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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━旅立ち篇━
7/55

新たな風


 聖黎期せいれいき331年。島国、メティアの町。


 復興も完了し、『友人食堂フレンドダイニング』の運営も順調に進む頃。付呪具の売れ行きは上々だった。

 やはり赤竜レッドドラゴンとの闘いを間近で見た冒険者達は、あの勇者の様に魔法を使いながら武器を振るえるのは隙を無くせたり、或いは竜の炎を防いだ防御呪文に信頼感を抱いたのだろう。

 勇者の付呪具の噂は瞬く間にこの島国の他の2つの町へと届き、買い付けに来る商人や、冒険者もいた。

 そして目玉商品は何も付呪具だけではない。

 勇者の残した裏庭の菜園は、どうやら陣法の様な物が仕掛けられていた様で、その効果は作物に霊気が宿り、食べると体の健康が良くなるだけではなく、魂の強度が少しずつ強化されると言った物だった。

 冒険者なら誰もが求めるだけではなく、富裕層から入荷の提案も有れば、女性のお客様まで殺到した。

 健康な野菜故に、美容にも良いのが大きな理由だ。


 それから、『勇者』からの商品が届けられると共に、定期的に手紙も添えられていたりする。

 『友人食堂』宛の手紙だけではなく、実家の両親に宛てた手紙。それから商業組合宛の便箋。余り届く物では無いが冒険者ギルドに宛てられた物もあった。

 もっとも、実家や商業組合、冒険者ギルドに宛てられた便箋の内容は、『友人食堂』の皆には開けられない様に保護の呪文が施されているのだが、恐らく冒険者ギルドに宛てられた方は、旅先で起きた変異やその他に関しての注意喚起等がしたためられているのだろうか。

 とにかく、これらが途切れないと言う事は、冒険そのものは順調なのだろう。子供達はこれらを配達するのも一つの仕事であり、楽しみにもなっていた。


 そんなある日の事、孤児院宛の手紙に書かれていた内容には、新たな風が吹き込んだ。


 『付呪師の目処が立ちました。一度、そちらへ向かいます。』


 挨拶等が連ねられた文章の中に、この一文が書かれていたのだ。

 院長先生は、新たな希望に胸を踊らせ、大人達もまた不安よりも未来に期待を向けた。



 ───そんなある日。

 早朝、復興した港に大陸と交流する定期船が再開した頃、一人の男性が港に現れた。

 黒い革の服に薄汚れた麻の外套。頭に短く巻いた布は申し訳程度に顔を隠す程度で、顔立ちは整った人間の様で、しかし何処か獣臭く鼻息が荒い。獰猛な殺気を感じさせる様な血走った金色の瞳をしていた。

 その男の怪しさから、冒険者達も警戒を緩めない。


 男は、キョロキョロと周囲を見渡すと、近くに居た女性を掴まえてこう言った。


 「女を探してる。舐め回したくなる位、すげぇいい匂いの俺の女だ。この辺に居る筈だ、何か知ってるか?隠してないか?ちょっと調べさせろ!!」


 この変態は衛兵を呼ばれて捕まり、そのまま牢屋に放り込まれた。



 ───同日、孤児院にて。

 大陸からやって来た男性が、どうやら町の女性を襲って捕まったと言う噂が、この孤児院にも届いていた。

 孤児院の大人達は顔を見合わせ、各々に「嫌ねぇ」「世も末ねぇ」「子供達に危害が来ないといいけど」等と、批判的な反応なのも頷ける。

 そんな子供達には聞かせられない噂話に区切りをつける院長先生。子供達を起こし、朝食を食べさせて『友人食堂』へ向かわせた後に、『勇者』に宛てた手紙を書いた。

 例の男の事もだが、それ以上に子供達が健やかである事。勇者の両親から預かった手紙を添えた事を、したためた。

 因みに今更ながら、空間を繋ぐクローゼット。次元倉庫の中には、生きた生物は入れられず、無生物等しか入らないのである。

 つまり、勇者が旅先でこの町に生物を届けたい場合は、大陸を自力で横断したり、船で海を渡ったり等と様々な手段が必要なのだが。


 手紙をクローゼットへ入れて数刻後。


 「ただいま帰りましたわ。」


 勇者ベアトリーチェと数人の男女が目の前に居たのだった。

 院長先生は流石に驚き目を丸くしていた。それもその筈だ。ベアトリーチェは今、大陸の中央部に居た筈なのだ。

 なにやら事件を解決した直後らしく、この島国の町に戻って来るには数ヶ月から半年は掛かるだろう。それが目の前に居るのだから驚きだ。

 ベアトリーチェが言うには、「空間同士を繋げる魔法を使いました。」との事だ。


 空間の侵入側で移動者の情報をコピーして、移動先に出力するタイプでは無く、空間同士を切り取り繋げるタイプの魔法らしい。座標の固定に少し手間が掛かるらしく、空間を維持する為には扉の様な物を作って固定しないと移動先がズレるらしい。

