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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━古き守護者の樹竜篇━
34/55

磁気狂う幻惑の森


 隊商と星の勇者一行は、深い森の中を彷徨っていた。


 先日、谷の亀裂を繋ぐ橋が落ちていた為、迂回して崖を降り、森を抜ける道を選んだのだが、不幸な事に道は舗装されて無く辛うじて見付かった獣道を少しずつ探索しながら抜けるしか無かったのだ。

 その役割はアレイスとニルファが担ってくれた。どちらも木々生い茂る森には慣れている為か、こんな時は、とても心強い。


 アリアもまた、生命探知の魔法や道中見付けた野草を摘んでは薬にしたり、獣除けの香にして焚いたり、様々な場面で活躍していた。


 ベアトリーチェは…。


 ベアトリーチェさん…?


 ベアトリーチェさんは一体何をやっているのでしょう?


 森に入ってからずっと何やら作業をしていた。

 白衣を来たベアトリーチェが、何かの製図の様な物をずっと黙々と書きながら、魔物や獣に襲撃されては退治をし、それ以外の時間は揺れる馬車の中でずっと何かの紋様を書き続けていた。


 「お姉ちゃん…何やってるの?」


 エウディアが心配そうにベアトリーチェに声を掛けていたのだが。


 「エウディア、ちょっと役に立つものを作れないかなって、挑戦してたのよ。」


 エウディアは首を傾げる。…製図をチラッと見ると、そこに描かれてたのは鳥のような鳥じゃないような。車輪の様な者が付いた謎の物体の様に見えた。


 「うーん…。明らかにオーバーテクノロジーだし。……機械制御が出来ない分、魔法の力頼りになるのは良くない傾向だけど。…現状を打破するにはある程度は仕方ないわよね…?」


 以降、ベアトリーチェは製図の元に製作しては試して、爆発し。修正し試して微調整し、失敗して爆発させ、また1からやり直し。またまた爆発…と、様々な試みを繰り返していた。

 そうこうする内に数日が経っていた。

 魔法で水を生み出せる分、飲水には困らないのだが、いつまでも森を抜け出せないのは全員に大きなストレスを与えていた。

 この森は、磁場が狂っているのか手持ちの磁石は勿論、水を利用した磁石さえも正しい方角を向かずに困っていた。


 そんな中、ベアトリーチェはちっとも森を抜け出す手伝いをしない…と、アレイス達を苛立たせて居たのだった。

 しかし、そんな日々にも遂に終わりがやってきたのだ。


 「………出来た!!」


 勢いよく馬車を飛び出したベアトリーチェに、一行は「また爆発させるのか」と呆れていたのだが。

 「機械制御をルーンで賄うのがこんなに難しいとは思わなかったわ…。でも、ようやく上手く動かせる様になったわ!」

 全身ボロボロの姿で涙目になるベアトリーチェに、皆が白い目で見るのだが。


 「ふふふ、皆さんお揃いですね?今からわたしの作品をご覧に入れましょう。」

 「いや、それより森を抜ける方法を探すの手伝えよ。」

 「方位磁針も狂ってやがるし、雪雲のせいで星も見えねえ。木を全部切り倒す訳にもいかねぇし、参ったなぁ。」


 流石に数日間森に閉じ込められた現状に、全員の士気は低い。

 そんなネガティブなムードの皆に、エウディアが前に出た。


 「お姉ちゃんのお話…聞いてあげて?」


 エウディアが、再び竜言で歌を歌おうとしたが、ベアトリーチェはそれを止めて自信満々に胸を張る。


 「皆さん、迷路とは下から道を探して駄目でも、上から出口を探せば簡単ですよね?この様な森林でも似た様な事を言えるのでは無いでしょうか?」

 「そんなもん、木に登ってやってるよ。ただ、地面に下りて進んでるといつの間にか方向が狂うんだよ。」

 「つまり、常に上からの情報が有れば解決出来るのでは無いでしょうか?」

 「それは………そうなのか?」


 勿論、それだけでは駄目だが、少なくとも現状よりはマシだ。


 「…と言う事で、作ってみました。偵察用ドローン。」


 取り出したのは両手で抱える程の大きさのドローン。機械の替わりに様々なルーンが施され、金属板が差し込める様に作られた要石と、銅や鉄等の金属で細かい指示系統のルーンを付呪された金属板が差し込まれていた。

 更にそれらを自立飛行出来る様に作られたプロペラが着いた羽根。周囲の状況を映像で入力するカメラアイの様な装置。平行な体制を保つ為の姿勢制御用のユニット等。少しばかり大掛かりなサイズの不格好なドローンが目の前に置かれていた。


 「なんだこのおもちゃは。」

 「まぁ試作の試作の試作の試作品と言う事で、取り敢えず動かして見ますね?動かす時はこちらの操作板を使います。」


 ベアトリーチェが取り出した薄い石版の様な板は、まるで漆黒の板の様で、やはりルーンと金属の装飾がされていた。その板を起動させると、まるでスマホ画面の様に光輝き、細かい操作ボタン等が浮き出てきた。

 石版で操作を始めると、大掛かりな機械は大きな駆動音を、プロペラの音を立てて動き始めたのだった。


 「オイオイ…こんなデカい音を立てたら魔物が寄って来ちまうぞ…?」

 「そこは要改善と言う事で…。」


 ともあれ、少し動かしてみた所、取り敢えず駆動系に問題は無く。


 「と言う事で、このドローンにロープを着けて上昇させてみましょう。」

 「なんでロープ?」

 「上からだと木に隠れてわたし達の位置が分からなくなるかも知れません。…ですので、このロープの先にわたし達が居るのは間違い無いので、そこから微調整をしながら出口を探して見ましょう!」


 ベアトリーチェの言う事は突拍子もない事だった。

数日間、我関せずの態度を貫いていた様なベアトリーチェの急な発言に、誰も彼もがまるで着いて行けず。

 しかし、ここでダグラスが助け舟を出してくれた。


 「ま、このまま手をこまねいてても仕方ねぇさ。ここは騙されたと思って嬢ちゃんに任せてみようぜ?」


 こうして、磁場の狂った森脱出作戦が開始されたのだった。




 ───森の深くで、不審な者達が密会を行っていた。


 「勇者一行を森に封じ込めて数日。…何か変わりは無いか…?」


 リーダー格の男は、部下に対して現状の報告を待っていた。


 「はい、奴等は今も森に囚われてます。」

 「連中が気付く事は無いでしょう。…よもや。」


 部下達は口角を上げて笑うと─。


 「森が動いている(・・・・・・・)等と、夢にも思わない筈です…。」


 その言葉に、リーダー格の男は満足そうに嗤った。


 「このまま、奴等が疑心暗鬼に陥った所を始末するぞ。…計画は入念に行え。」




 ──そんな不審な者達の思惑はつゆ知らず。

 ドローンから送られてきた上空の映像を眺めながら、一行は口々にする。


 「森自体が動いてたのか…。」



 木々が蠢き、大地がそれに合わせて脈動し、瞬時に苔がして、認識を阻害する花粉が舞う様を見て、ようやく彼等は、一種の幻覚状態に陥っていた事を理解したのだった。



 「つまり、ここからは勇者の仕事ね…!」


 ベアトリーチェは、アレイスは、アリアは、ニルファは、戦う仕度を整えた。


 「皆、トレント狩りに行くわよ!!」


 剣を携えた勇者ベアトリーチェは、仲間達と共に森の木々へと反旗を翻したのだった。

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