彼の計画は、単純なものではなかった。彼は、増幅された霊脈の力を、砦の古代の銀製構造物全体に流し込み、門を魔法的に再鍛造して、何日にもわたる攻囲に耐えられるようにすることを目指した。

ゾーランは戸惑いを隠せない。「鍛冶師よ、その技術は、ただの修復ではない。それは、霊力に満ちた素材を再構築することになる。あなたの力は、今、極度に消耗しているはずだ!」

「だからこそ、霊脈の増幅された力を使う」ケイレンは呼吸を整えた。「俺は、この砦の構造全てが、巨大な金床だと見なす。俺が今から行うのは、鋼を最も強い形へと打ち直す、最終工程だ。」

ライラは懐疑的だったが、ケイレンの目にある揺るぎない確信を見て、指示を出した。「エララ、ゾーラン様を援護し、この少年が作業を終えるまで、全ての霊力供給が安定しているか確認しろ。もし彼が失敗すれば、我々は全員、崩壊に巻き込まれる。」

ケイレンは再び、銀の門へと向かった。

門のかんぬき機構は、先の戦闘で虚無の魔力によって深く腐食され、構造的な欠陥を残していた。ケイレンは、門の前に立つと、彼の身体に流れる増幅された霊力を、まるで細い針金のように慎重に指先に集中させた。

彼は、炉を起動させた時のように、破壊的な炎を望まなかった。彼が望んだのは、融解点ギリギリの、完璧な熱だ。

ケイレンは、損傷した機構と腐食箇所に手をかざした。彼の掌から、純粋な琥珀色の光が、損傷部位に直接流れ込んだ。

シュウウウウウ…

門の銀の鋼材が、音もなく、しかし確実に赤く輝き始めた。ケイレンは、炎の力を使って、素材を溶かすのではなく、まるで魔法的な接着剤のように、金属原子同士を強制的に結びつけ、腐食によって失われた強度を再構築した。

彼の顔は苦痛で歪んだ。この繊細な作業は、炉で一晩中、完璧な刀剣の仕上げを行うよりも、遥かに精神力を消耗する。彼は、熱の強さ、持続時間、そして霊力の流れを、百分の一秒単位で調整しなければならない。

「熱を上げすぎだ!ケイレン!」ゾーランが警告した。

「大丈夫…まだ持てる!」ケイレンは歯を食いしばる。彼の脳裏には、ブロム親方が最後に教えてくれた言葉が響いていた。『究極の力とは、究極の忍耐だ。』

エララは、不安を押し殺し、ケイレンの背後に立ち、彼の周囲の霊力供給が乱れないよう、祈るように集中した。

ライラ指揮官は、その光景を無言で見つめていた。彼女は、戦場で何百もの強力な魔法を見たが、これほどまでに美しく、創造的で、実用的な魔法は見たことがなかった。この少年は、確かに「兵器」ではない。彼は、生きた魔法の炉であり、創造主だった。彼女の心の中で、ケイレンに対する認識が、冷徹な戦略から、敬意へと変わっていった。

数十分後、門の再鍛造は完了した。輝いていた銀の鋼材は、再び冷たくなっていたが、その表面の質感は、以前よりも緻密で、強固な霊力を発していた。

「これで、門は数日は、いかなる攻城兵器にも耐えられるはずだ」ケイレンは、その場に倒れ込みながらも、達成感を滲ませた。

休憩もそこそこに、ケイレンは最後の作業に取り掛かった。彼はゾーランと協力し、再鍛造された門に、活性化された霊脈の力を利用した古代の防御ルーンを彫り込んだ。これは、門そのものが敵の虚無の魔力を吸収し、それを打ち返すための、魔法的な反撃機構だった。

全ての作業が完了した時、ケイレンは、立つことも困難なほど消耗していた。しかし、銀の砦全体は、彼が到着した時とは比べ物にならない、堅固な要塞へと変貌していた。

ライラは、無言でケイレンの肩に手を置いた。その手は、冷たい鎧越しにも、微かな温かさを持っていた。

「見事だ、ケイレン。我々は、お前の力に感謝する。これで、我々が不在の間、ゾーラン様と負傷者が、数日を生き延びる盾ができた。」

ライラは、出撃の準備を始めた。彼女はケイレンとエララに、砦の備蓄から見つけた軽量で機動性の高い、銀の旅装束と、特別に調整された武器を与えた。

「作戦は単純だ。敵の主力は、山脈の中腹にある古代の交易所跡に、一時的な前線基地を設置している。そこには、次の大規模攻撃を指揮する虚空の将軍がいる。貴様たちの目的は、その将軍を叩き、敵の統制を崩壊させることだ。霊脈の優位が失われる前に、迅速に行動しろ。」

エララは、長剣と短剣を身に着け、覚悟を決めた顔でケイレンの隣に立った。「行きましょう、ケイレン。あなたの鍛冶師としての力は、もう十分に守りを築いた。今度は、槌を振るう番だ。」

ケイレンは、深く頷き、師ブロムの槌を固く握りしめた。彼の内なる炉は疲弊していたが、その意志は炎のように燃えていた。

ゾーランは、彼らが去る門の前に立ち、蒼い杖を掲げた。「光が、お前たちを導かんことを。必ず、生きて帰ってきなさい。」

二人は、銀の砦の重い門を背にして、降りしきる雪の中へと踏み出した。彼らは、世界を救うための、最も危険で、最も重要となる特攻作戦へと、静かに、そして決然と、出撃したのだった。

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