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眠れる森の侯爵様

作者: 黒壺



むかーしむかし。

あるところに、神秘的な森とお城がありました。

そこには見目麗しい吸血鬼の侯爵サマが長い眠りについています。

侯爵サマは吸血鬼なので、誤って起こしてしまうと死ぬまで血を吸われてしまいます。

しかし、その際一つだけ願いを叶えて下さるので、娘と引き換えに願いを叶えて貰おうとする貴族が多くいたそうです。




ですがある太陽の欠けた日を境に、侯爵サマは眠ったまま、どんな方法をとっても目覚めなくなってしまわれました。











その日から約千年。

門の前に一人の少女がいました。

少女の名はカルミナ。

身分もへったくれも無い小市民でした。

しかし、少女はもう涙―――――寧ろ笑いを堪えて、侯爵のもとに行かなくてはいけない理由がありました。

少女にとっては何とも馬鹿馬鹿しい理由です。

でも、少女は行かねばなりませんでした。










 † †










少女は特にこれといって可愛らしいわけでもありませんでしたし、頭が良いわけでもありませんでした。

ごくごく普通の、所謂凡人というやつです。

普通の家庭に生まれ、普通に大きくなり、普通な人と結婚して、普通な子供を産んで、普通に死んでゆく。

そんな絵に描いたような「普通」の人生を送る為に生まれてきたような人でした。

しかし、今自らの意志で、その普通から外れようとしていました。

どんな理由であれ、ここの門を叩いたのは彼女の意志でした。




―――――トントントン




「たのもー」




―――――ガチャッ




一応声をかけたところで誰もいないので、勿論開けてくれる人もいません。

ちょっと寂しいですが、自分で開けました。

大きな門の右にある使用人用の入り口の鍵が壊れていることは、ちゃんと昨日の内に近くの村人から聞いていました。

用意のいいことです。




「仕方が無いじゃない。理由が理由なんですもの」




あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、最早呆れるしかありません。






さて、門の内側はどうなっているかといいますと。

長年放置されているようにはとても見えませんでした。

大方カルミナのもとにやってきた使い魔のようなイキモノが整えているのでしょう。

丁度今の季節は薔薇が見ごろのようです。




「えーと、こっちだっけ?」




しかしそんなものには一切目もくれず、使い魔に貰った地図を頼りにカルミナはずんずんと侯爵のもとへと進んでゆきます。

絢爛豪華な玄関を素通りし、重厚な鎧が威圧感を出しつつも美しい大広間はそっちのけ、派手ではあるがセンスの良い廊下でさえ目線は地図一直線。

今日の為に必死こいて掃除してきた蝙蝠達が男泣きに泣いているのがうっすら聞こえるほど、それはもう華麗なまでのシカトっぷりでどんどこ進み、とうとう侯爵の部屋の前にやって来ました。




―――――トントントン




「はぁ……おじゃましまーす」




カルミナはため息をつきながらも3回ノックで一応入室の許可を得ます。

因みに勘違いしている人多いですが、2回ノックはトイレ専用なのでかなりの失礼に当たる………………………………………………………………………………………筈です。

少なくとも少女の脳内知識ではそうでした、はい。




―――――ガチャッ




「さてと。長かったわ、ここまで――――――――――――――――――――うげキモい」




それもそのはず。

中は見渡す限り薔薇、薔薇、薔薇。

一輪でも相当な香りなのに、ここまで大量にあれば、正直言って芳香剤よりたちが悪いです。

思わずカルミナも眉間に皺が寄ります。




「何よコレ……こんなにあったら棺の大きさなんて測れないじゃない!!」











 † †











なんかもう涙よりも先に笑いが込み上げてくるほど、馬鹿馬鹿しい理由。

それは彼女の家にありました。

彼女自体は、先程も述べたように至って平凡です。

ですが彼女の父親は、この近辺ではちょっと名の知れた木工細工の職人だったのです。

基本的に山の中の村なので日常に必要なものしか作りませんが、数年前祭りの時にちょっとした店を開いて繁盛して以来、時々王都からも依頼がくるほどの腕前です。




そこに使い魔(蝙蝠ズ)は目をつけました。

主人の侯爵は美しく、洗練されたものが好きです。

常に完璧を求めます。

その為、使い魔たちはいつも主人の機嫌を損ねないように必死でした。

何千年と寝ていても、いつ目覚めるか分からないので、常に庭は整っていました。

玄関のシャンデリアに大広間の甲冑、廊下の窓の桟に至るまで、常に完璧である状態にしていました。

そんなある日。

主人の寝ている部屋に、いつものように朝切り取ったばかりの薔薇を飾ろうとしていた使い魔が、それに気付きました。

主人の服は毎日クリーニングに出したかのような状態に、身体も洗ったばかりのように清潔に、毎日毎日細心の注意を払っている筈でした。

なのに。

なのにすっかり忘れていたのです。

棺がボロボロに劣化していたことに!




ああその時の使い魔の落ち込みようといったら!

…しかし落ち込んでばかりはいられません。

使い魔は急いで完璧なものを作れる職人を探し、カルミナの父親を発見しました。

すぐさま飛んで行って(文字通り飛んで行きました)父親に依頼をしました。

ああその時の使い魔の必死さといったら!