 そして、技術的にはオーバーテクノロジーな為に町の人達に見付かる訳には行かず、モンスターや獰猛な獣が入りこまない様に場所を選ぶ為に少し時間が掛かったらしい。

 どちらにしても院長先生には馴染みの無い話だった。


「所でシュナウザー様、そちらの方々はどちら様でしょうか?」


 院長先生の質問に、ベアトリーチェは紹介をし始める。


 「わたくしの仲間です。戦士のアレイスに、魔法使いのニルファ、治癒師のアリアですわ。」


 紹介をされた仲間達の3人はそれぞれに挨拶を交わすのだが…。


 「それにしてもベティ、あんたこの町では猫を被ってるのか?」


 人間種で年若い男性戦士のアレイスが、余計な事を口ずさむ。その言葉にベアトリーチェはピキッと石になった様に固まってしまったのだ。

 そんなアレイスの脳天に狼獣人で20代前後に見える男性魔法使いの鋼鉄製の杖が振り落とされた。軽くとは言え、とても重い一撃だ。


 「アレイス君、君はもう少し空気を読みなさい。ベアトさん、コレの教育は私がして置きますので、続きをどうぞ。」


 どうやら落ち着いた賢狼の様だった。人狼ウェアウルフと違うのは理性を持ち、元々が狼の姿で人と同じ様に生活をする所だろう。

 ハイエルフの少女、魔法使い風の格好をしている治癒師のアリアが脳天を叩かれて蹲るアレイスの頭を撫でながら治癒を施す。

 因みに魔法使いのローブに刺繍された紋様は、間違いなく治癒師を表す神の御手の紋様だ。


 「ねぇねぇ、どうしてそんなに叩かれたがるのぉ~?もしかしてオッサンに叩かれるのが好きなヘンタイなのぉ~?うっわ♡キモッ♡」


 例の今流行りのアレですね?

 勇者の人選どうなってるんだ。


 そんなコントが繰り広げられる中、仲間内から一人離れ立ち尽くしてる少年が居た。ボロボロの黒いローブを着込み、顔はよく見えないが15〜16歳程に見える少年だった。

 恐らくは紹介を待ってるのだろうか?

 ようやく元に戻ったベアトリーチェは、コホンと咳払いを一つ。気を取り直して紹介を続ける。


 「この方は旅先で出合った付呪師の方です。名前はえぇと…」

 「キアラです!ベアト様の弟子を努めてます!よろしくお願いします!」


 ベアトリーチェの紹介を遮り、元気よく挨拶をする少年キアラ。大きくお辞儀をして頭を上げると、フード部分が外れる。そうして露出された顔立ちは、中性的でどちらかと言うと女の子の様な顔だった。

 院長先生は少し驚いた後、優しく微笑みながらキアラの両手を握る。


 「あらあら、元気がよくていいわね。これからよろしくお願いね?……お腹は空いてないかい?」

 「はっはい!実は朝からずっとドキドキして待ってたのでペコペコです…!」


 暖かく迎え入れてくれた様子に、ベアトリーチェは満足そうに腕を組み頷いていた。仲間達もまた、笑顔でその様子を見守る。なんだかんだ言って気のいい仲間に恵まれた様だった。




 ───。ベアトリーチェは、旅の仲間達を『友人食堂』へと案内し、中へと入った途端に恐るべき光景が目に入ったのだ。


 なんと、子供達店員の女の子は可愛らしい現代流メイド服。男の子達は動物の気ぐるみを着て接客していた。


 アレイス達が、啞然とする最中、ベアトリーチェはとても興奮してる様子だった。両目に輝く美しい金色の星はピンクのハートになっている。


 「可愛い!可愛らしいですわ♡みんな可愛すぎて家に持って帰りたいですわ♡ハァハァハァハァ♡」


 子供達をギューーーーッと抱き締めるベアトリーチェの表情は、変態そのものだった。あの優しく美しいお姉さんの姿は一体何だったのだろうか…。子供達もまた困惑して動けなくなっている。

 当然ですが、アレイス達は無言で衛兵を呼ぼうとしました。はい。


 「ちょっそこっ!無言で通報するのはやめなさい!やめてっ!」


 どうやらアレイス達にとっては日常茶飯事らしく、可愛い物を見付けると寄り道しまくる勇者の奇行に呆れ返るのが何時ものパターンだったのだ。


 「ベアトさん、正座なさい。お説教の時間ですよ。」

 「チッ…。この変態女が…。」

 「キッショ♡勇者様が子供に欲情しちゃうヘンタイさんだなんて♡終わってるよねぇ〜♡」


 仲間達から侮蔑されるベアトリーチェは、両目からアメリカンクラッカーの様な涙を流して反省するのだった。


 そこにメイド服を着た白い少女がボロボロのうさぎのぬいぐるみを抱き締めて、ちょこちょこ歩いてやって来た。やはり10〜11歳程に見える。余り成長してる様には見えなかった。


 「嬢ちゃん。今は近付かない方がいいぞ。このお姉さん、ちょっと危ないから。」

 「子供の教育に悪くなーい?ここから離した方が良いんじゃないの〜?♡」


 魔法使いニルファによる説教が続く中、白い少女は一人静かに店外へと出ていった。


 「え?あれ、拙くねぇか?」

 「子供一人でお出掛け?流石にあたしも素に戻るよね~。」


 戦士のアレイスと、治癒師のアリアはお互いに顔を見合わせた後、説教を続ける二人を置いて白い少女を追い掛けたのだった。





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