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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━旅立ち篇━
8/55

迷子と探索者と鉄格子



 聖黎期せいれいき331年、某日。


 日が高くなり始めた辺り。町中を二人の男女が歩き回る。

 様々な種族の混じる人混みを掻き分けて、赤毛の戦士の少年と、治癒師なのに魔法使いの格好の緑の髪の少女は何かを探す様に町中を彷徨った。


 「見付からねぇ…。アリア、そっちにいたか?」

 「わかんないんだけどー?って言うか、アレイスぅ。どんな子だったか覚えてるのぉ~?」


 どうやら人探しの様だった。

 彼等が探してるのは、海の町『メティア』の内陸側に位置する正門近くに構える店、『友人食堂フレンドダイニング』で働く一人の少女だった。


 何処となく影の薄い白い少女とは言え、近代的なフリフリのメイド服に身を包む姿は流石に目立つと思い探すものの、影すら見付からず。聴き込みをしようにも、他所からやって来た自分達は町民に話し掛けても子供を探す不審者にしか見えない。


 おまけについ今朝方、大陸からの定期船からやって来た男が、女性に暴行を働き捕まったと言う話もある。

 冒険者であり『勇者』の仲間という身分を晒せば誤解は解けるものの、自分達の知名度が無いためか、不審がられるのも仕方無い。

 この町において、否。この島国において知名度が有るのはその『勇者』の方なのだ。


 もっとも、その『勇者』は現在、子供達に対して変態行為に走ろうとした為に他の仲間によって仕置き中で不在なのだからどうしようもない。


 「なぁ、もしかしてこれ。見付からなかったらめちゃくちゃヤバくないか…?」


 アレイスの疑問にヤレヤレと言った様に首を横に振るアリアは、当たり前の様に言った。


 「めちゃくちゃヤバいに決まってるでしょー?そんな事も分からない雑魚雑魚なのぉ?」


 アリアの何時もの煽りにアレイスは今にもキレそうだったが、一先ず怒りを納めると提案する。


 「一旦別々に探さないか?町を外周側からグルっと回って探して、港に着くまでに見つからなかったら今度は内側を探しながら店に戻るのがいいんじゃないか?」

 「いいけどぉ。間違えるんじゃないわよぉ?あんたみたいなよわよわ戦士♡なんかに、見付かりっこないけどぉ〜♡」


 アレイスの提案に、アリアは一応の同意をしつつ一度正門に戻ることにした。

 しかし、アリアは治癒術の他にも幾つか魔法は使えるのだが、今回は探索魔法を駆使しながら港まで来てもそれらしき少女を見付ける事は出来なかった。この町そのものはそれ程広くは無いのだが、小さな少女が町中をメイド服姿で闊歩してる所を見れば、間違い無く目に止まる筈だったが。町の外周、木で出来た柵の内側には見つからない。

 仕方なく今度は町の内部側を探し始めた所、黒と白が目に止まる。

 町の中央に位置する領主の家であり、同時に隣接する衛兵の詰め所と地下への階段の辺りで降りていく姿がアレイスには見えたのだ。


 「おい、あれ!」

 「どれどれぇ?」

 「あの階段!降りて行ったぞ!」


 慌ててアリアの魔法使いの着込むローブの袖を引き、追い掛けるアレイス。階段を降りようとした時、その足は一段目にも着かなかった。

 何故なら、アレイスの首根っこを衛兵によって掴まれた為、宙に浮いてるからだった。


 「こらこら少年、勝手に入っちゃいかんよ。」


 至極真っ当な忠告に、アレイスは引き下がり掛けたが、その前に自分が見た事を説明した。


 「いや!おっちゃん!今ここに小さい女の子が入って行ったんだよ!髪が白くて、奇抜なフリフリのドレスみたいなのを着た女の子が!」

 「そうそうオジサマ♡アタシみたいな可愛い女の子がもしかしたらこの中で泣いちゃってるかもだよぉ♡いいのぉ?問題になっちゃうんじゃないの〜?♡」


 アレイス達の説明に、衛兵は地面に下ろしながら答えた。


 「む?私はずっとここで警備をしていたが、誰も通ってないぞ?そもそもこんな場所にそうそう一般人が来る筈が無いんだがなぁ…。それから私はおじさんじゃない、まだ二十歳だぜ?」


 アレイス達が反論しようとすると、衛兵の言葉に二人は押し留まった。…何故なら。


 「この下は留置所でな、凶悪な犯罪者が居る場所に、一般人は面会でも無ければ中々来んよ。」




 ━━━同日、同所。留置所内にて━━━



 光は殆ど差さず、薄暗い地下の中は申し訳程度に開けられた窓格子から薫る海の匂いを押し退けて、鉄格子の錆びた臭いに混ざり、長年蓄積したかび臭さと余り清潔に扱われて居ないだろう様々な種族の匂いがこびり付いてせ返る様だった。

 この島国も平和そうに見えて完全に平和と言うわけでも無く、窃盗に殺人、火付け、国家転覆罪等、様々な勲章持ちの犯罪者がちらほらと存在した。

 尤も、今現在投獄されてるのは3人程だったのだが、そこに新人が仲間入りした訳だ。


 「よぉ、新入り。おめぇ何して捕まったんだ?」


 気さくに話し掛けるのは鉄格子を隔てて別々に分けられた囚人の一人だった。どうやらこの快適な生活空間も長い様に見える。しかし、新入りと呼ばれた男は格子に背を向け黙して語らない。


