表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

核心部の防衛と覚醒の騎士

竜の炉が放った原初の輝きが消え、地下の広間に残されたのは、ケイレンの極度の消耗と、迫り来る敵の足音だった。彼は炉の隣に倒れ伏し、意識を保つのが精一杯だった。

「来るぞ」ゾーランは、顔を地下通路の入り口に向け、静かに言った。彼の杖の先端は、炉から引き出された活性化された霊力によって、今まで見たこともないほど強く輝いていた。

地下の階段から、黒曜石の鎧を纏った影の兵士たち、シャドウストーカーの一団が雪崩れ込んできた。彼らの指揮官は、ヴァレリウスではないが、虚無の瘴気を強く放つ巨大な異形の魔物だった。

「この炉は渡さん!」ゾーランは叫び、杖を床に打ちつけた。

ゴオオオオ!

炉から溢れ出た霊力が、ゾーランの杖を通じて、部屋全体に広がる古代のルーンに流れ込んだ。広間全体が青い光に包まれ、侵入者と炉の間に、堅固な**霊力防壁レイライン・バリア**が展開された。

シャドウストーカーたちは防壁に突撃したが、防壁は微動だにしない。しかし、指揮官である異形の魔物は、その強力な虚無の魔力で、防壁の特定の箇所を集中的に攻撃し始めた。霊力は削られ、バリアの青い光が次第に揺らぎ始める。

ゾーランは古代の呪文を詠唱し、バリアを維持するために全霊力を傾けた。彼はケイレンに背を向けたまま言った。「ケイレン、急いで霊力を回復させなさい!このバリアは長く持たない!」

ケイレンは指一本動かすのもやっとだった。だが、彼の全身は、炉の起動によって活性化した霊脈の力が、逆流して彼の内部に戻ってくるのを感じていた。それは、体内から湧き上がる、圧倒的な力だった。しかし、それを制御するには、時間がかかる。

指揮官の渾身の一撃がバリアを襲い、ついに防壁の一部が砕けた。シャドウストーカーたちが歓声を上げ、広間へと殺到しようとした、その時だった。

「誰にも、ここを通り抜けさせない」

声は低く、しかし鋼のように鋭く響いた。通路の入り口から、一人の女戦士が姿を現した。

エララだった。彼女はまだ傷が完全に癒えていないにも関わらず、銀白色の甲冑を纏い、両手に短剣を構えていた。彼女の銀髪は汗に濡れていたが、紫紺の瞳には迷いが一切なく、ノースガードの守護者としての決然たる意志が宿っていた。

彼女の鎧の表面は、竜の炉の活性化によって増幅された霊力によって、青白い光を放っていた。彼女は最早、ただの逃亡者ではない。彼女自身が、この砦の力を纏った、覚醒の騎士となっていた。

「ゾーラン様、ご支援感謝いたします。ですが、ここからは私が引き受けます」

エララはシャドウストーカーの群れに単独で飛び込んだ。彼女の動きは、以前の俊敏さに加え、圧倒的な力強さを増していた。短剣の一撃一撃が、虚無の鎧を粉砕し、霊力を帯びた刃は、敵の構成を瞬時に崩壊させた。

指揮官の魔物が、その異様な巨体でエララに襲いかかった。エララは冷静に受け流し、両手の短剣をX字に交差させ、相手の胸部に叩き込んだ。

**キュィン!**という鋭い金属音と共に、短剣から増幅された冷気が噴出し、魔物の胸部に強烈な凍傷を負わせた。魔物は悲鳴を上げ、後退した。

「流石はノースガードの生還者!」ゾーランはバリアを修復しながら叫んだ。「だが、長時間は持たない!奴らの数は多すぎる!」

エララは深く息を吐いた。彼女の動きは優雅だが、傷はまだ癒えておらず、限界に近づいていた。

その光景を見て、ケイレンの心臓が激しく脈打った。愛する者の犠牲、守ろうとする者の献身、そして、その全てを無駄にしようとする闇の悪意。

ケイレンは、這うようにして炉の機構にもたれかかった。彼は、全身の血が凍りついているかのような消耗感を感じたが、同時に、炉の機構全体に流れる、圧倒的な竜の炎の力を感じた。

炎は、もうお前の身体の外にあるのではない。お前が炉であり、炉がお前なのだ。

内なる炉で、ブロムの声が響いた。『お前の槌だ。魂の拡張器として使え!』

ケイレンは、力を集めるのではなく、炉の機構に流れる増幅された霊脈の力を、彼の槌と身体を通じて、**『引き出す』**ことを決めた。彼は震える手で、雪の上に置いたままだった鍛冶槌を拾い上げた。

彼は立ち上がった。彼の背後には竜の炉が轟音を立て、増幅された霊力を供給していた。

「エララ!ゾーラン!」ケイレンは叫んだ。その声には、彼の疲労を感じさせない、新たな力の重みが宿っていた。

「下がってくれ!今、俺がケリをつける!」

エララとゾーランは、彼の背後から放たれる、あまりにも巨大な魔力の波動を感じて、即座に後退した。

ケイレンは槌を両手で強く握りしめた。彼は体内の力を完全に炉の力と同期させた。そして、その炉が放つエネルギー全てを、槌の先端、ただ一点に集中させた。

「真の…竜の息吹ドラゴンのいぶき!」

ケイレンの槌から放たれたのは、熱波ではない。それは、古代の竜そのものが吐き出したかのような、巨大で、純粋な白色の炎の柱だった。その炎は、破壊的な熱を持ちながらも、虚無の魔力に触れるとそれを瞬時に浄化する性質を持っていた。

真の竜の息吹は、広間全体を飲み込んだ。

シャドウストーカーの一団と指揮官の魔物は、炎に触れるや否や、悲鳴すら上げることなく、その黒い虚無の鎧ごと、白い灰と化して消滅した。闇の存在は、その純粋な生命の炎の前では、一瞬たりとも存在を維持できなかった。

炎は一瞬で燃え尽き、広間には静寂が戻った。残されたのは、ケイレンの激しい息遣いと、竜の炉の低い唸りだけだった。

ケイレンは槌に寄りかかり、再び床に崩れ落ちた。彼は、今度こそ、本当に何も残っていないという空虚感を覚えた。

エララはすぐに駆け寄り、ケイレンを抱き起こした。彼女の顔には、驚愕と、深い安堵の色が浮かんでいた。

「あなたは…やったのね」エララは震える声で言った。「それが、古竜の炎の真の力…世界を焼き尽くす力ではない。世界を守るための、原初の浄化の力だ。」

ゾーランは、杖を静かに下ろし、炉の機構をチェックした。「成功だ。炉は安定した。これで、外部の霊脈は数日は保つだろう。」

彼は、疲労困憊の二人を見つめた。「だが、これは最終戦争の始まりに過ぎない。この炎の光は、マラコールに、我々が立ち上がったことを明確に伝えた。次に奴らが送ってくるのは、師団長、あるいはそれ以上の存在だろう。」

ゾーランはケイレンの前にひざまずいた。「あなたは、銀の砦の最後の望みだ、鍛冶師ケイレン。休みなさい。我々は、来るべき最終決戦に備えなければならない。」

ケイレンは、エララの腕の中で目を閉じた。彼の旅は、故郷を飛び出し、鍛冶師の槌を握り続けた。そして今、彼は、世界を守るための、真の竜の炎を解き放つ戦士となったのだ。最終戦争は、既に始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