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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━王都『イディナ・ローク』篇━
46/55

アリアの罪業



 ───聖黎期213年。


 当時、王都『イディナ・ローク』の王都では、竜に対抗するための組織が発足し始めていた。


 例えば空中を飛ぶ竜を撃ち落とす為の大砲の技術。

 或いは空を舞う竜に同じフィールドで闘うべく開発された飛行魔法。

 または竜を限定的な戦場に誘き寄せる為の戦場等、様々な分野での研究が繰り広げられていたのだった。


 様々な部署が日夜意見を交わし、駆け回る最中、全く相手にされない部署が一つ、存在した。


 それは『魔導工学部』。

 名前だけを聞けば最先端の技術を誇る様に聞こえただろう。


 いわゆる魔法と科学をハイブリッドした、当時としてはそれなりに新しい分野で有り、はっきり言って研鑽や研究が足り無さすぎた為に、戦闘に置いてはまるで役に立たない部署として見向きもされなかった。

 実際に、彼等の研究内容は『雪を利用して魔力を込めた箱を長期保存可能にする』と言うものや、『魔力を流す回路を使って魔力を貯蓄して置く樽』といった様な、よく分からない物ばかりだったのだ。

 はっきり言って便利そうには全く思えないのだが、使用して見ると正しく『まるで役に立たない粗大ごみ』でしか無かった。


 そもそも、この世界に置いては科学を発展させる必要が殆ど無い為、その意味でも軽んじられていたのだ。


 そしてアリアは、その『魔導工学部』と言う部署に居た。

 元々は森で仲間達と暮らしていたエルフだったのだが、とある切っ掛けで当時の『魔術師の塔』の面々に半ば誘致され、王都『イディナ・ローク』の『魔術師の連盟ビハインド・ザ・サークル』と呼ばれる組織に属する事となった。

 ただ、アリア本人は王都の街並みに惹かれ、都会で暮らす事に憧れを持っていたので、特にわだかまりも無くすんなりと馴染んでしまっていた。

 そして何時しか、『魔術師の連盟』の『魔導工学部』の所長へと成り上がっていたのだった。


 それから時が過ぎて、聖黎期295年──。

 そんな在りし日のアリアは、資料を読みながら溜め息を吐いていた。


 「いやーこれ無理じゃね?」


 何やら手にしながらケラケラと笑うアリアは、現代とまるで見た目が変わらず、緑の髪をツインテールに結んでいる位だった。

 そして何が無理かと言えば、先程の『魔力を流す回路を使って魔力を貯蓄して置く樽』に『魔力を流すと小さな火が出る鉄の棒』を接続した物だ。


 一見、ほんの少しだけ便利そうに見えるかもだが、『魔力を流すと小さな火が出る鉄の棒〔以下、火の棒〕』を樽に接続すると、確かに火は発生した。

 だが、魔力が駄々漏れな上に一度接続したら接続部が焼けてしまい、使い切るまでは外せなかった。

 何なら鉄の棒の芯から燃えている為に、素手では持てないし、自分に燃え移る可能性すらある。

 実に危ない代物だ。


 それだけならまだ良いが、問題は樽の方だった。

 当時はコードやケーブルといった物が無く、プラグをコンセントに差し込む様に、直接接続するしか無い。

 樽自体の魔力総量も少なく、保存する分より貯蓄する労力の方が遥かに掛かる。

 魔力を流す回路故にか、回路の摩耗率も大きい。

 そしてなにより………。


 ─────デカかった。


 どの位デカいのかと言うと、樽の大きさは身体の小さなアリアの腰位で、大人が一人で持ったとしても、内部に詰められた魔力電動用の金属の粉末が兎に角重すぎて、持ち運びに不便なのだ。


 「発想は悪くないんだよねぇ。でも家に置いてても使い勝手が悪いしぃ?使い捨てなのに使い捨てられないなら邪魔だよね~?」


 この火の棒を作った研究員にネチネチと小言を言うのだが、当の本人はグスグスと泣いていた。完全にパワハラの現場である。


 「そんな訳でぇ、魔導具の改善点を纒めてみたから、自分で改善してみようねぇ。」


 厚い冊子の資料を2冊程研究員に渡すと、アリアは次の書類に目を通し始めたのだった。

 研究員は涙ながらに資料を受け取り、そして火の棒を持って出て行ってしまったのだった…。


 「アタシだって自分の研究したいのにぃ~!」


 この研究室では、時々爆発が起こるのだが、その大半が鬱憤を晴らす為に爆発するアリアなのだが、それは外には殆ど知らされていなかった。


 そして罵倒を受けた研究員は、アリア本人が改善点を纒めて参考書として手渡して居るにも関わらず、8割方は帰って来る事は無かったのだった。

 残りの2割は諦めている者。聞き流している者。アリアの罵倒を喜ぶ変態の三種だった。

 2割の者も相当だが、8割の辞めてしまった研究員も全くもって堪え性が無いものだ。



 そんな日々を過ごす内に、その2割がいつの間にか元の十割程の人数になっていた頃。いつしか『魔導工学部』は、最盛期を迎えていた。

 アリアが添削指導をして居た魔導具は、どれも素晴らしい効果を発揮していたのだ。

 無生物を入れて完全保存が出来る『空間指輪』を始め、身体の何処かに貼る事で防具としての役割をする『シールアーマー』。果ては少時間の間、魔力を用いず空を飛ぶ事が可能になる『飛行外套』など。

