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短めです。
翌朝、目覚めてすぐに鏡の前に立ってみる。
黒髪の乙女の称号通り、艶々サラサラの黒髪。
しかもあと数日は15歳ときた。ライムより10歳も若返ってしまった。
やりたい。夢だったアレをやってみたい。
ドレッサーの辺りを探し、ブラシや髪を結う為のリボンを見つけた。
私がやりたかったのは、ツインテールだ。
憧れの「ツインテール」R15の世界。
いやー自分で言うのもなんだけど、ネロリさんカワイイ。
カワイイが正義だとよくわかるビジュアルだ。
髪型をあーだこーだしていると、部屋のドアがノックされ「朝ごはんの準備ができました」と、声がした。マーサさんだろう。
「はーい!今行きます」私はウキウキしながら食堂へ向かう。
「おはよう御座います」
食堂に入ると、旦那様と太郎がコーヒーを飲んでいた。
太郎は私を見るなり咽せた。
ゴホゴホ咽せる太郎は捨て置いて、旦那様を見る。
目が合うとハッとして「かわ…似合っている」と言ってくれた。
今、可愛いって言いかけましたよね?ふふ。そうなんです。ネロリさん可愛いんですよ。
太郎はまだ咽せていた。
気道に入ると復活するまで3分くらいはかかるよね。
お気の毒。
席に着くとマーサさんが食事を運んで来てくれたので、御礼を言うとびっくりした顔をして旦那様を見ている。
旦那様は黙って頷いていた。
その動きを見ただけで、ネロリボディーの来夢が前途多難だと察した。
食事を始めると、旦那様が「急ですまないが…」と、切り出す。
1カ月後に王城で黒髪の乙女の戴冠式と、正式な魂になった黒髪の乙女のお披露目パーティーがあるとのこと。
戴冠式のドレスは昔から決まっていて、今日の午後、この家にスタイリストさんがドレスのサイズ合わせに来る予定だそう。
「初仕事ですね。きっちり務めさせていただきます」
「ドレスは初代黒髪の乙女が決めたデザインだ。たぶん、お前と同じ日本人だと思う」そう言って太郎が意味ありげに笑った。
。。。
静かな食事が終わり、旦那様は退出。私は太郎を呼び止めた。
「マーサさんと話をしたいと思いまして…」
「……そうか。マーサならキッチンに居ると思う。案内する」
私は太郎とキッチンへ向かった。
途中、呼び方について注意を受けた。
「こちらの世界では、マネージャーはやめてくれ。ハリオドールかリオでいい。太郎もナシだ」
「ハリオとか、ドールじゃなくてリオなんですね。…オドールでもいいですか?」
「ダメだ」
ですよねー笑
「じゃあ…リオ…で。最初は慣れないと思いますが、頑張ります」
「ああ、俺もライムからネロリ呼びに変えるから」
「ライムもネロリも同じ柑橘系と言う事で、ライムのままでも良くないですか?」
「ダメだ」
ですよねー笑
「……まあ、普段はライムでもいいけどな…」
リオ…はそう言って私の頭をポンポンとした。
母が亡くなった時、リオはよくこうして慰めてくれた。
私は、幼い頃から母と二人暮らしだった。
二人で力を合わせてやってきたが、私が大学に通い始めてすぐ母親が病気になった。
奨学金の返済と母の治療費を稼ぐ為に、迷う事なくホステスを選んだ。
自分の事は後回しにするしかなかった。
学業と介護と仕事を繰り返す日々。
本当に大変だった。
仕事に支障が出ないようにと、マネージャー…リオに事情を話したら、シフトを融通してくれたり、早目に上がらせてくれたりして助けてくれた。
母親が亡くなった時、何をしていいかわからなくなっている私を支えてくれたのもリオだった。
実は、リオの事は兄の様に思っている。
「マーサ、ちょっといいか?」
洗い物をしているマーサさんにリオが声を掛ける。
ニコニコ振り返ったマーサさんの目に私が入ると笑顔が固まった。
「マーサ…そんなに構えなくて大丈夫だ。もう、今までのネロリではないから」
「…ハイ…」
リオに背中を押されて一歩前に出る
「えー…っと、、、その…。前のネロリさんがどうだったかわかりませんが、これからよろしくお願いします。
わからない事や、こちらでの生活を支えて頂けると嬉しいです」
ペコリと頭を下げる。
「……そう…本当に前のネロリ様とは違う感じだねぇ…こちらもどうぞ宜しくお願いします…」
マーサさんがぎこちなく笑ってくれた。
「マーサ、お茶を淹れてもらえるか?」
マーサさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、こちらに来た経緯や、母親の事を話す。
「母が亡くなった時、…リオには本当に良くして頂いて…リオがいなかったら立ち直れていなかったと思っています。
唯一の家族の母を亡くしましたが…そのかわりに兄が出来たと思っているんです」
そう言ってにっこりすると、マーサさんは涙ぐみ、リオは顔を真っ赤にしていた。
えー珍しい。
リオのこんな顔見た事ない。
イタズラ心が芽生えた私。
胸の前で両手を組み、ウルウルとリオを見つめて…
「いいでしょう?お兄ちゃん」
そう言ってみた。
すると後ろからガタリ!!と音がした。
見ると旦那様が具合悪そうにドアにもたれかかっていた。
「あら?ベリル様、どうしました?」
マーサさんが心配そうに近づいて行った。