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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━王都『イディナ・ローク』篇━
53/55

冒険者学術院④



 ──シュナウザー邸『ウォールパレント』へと帰宅したエウディアは、フェニーチェが準備した食事を摂っていた。


 ベアトリーチェ達が居なくなってしまった『ウォールパレント』は、ガランとしていて凄く寂しい気持ちを感じていた。

 あんなに賑やかだったパーティが、今ではエウディアとグレイヴだけだ。

 フェニーチェや執事のウォルター。メイドや騎士も居るとは言えど、自分は本当にシュナウザー家の一員としてここに居ても良いのだろうか?…等と、不安に感じる日々を送っていた。



 そんなある日の事。エウディアがフェニーチェにお風呂の世話をして貰っていた時。エウディアの知らない女性が後から入ってきたのであった。


 「………あら?あらあらあら?」

 「おや?お帰りなさいませ。」


 エウディアのお世話をしていたフェニーチェが、どこかスンッ…と余所余所しくなったのをエウディアは感じ取った。

 その女性は金髪碧眼で、スタイルが良くフェニーチェよりも更に輪を掛けて胸が大きかった。そして顔立ちは美しく瞳の中に金の星は宿っていないものの、目元や口元がベアトリーチェにそっくりで、まるでうり二つの姉妹か親子といった程に血縁を感じたのだった。


 「ベアトリーチェ…お姉ちゃん…?」

 「あぁ!あなたがベティちゃんが手紙でよく書いてくれてたエウディアちゃんなのね?」


 パアアッと輝く様な黄金色の笑顔で両手を合わせているこの女性。やはりベアトリーチェの親族に違いない。


 「ベアトリーチェお姉ちゃん…の、お母さん…?」


 エウディアが首を傾げて尋ねると、フェニーチェがブフッと思わず噴き出してしまったのだった。

 そして顔を逸らすフェニーチェに、むーっと膨れてみせる女性は、再びエウディアへと向き直って自己紹介をしてくれた。


 「ふふふ、私はベティちゃんのお姉ちゃんよ?今はお嫁に行ったから、ベルナデット・(シュナウザー)・ローエングリンと言うお名前なのよ。よろしくね、エウディアちゃん。」


 そしてそのままエウディアを抱き上げてぎゅーっと抱き締めてしまったのだった。

 エウディアを取られてしまったフェニーチェは、悔しそうに、そして恨めしそうにベルナデットを見ていたが、気を取り直すと本題に入った。


 「それで、ローエングリンご婦人様。本日はどう言ったご要件でこちらへ?」

 「ふふふ、それは勿論ベティちゃんが帰って来たから飛んで来たのも在るけど、もう一つはディアちゃんの顔を見て置きたくて来たのも有るわよぉ?」


 フェニーチェの他人行儀な対応にも物ともせず軽く受け流してしまったベルナデットは、間違いなく大物だろう。

 エウディアは首を傾げていた。フェニーチェは、何と無く察しが付いたようで、「なるほど」と一言だけ呟くともう何も言わなかった。


 「全く、ベルちゃんもお兄さんとしての責任感が無くて困るわよねー?」

 「…?」


 エウディアはベルちゃんと呼ばれた人物に、心当たりが無かったが、フェニーチェはその名前を聞いただけで嫌そうな表情をしていた。


 「あの助平お坊ちゃまも此方にいらしてたんですね。」

 「もぉ、駄目よ?あんな子でも貴女の主なんだから。それに、好きな娘に程嫌がらせをしたい年頃だったのよ、あの頃は。」

 「使用人だからって好き勝手に胸を触られたり、スカートの中に顔を入れられたら、嫌でも嫌悪致しますよ?そもそも私はベアトリーチェお嬢様の専属なので、あの方の好き勝手にされる言われは無いのですけどね…。」

