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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━王都『イディナ・ローク』篇━
47/55

イディナ・ロークの事件①



 アリアの話が終わると、皆は暗い顔で俯いていた。


 「………と言う訳でぇ♡後は、アレイスも知ってるよねぇ?♡」

 「いや、その…なんでベアトリーチェに興味があったんだよ?」

 「んー?それはねー?」


 アリアは、ベアトリーチェをチラッと見る。

 そしてアレイスへと視線を戻すと、悪戯笑顔で笑い掛けた。


 「ヒミツ♡」

 「え?なんかそんなにヤバいの?一目惚れとか?」

 「似た様な感じー♡」


 なんでも無い様に言うが、アリアの瞳には見えていたのだ。

 ベアトリーチェを取り囲む様に、数多の精霊の元素で在る虹色の光の粒子が、暖かい輝きを纏って包み込んでいるのを…。


 『星の勇者』の名は、世界に祝福されし勇者の称号。『疾風の勇者』で在るショーリが風の神に愛されている様に、ベアトリーチェは星の神に愛されているのだ。


 しかし、アリアはベアトリーチェが言わない事実を態々話したりはしなかった。

 ただ、星々がベアトリーチェに何を期待しているのかを傍で見届けられればそれで満足なのである。

 ベアトリーチェから離れたエウディアが、トテトテとアリアに歩み寄り、そしてぎゅっと抱き締めた。

 アリアはその行動に首を傾けてしまうのだが、エウディアは構わずアリアの背中を撫でていた。


 「アリアお姉ちゃん…」

 「どうしたの?ディア♡」

 「……痛かったよね…?」


 ───瞬間、アリアの目から一粒の涙が溢れてしまったのだった。


 「え?え?なになにぃ?♡ディアってばぁ♡慰めてくれるのぉ?♡」

 「……。」


 無言でエウディアに背中を撫でられていると、アリアの魂の内側から暖かい何かがこみ上げて来たのだった。

 エウディアは今、アリアの削ぎ取られた魔力の源。無理矢理切り取られた魂の部分を自らの魂で癒やしているのだ。

 だからこそ勝手に溢れ出る涙を、アリアは止められずにいた。


 「えっちょっと…やだ…どうして…?」


 結局その日は、これでお開きとなってしまったのだった…。



 ───その日の夜。


 街では、とある事件が起こっていた。


 深夜だと言うのに、ガス灯の灯りのせいか周囲はほんのり明るく、深夜勤務の衛兵が街中を警戒して周っていた。

 この世界では、深夜に営業する酒場も多く、風営法等もそれなりに緩い制限なのだ。


 国の至宝で有る竜のオーブのお陰で、王都全体が雪から護られているとは言え、寒気自体は街中を包んでいる。街中に在る大きなお皿の様な燭台に薪を焚べなければ凍えて死ぬ者も現れる始末だ。


 そんな街の事情はさておき、広場近くの路上で死体が見付かったのだった。

 街中で死体が見付かるのもある意味では一般的に起こるのだが、問題は遺体の損壊具合や傍に残されていた羊皮紙の内容だ。


 死体は男性で、身体中を刃物で斬り付けられた後、心臓に木の杭が打ち付けられていたのだった。

 そして傍に有る羊皮紙には、こう書かれていた。


 『この男、スターリーは吸血鬼だ。我々吸血鬼ハンターの鉄槌を下す。 -D-』


 そして、文字の下に掌の模様が押し付けられていたのだった。




 ────翌朝のこと。

 この話は王都市民街のみならず、都市全体に拡がっていた。

 ベアトリーチェ達もまた、この話を朝には知る事となったのだった。


 「吸血鬼ハンター………ねぇ。」


 メイドのフェニーチェに髪を梳かして貰いながら、新聞を読むベアトリーチェ。

 その手にはコーヒーと、優雅なスタイルだった。


 「ベアトリーチェお嬢様、昨日さくじつベリアルお坊ちゃまにお会いしたと言うのに、もう立ち直られたのですか?」


 クスクス笑うフェニーチェに、ベアトリーチェは嫌そうな顔をする。


 「昨日!誰かさんが!わたしを!玩具に!したせいでね!」


 そう、解散したその後アリアにエウディアを取られてしまったベアトリーチェは、傷心のままに眠ってしまおうとしたのだが、フェニーチェが付き纏いアレコレお世話を焼いた結果、何故か寝巻き姿でベアトリーチェの寝所に入り込んで来て、ベアトリーチェが寝付くまでずっとフェニーチェの胸に包まれて居たのだった。

 お陰で物凄く安心して眠れたのだが、ベアトリーチェ的には屈辱だったのだろう。

 朝には普通に自分より早く起きて、身の回りの世話をするのだから、心底屈辱だったのだろう。


 ベアトリーチェは、この姉なる者を越える事は出来ないのかと思い悩む事となった。


 「あらあら、こんなに元気になったのなら、その誰かさんに感謝ですねぇ♡」

 「ぐぎぎ……!……まぁ、別に感謝はしなくもないけど。」


 何故かツンデレみたいになってしまったベアトリーチェ。

 二人の漫才は置いておこう。


 ニルファもまた、この話題を新聞で読んでから、少し街に出ると言って外出したらしい。

 執事長に「今後の方針が決まったら伝えて欲しい」と良い含めていた。


 「ニルファ………変な事に首を突っ込んでるんじゃ無いわよね…?」



 ベアトリーチェの心配を他所に、ニルファは街中を闊歩していた。


 「………で、なんで俺が駆り出されるんだよ?」


 寝起きで欠伸を漏らすグレイヴが、ニルファの後を着いて行く。


 「いやぁ、早朝の散策もたまには良いものでございましょう?グレイヴ殿も、日々酒ばかり浴びず、時には身体を動かす方が心身に良いものでしょう。」

 「余計な世話だっての…。」


 ハツラツと答えるニルファに、頭を掻きながら着いて行くグレイヴ。なんだかんだ言って帰らない辺り、グレイヴも満更では無い様子だった。


 「………で、どんなネタで連れ出した?」

 「そうですなぁ…。グレイヴ殿は、吸血鬼にお会いした事は?」


 『吸血鬼』と言う言葉を耳にしたグレイヴは、一気に身体中から赤黒い怒気を身に纏ったのだった。

 しかし冷静に返ったグレイヴは、それを瞬時に隠して顔を逸らす。


 「………いや、知らねえな。それがなんだ?俺には関係ねぇ。」

 「昨晩、出たらしいのですよ。『吸血鬼』…とやらが。」


 グレイヴは無言で煙草を取り出し、吸い始めた。


 「その『吸血鬼』とやらは、どうやら胸に木の杭を受けた様ですが、偽物でしょうな。普通に絶命していたそうですぞ。」

 「………で、それがどうした?」

 「その者を殺した者の手紙が現場に残っていたらしくてですなぁ。…それがなんでも。」



 『この男、スターリーは吸血鬼だ。我々吸血鬼ハンターの鉄槌を下す。 -D-』



 「………と、その文字の下には掌の模様が圧されていたとの事でしてな。」


 話を聞いていたグレイヴは、吸っていた煙草を噛み潰してしまった。

 そして獰猛な瞳で、虚空を見詰めて呟いた。



 「正義気取りのクソ吸血鬼が………。まだ生き残ってやがったのか…!」




 ニルファは、グレイヴのやる気に満ちた瞳を恐ろしくも楽しそうに見詰めて居たのだった…。



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