あまりの覇気に引き受けたくなかったのに、断るに断れず、引き受けてしまったのです。




そこで何故カルミナが出てくるか。

実は侯爵の館は女人禁制ならぬ男人禁制だったのです。

木工細工士の仕事ははっきり言って力仕事です。

なので父親の弟子達もみーんな男。

母親を早くに亡くしたため、女性がカルミナ本人しかいなかったのです。




丁度その時家を空けていたカルミナ。

帰ってきて、もうそれはそれは驚きました。

吸血鬼に木乃伊になるまで血を吸い取られて死ぬなんて悲惨な死に方、真っ平です。

でも、受けてしまったからには最後までやるのが仕事。

結局断ることは出来ずに、現在に至るのでした。






 † †






「ああもう信じられない!!なんでここにきて職務妨害するよ!」




どんな方法を試しても起きなかったといってうん千年。

何かの拍子に目を覚ましてもおかしくありません。

だから出来るだけ距離を置いて測ろうと思っていたのです。

それなのに周囲には邪魔(薔薇×∞)が。

最早何者かの策略としか思えません。

とはいえ仕事は仕事。

ちゃんとしなくては顔向けが出来ません。

カルミナは棺のサイズを測るだけですので、ぱぱっと済ませてこんな危ない所とっととおさらばしたいところです。





取り敢えず縦の長さから。

薔薇を傷付けないように慎重に慎重に歩いて近くにお邪魔します。

匂いについてはもう無視って事で。

暫く懐をがさがさして、出てきたのは特大メジャー(全長6m)。

それで一気に長さを測ります。




ここで注目すべきは棺の蓋が(何故か)開いている事と、このメジャーが異常に重い事。

カルミナは一気に測ろうとして、持ち上げたときにふらつき、倒れそうなところどうにかメジャーの衝突は免れたものの――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――うっかり侯爵に衝突し、




「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!…………わ、私のふぁーすときすがっっ!!!!」




乙女の純情を(まさかの形で)奪われてしまいました。











 † †











何だかむずむずする。

長い事嗅いでいなかった、若い娘の匂いのせいか。

ああ…私はもう人の血は吸わぬと誓ったのに。

吸血鬼の血が、娘(多分)の血を求める。

理性で抑えられる内に去ってもらいたいも………………………………………………………………………………娘にしては少々口が五月蝿いな…コホン。

あーあー。

まあ、元気があって宜しいと言うところか。






私の名はオルフ=ローレン。

生まれつき侯爵としてこの地を治める宿命だったのだが、うっかり(オイ)恋をした相手が吸血鬼だったため、なら自分もと吸血鬼になった身だ。

その後夫婦で仲良く治めていたのだが(妻の存在は近くの領民以外には知られていなかったようだがな)、ある日食の日にやって来た吸血鬼ハンター(という名の蛮族)に妻を殺されてしまった。

それ以来生きる希望も失い、かといって死にたいかといわれればそんなわけもなく、ただ呆然と生きるのに飽きてしまった。

だから私は眠ることにした。

果てしない眠りだ。

いつ覚めればいいのか、自分でもよく分からない(オイ)。

今覚めてはいけない事だけは確かだ。

うっかり目の前にいる(と思われる)娘(もどき)の血を吸ってしまってはかなわないからな。

あー早くどこかへ去っていってくれないかなー←

…ん?




―――――ぶちゅ




………なんだ、今の品のない音。

あれ、なんだか口に違和k「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」




……




…うるさっ!

なんなんだこの五月蝿さ!

え?―--何々、ふぁーすときす?

ふぁーすと…first?

発音全然違うだろう…って、口の中にあるの……




「ちょっ…………!!!いきなり何をする!!」











 † †











「ちょっ…………!!いきなり何をする!」




「のわっ!?い、生きてる!!」




「馬鹿かお前は。吸血鬼は肝臓に銀の弾丸を撃ち込まないと死なないんだぞ」




「(あれ?!何だか違うくね?)…そういう問題じゃないでしょ!?何で今更生き返るのよ!」




「貴様が私にFirstKissしたからだろう。乙女の純情を奪った罪は深いからヤるんなら最後まで責任取れって小さいころから教え込まれているんだ」




「え?そんな。マジ迷惑だし」




「即答?!―――――っと、それだけじゃない。貴様私の口の中に血を注ぎ込んだだろう?処女の血だったからうっかり目が覚めてしまった…はぁ」




「…あ、ほんとだ。唇切れてら」




「それにしても本当に女なのか?どこにも凹凸が無いのだが」




「え?何この失礼な輩。殴っていい?ねぇ殴っていい?」




「お前な…仮にも夫になる者を殴るとk「ちょっと待て今何て言った!!何か聞き捨てられないこと聞いた気がする!」………『!』の使用量が半端ないな」




「いや!さっき言ったことと違うよ?!ってか細かいことは気にしないの。だからさっさとさっき言ったことをりぴーとしやがれ!!!」




「責任とって結婚する…ボソッ(かなり不本意だが仕方が無いだろう)……おい、使い魔!」




「丸聞こえなんじゃあああああああああああああああああっ」






こうして吸血鬼侯爵は清らかな乙女の口付け(と血液)によって目を覚まし、運命的な出会いをした二人は紆余曲折ありながらも無事一ヵ月後結婚し、末永く幸せに暮らしたそうです。

めでたしめでたし。






なんかいろいろとすみません(土下座っ)

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