 「ふふふ、貴女は昔からベティちゃんが大好きだったものねぇ。」


 2人の話に着いて行けないエウディア。そんな小さな白い少女に、2人は、顔を見合わせて頷いていた。


 「エウディアお嬢様。ベル様とは………ベリアル・シュナウザーお坊ちゃまと言って、シュナウザー家の次男の方です。」


 フェニーチェの物凄く嫌そうな説明に、ベルナデットは少しだけ困った様に眉をひそめていた。



 ───イディナ・ローク王城の騎士宿舎で。

 ベリアル・シュナウザーは何故か苛立ちを感じていた。


 「団長、何かございましたか?」


 眼鏡を掛けた黒髪おかっぱの男性が金髪碧眼のイケメン騎士団長へと問い掛ける。


 「…………いや、きっと気の所為だ。」


 書類に向かって筆を進めるベリアルに、灰褐色の髪の女性がたしなめる様にその机に淹れたてのコーヒーを置く。


 「団長、あんた最近仕事詰めじゃないか。たまには家に帰ったらどうだい?じっくり休まないと倒れちまうよ?」


 淹れたてのコーヒーを受け取ったベリアルは、それに口を付けて首を横に振る。


 「いいや、帰った所で急に出来た妹の世話をするだけだ…。…全く、父のベアトリーチェへの甘さにはうんざりだ。」


 そしてそのまま書類に向かい始めたベリアルに、2人の騎士達は互いに肩を竦めていた。


 「…………ふん。そもそもここ暫く、頻発してる例の殺人事件の所為で、満足に家になど帰られぬよ。」


 ベリアルは、1枚の書類を睨み付けて呟いた。



 吸血鬼ハンター -D-を名乗る異常者による、猟奇殺人事件。

 発見された遺体はどれも見付かる数分前に胸を木の杭で穿たれる。

 現場には必ず羊皮紙を残す。


 そしてその羊皮紙には、血の文字が書かれている。



 「どこの誰だかは知らんが、我々騎士団を相当舐めて居ると見えるな。」


 実際に警備の目を掻い潜り、不特定多数の男性を殺して周るその手口は、あからさまに騎士団への挑戦状と見て取れるのだろう。

 そして犯人は未だにその影すら見えないのだ。


 「騎士団を甘く見られては、即ち国力を疑われる事。…その点で得をする人物と言えば、やはり反国王派だろうか。」


 ベリアルの推測は、あくまでも可能性の域でしか無い。そもそも、こんなに表立って事態を起こすやり方で王権の失墜を起こすには火種が足りない。


 「…………違うな、やはりただの愉快犯の仕業か?」


 「団長、その件の捜索、あたしに任せてくれないかい?」


 灰褐色のボサボサヘアを揺らしながら、美人の騎士がベリアルに提案をした。


 「何か心当たりでもあるのか?」

 「有るさ、大有りだね。」


 美人騎士は、自分の胸を叩いて力強く肯定する。その自信のほどをベリアルは値踏みしているのだが。


 「最近、冒険者学術院で置きた事件って言うか…小競り合いを知ってるかい?」

 「いや、知らないが。」

 「だろうね。……その件には例の団長の妹さんが関わってると言ったら…?」

 「…なんだと?」


 ベリアルは思わず立ち上がってしまった。

 しかし、それを眼鏡の騎士が抑えた。


 「行き先は女子寮だ。男の騎士達は余程の事が無い限り入れない。冒険者ギルドと騎士団の不可侵条約のせいでね。………そこで、あたしが騎士を一時(いとま)を取って、冒険者学術院に入籍して中から捜査をするのさ。」


 この美人騎士は自ら潜入捜査を買って出ると言うのだ。男で在る以上、何も手出しが出来ないベリアルは椅子に腰を降ろすと、深い溜め息を吐いた。

 これではまるで獣の館に大切な部下を生身で放り込む様な物だ。


 「………許可するべきでは無いが。……勝算は?」

 「そこはまだ何とも言えないねぇ。…ま、例の新しい妹ちゃんにでも取り入って、最悪の場合共闘って事になるかねぇ。」



 ベリアルは、それに対しても何も言えなかった。



 「冒険者を目指すとは言え、今は民間人だ。…危険が感知出来たら共闘では無く保護しろ。…忘れるなよ?冒険者ライセンスが発行されない限り、民間人は民間人だ。騎士の領分を忘れるな。」


 「じゃあ合意って事で良いんだね?………ベリアル隊長。私に任務を。」


 「騎士グロリア、冒険者学術院に潜入し、吸血鬼ハンターを自称する猟奇殺人事件の解決の糸口を探る事を任ずる。」


 「…ハッ!承りました!」


 ベリアルが、灰褐色の髪の美人騎士グロリアが用意した潜入捜索の実行書類に指輪型の判を捺すと、グロリアは舌舐めずりをしながら、部屋の外へと力強く踏み出したのだった…。



今回は冒険者学術院は出てませんけど、冒険者学術院④です。

不思議ですね。

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