 「おれぁよぉ、山賊だったんだ。頭の下で行商人を襲って通行税を取って、気が向いたら殺してガキは売り、赤子は仲間と喰ったなぁ。…だけどよぉ、そんな事は3回しかしてねぇし、頭なんかよぉ…近所の村にゃ頼られてよぉ。護衛っつーの?そんな感じで慕われてたのよ。家族みたいなもんだったぁ。」


 この山賊の男は頼まれても居ないのに語りを続けた。


 「昔気質むかしかたぎの山賊っつーやつだなぁ。殺してって、身内護って。」


 しかし、どんなにこの男が語ろうが新入りの心は動かない。右から左へと完全に聞き流し体制だった。


 「だからおれぁここを出たらまずは捕まえた野郎の家族をブチ殺すのよ。家族殺して女子供は売って、良い女なら抱いてから売って。そんで新しい山賊の再開だ。おれが頭領か、い〜〜〜い響きだなぁ。」


 きっとそんな日はやって来ないだろう。さっさと処刑台に立たされると良い。

 しかし、他の牢から野次が飛ぶ。


 「おめぇ模範囚してんじゃねぇか。足洗って木こりでもしてた方が良いんじゃねぇの?ギャハハハ」


 柄が悪いこの男もまた、それなりの犯罪者なのだろう。こちらも投獄されてから長そうだ。

 因みにもう一人居た囚人は寝てる様だった。

 そんな最中、なにやらこの場に似付かわしくない存在がやって来た。

 黒いドレスに白いエプロンを身に纏う白い髪と白い肌の少女だ。


 「おっ?なんだこのおチビちゃん。ここは危ねぇから、さっさと帰ぇんな。」

 「よぉ、おチビちゃん!こんなトコ来てっとこわーいおじさんに怒られるぞ?悪い事は言わねぇから戻った方がいいぞ。」


 先程の男達が少し心配そうに少女に言う姿は、まるで近所のおじさんの様だった。二人でコソコソと「さっきの話、聞かれてねぇよな?」「子供の教育に悪いよな、俺達ももっと気を付けようぜ?」等と話してる。なんなんだこいつら。


 少女は感情が在るのか無いのか分からない表情で、新入りの鉄格子に触れる。そして暫く眺めて居ると、それまで鉄格子に背を向け座り込んでいた新入りがムクリと起き上がり、そして鉄格子に歩み寄る。


 「お前は………。」


 何かを言い掛けた時、地下牢への入口から人の声がし始めた。


 「すんません!本当に少しだけ探したら俺ら戻りますんで!」

 「ごめんねぇオジサマ♡ちょっとだけだからねぇ~。このよわよわ戦士が満足したらすぐ出るから♡ねっ雑ぁ魚雑ぁ魚♡」

 「え?なんで俺、けなされてんの?」


 年若い少年少女のコントが繰り広げられる中、衛兵が引いた様子で二人の監視の名目で共にする。


 「あ?なんでぇ?またガキが来たのか?」

 「もしかしてそのおチビちゃんの家族かなんかじゃねぇの?ほら、おチビちゃん。迎えが来たぞ、帰………ん?」


 しかし、二人と衛兵が入った時点で白い少女の姿は忽然と消えていた。


 「うおおおっ!?なんで消えてんだ!?まさかおばっ」

 「ひええええ!?化けて出やがった!!」


 流石に山賊達も恐怖で震え上がった。つい先程、突然現れた少女が新たな訪問者が来た途端に影もなく消えたのだ。…否、先程の少女は実在したのだろうか?

 新たに入って来た少年達も探し回るが、やはり見つからない。


 「言っただろう、ここに女の子が入る訳無いって。これで満足したかね?」

 「ハイ、すいません…お仕事の邪魔してすいません…。」

 「ごめんねぇ♡オジサマ♡今度あたしが遊んであげるからねぇ♡アレイスぅ。やっぱり見付からなかったねぇ?ねぇねぇ?恥ずかしく無いの〜?♡そんなによわよわでかっこ悪いと思わないの〜?♡」

 「スンマセン…全面的にスンマセン…」

 「君達、仲悪いの?可哀想だから責めるのはそこまでにしてあげなさい。」


 一通り探しても、結果は出なかった故か。この様に、戦士の少年は仲間の治癒師の少女から謎の言葉責めを受けながら、敢え無く立ち去るのだった。


 「…………結局、なんだったんだ?今の」

 「俺達は一体何を見せられたんだろう…?」

 「あっオッサン!あんた本当は山賊じゃないだろ!一体何をやらかしたんだよ!」

 「食い逃げと万引きだよ!やり過ぎで一ヶ月勾留だよ!そう言うおめぇこそ何をして捕まったんだよ!」

 「下着泥棒だよチクショーめ!」


 ───しょうもない二人である。



 そんな出来事は外界に放り出して、一切気にも止めていない新入りの男性は、最後まで白い少女しか見て居なかった。

 自分が何かを言い掛けた途端。否、さらなる訪問者が現れ、思わず自分が瞬きをした瞬間に、少女の姿は最初から無かったかの様に消えていた。


 しかし、確かにここに白い少女が存在した痕跡が残っていた。

 彼女が触れていた鉄格子に、一滴の血が丸く付着していたのだ。恐らくは鉄格子の錆びたささくれで指を切ったのだろう。

 男は、その血の匂いをクンクンと嗅ぎ、そして舐めた。手垢塗れで錆びた鉄格子の事など気にする様子も無く、その血を味わうと、一言呟いた。


 「お前だったのか…。俺の心を掻き乱す…。俺だけの女。」



 その日、真昼にも関わらず、狂った狼の遠吠えが響いた。




 ━━━記憶は未だ定着しない━━━

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