 どれも素晴らしい傑作だった。


 ───しかし、とある事件が起きたのだ。


 その日、アリアは何時もと変わらず研究員達の研究成果の添削指導や修正案に明け暮れていた頃。

 魔導工学部の副所長に当たる人物が、アリアに隠れて部下達を集め、とある研究を行っていた。

 彼等の研究は、最悪の形で実を結ぶ事となった。


 彼等が行っていた研究とは、一つの街を飲み込んで無限の動力を生み出す命の石を作る研究だったのだ。

 数日前より、副所長は部下達を連れて課外研究に行く旨の許可をアリアに貰っていた。

 アリアの実印付きの書類には、竜の核を用いた新エネルギーの開発…等と印されて居たのだが、アリアが見て、副所長が同伴するならば問題は無いだろうと許可を出してしまったのだ。


 お陰でアリアは研究所に詰められっ放しになってしまったのだが、新エネルギーが確立されれば、自動化の糸口も見えるだろうと、暫くの研究所生活を甘んじて受け入れていたのだった…が。


 アリアがいつも通りの業務を熟していると、突如第一騎士団に囲まれてしまったのだ。


 「『魔術師の連盟ビハインド・ザ・サークル』、魔導工学部所長、アリア。本人に相違無いな?」


 白髪白髭の老騎士が書状を読み上げながらアリアに問い詰める。老いても尚、その威勢は全く衰えない。

 アリアは何のことか理解して居なかったのだが、剣呑な雰囲気に飲まれ、同意してしまった。


 「そうだけどぉ、おじいちゃん達、アタシに何の御用?」

 「貴君には容疑が掛けられている。……罪状は、〘同僚を『新陽の街』へと送り込み、街の住民約800名を同僚達諸共に殺害し、竜に命を捧げた罪〙である。相違無いな?」


 ────意味が分からなかった。


 「現場にて生き残りし研究員達の証言に拠れば、貴君にて指示されし竜の核を用いて実験を行った所、竜の核が暴走し、街の住民の命を奪ったばかりか、研究員達にも危害を加えたと有る。……また、竜の核は暴走に耐え切れず、そのまま爆発を引き起こし、雲散霧消したと有る。」


 「………いやいやいやいや、どーゆーこと???アタシ、そんなの初耳なんだけどぉ???」


 「ふむ、確かに私個人としてはその様な事件を起こして尚、国外へ逃げない辺りを見れば真実で在るかは疑う所だが。………貴君の実印が圧されし書類が証拠として上がっておる。…大人しく着いて来られよ。」


 「………わかったわよぉ。…仕事の引き継ぎは、アタシの助手に任せるねぇ。」



 ────その後、王宮にて国王や中央国の教皇を交えた裁判が執り行われ、アリアは懲役刑となった。

 その裁判には、アリアの下から逃げて行った元研究員や、例の副所長も包帯塗れの姿で参加していて、酷くニヤついた顔でアリアを見下して居たのだが、それはどうでも良い話だった。



 それからアリアは高度な攻撃、幻惑、変性、召喚魔法等を封印され、更には魔力を大幅に抽出され、魔力量の制限まで受けてしまったのだった。

 しかし、それでもアリアは諦めず、牢獄の中で『高速魔法クイックスペル』による魔法の連射、使用魔力量の削減等、様々な手段で自身の戦い方を練磨して行ったのだった。


 因みに、アリアが抜けてしまった後の『魔導工学部』は、当たり前だが上手くいく筈もなく、今では見る影も無く落ちぶれてしまっている。




 ───それから聖黎期330年、秋。


 アリアにとっての運命の日がやって来た。




 勇者の仲間として、竜や魔王を討伐する旅に加わる事で、1次措置として釈放される事。

そして竜や魔王を討伐した暁には、魔術師の連盟ビハインド・ザ・サークル改め、魔術師の塔への帰順を約束された事。


 しかし、今のアリアにはどうでも良かった。



 勇者と呼ばれた少女。僅か17歳程の女の子、ベアトリーチェ・シュナウザーとの出会いが、アリアの心をときめかせて居たのだった…。




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