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青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━プロローグ━
3/55

貴族の少女



 聖黎期せいれいき329年。



 この頃になると、世界の各地で竜の猛攻に対抗する者達が現れた始めた。

 自らを「勇者」と名乗る者や、「女神の聖別を受けた者」、「聖霊様の導きを受けし者」等、様々な理由で剣を振るい竜達を討伐し始める者達が国の援助を受けたり、または冒険者の組合を設立させて討伐に励んだり、励まなかったり。

 または、この世界の裏側に存在する『魔界』と言った場所を目指して『大魔王』を名乗る者を討つべく旅を始める者が現れたり。まぁとにかく様々な理由で旅を始める事が流行り始めたのだった。一大ムーブメントだ。

 実際に今から十年程前から、『大魔王』に依って世界征服の声明が世界中に出されたりもした物なのだから、「勇者」を名乗る連中が各地に現れるのも頷ける話だろう。


 しかし、肝心の黒竜「ディスペシア」はと言えば、未だに討伐の報告が挙がらず、竜達もまた少しずつ微弱にだが強くなっている報告が存在するのだから、人間や亜人種等の連合に取ってはイタチごっこをしてる感じすら否めない。

 竜の側もこの様に悠長で良いのだろうか?…等と甚だ疑念は募るが、これは遥か昔に国を守る守護竜だった竜が語った言葉だ。


 古来より神に依って造られし竜の寿命は尽きないとされ、外傷等で死ねば人間達と同じく魂の輪廻りんねに還り、しかし人間達とは違い輪廻転生りんねてんせいする事無く再び元の形に戻って世界に顕現けんげんし、幾度も蘇りまた殺され死ぬ。この様に、何度でも元の姿のまま、或いは元より更に強くなって蘇る様子から不死の象徴とされている程である。

 故に、竜の価値観としては時間その物に拘りが無いのかも知れないのだった。


 だが、あの黒き竜の憎悪は少しずつだが、人間達「定命」の存在。命の期限が存在する生き物達への憎しみや怒りが、染み込んで居たのだ。


 定命の者の中に竜を狩る存在が現れたとは言え、決定的な一打は無く。日々成長する竜共を相手に、一進一退を繰り返すのみ。寧ろ、人が増え続ける量より減り続ける量の方が僅かに多かった。

 結局の所、命の期限が無い竜の方が遥かに有利な事に変わりは無いのだ。

 それに、そもそも近年に於いて魔王等とか言う、竜と同じく不滅に位置する馬鹿げた存在が新たに出奔してきた事が最たる原因なのだろうか。

 定命の者の側としては、不滅の存在同士で潰し合いをしてくれればこれまた幸いなのだが、何を間違えたか竜と魔王での諍いは殆ど起きないので在る。

 これもまた神の気まぐれなのだろう…。



 ───と、ここまでがこの世界の現状である。

 今後、人間達が救われるかどうかは神頼み、勇者頼みと言う事にして…。



 聖黎期329年同年。第一大陸から少し離れた離島。

 この世界は第一、第二、第三大陸で構成されているのだが、今回の舞台は離島。離島と言えどもそれなりに大きな島国で、人間よりも獣人が多く、ウッドエルフや魚人族マーフォーク等が多く暮らしていた。

 町は大きく分けて3箇所存在し、その中でも東側に存在する町、「メティア」。この町の特徴は富裕層と貧民層の隔てが無く、海沿いに位置すると言った所だろう。

 海沿いと言うからには漁業が盛んで、船を漕いで魚を獲りに行く漁師や、浜辺で海藻や魚を干したり、特産品の塩を作る様子も伺える。

 他の町に比べたら、竜の被害は比較的に少ない方に見えるだろう。………等と言えば不安に思われるかも知れないが。今回は、魚人族の中でも特に信仰に狂った信者達に依って呼び出された深海に潜む旧神に壊滅させられたり………等は無い筈だと信じたい。


 メティアの町の中には、海で亡くなった親を持つ孤児や、内陸で山賊や盗賊達に親を奪われた子供達。または産み落とされて後に心無い親に棄てられた子供達を囲う孤児院が存在した。

 種族は人間、亜人、人魚問わず、様々な種族の子供達が居たのだが、その中に一際目立つのが銀色の髪と白い肌。そして青い瞳の少女の姿だった。

 凡そ10歳程かと思われるその少女は、誰とも戯れる事無く虚ろな目で、使い古されてヨレヨレのうさぎのぬいぐるみを手に、空を眺めて日々を過ごして居たのだが。


 ───ある日、孤児院に一人の人間族の少女がやって来た。


 その少女の見た目は凡そ16歳前後の様で、ふわふわの長い金髪と高貴な顔立ちに宝石の様な碧眼。貴族の少女が着る様な薄紫色の材質の良いドレスを着込んで、白いつば広のリボンで薔薇が誂えた帽子を被り、この場には余りにも場違いな洋装の少女。

 その隣には背格好は高めでは無く、恰幅が良くしかし頑強そうな体付きに紺のタキシードの様な格好と言った中年男性を引き連れて訪問してきたのだった。

 恰幅の良い男性は何やら孤児院の院長と話をして居る様子で、貴族の少女の方はと言えば、孤児院の孤児達を一人ひとり品定めする様な目で見定めて居たのだった。

 その中で一人、貴族の少女の目に白い少女の姿が目に止まった。

 しかし、貴族の少女が溜め息を吐くと、とてもつまらなそうに一言呟いた。


 「ここにも、あの子は居ないみたいね…。」


 誰を探して居るのかは定かでは無いが、貴族の少女は気を取り直した様で、改めて挨拶をするのだった。


 「ご機嫌よう、皆様。わたくしはベアトリーチェ・シュナウザー。シュナウザー家の末席でございます。」


 恭しく頭を下げずにお辞儀をする貴族の少女に、子供達はと言えば、一人静かな白い少女を他所に。お姫様だとか綺麗だとか、かしましく褒めるのだが、ベアトリーチェは気にせず挨拶を続けた。


 「お褒めの言葉をありがとうございます。皆様いい子ですわね。そんな皆様にご報告がございます。」


 中年男性との話を終えた院長が、やって来てベアトリーチェはその意志を子供達や大人へと向けた。


 「今日から、この孤児院の経営をこのわたくし、ベアトリーチェが預かります。…皆様には社会勉強の一貫として、わたくしが管理する土地で勉強をし、経営を覚えて貰おうと思います。」


 要するに、孤児院の子供達を大人共々自分の店で囲おうと言う企みである。

 富裕層と貧民層の隔てが少ないとは言え、貧富の差は間違いなく存在するし、この町にもストリートチルドレンが存在するのも否めない事情なのだ。

 故に、この貴族の少女は少しでも生きる為の術を与えようとこの様な策に出たのかも知れないし、或いはまた別の思惑が有っての行動なのかも知れない。


 「幸せになれるかはあなた達次第よ。だから、わたくしと一緒に頑張りましょう?」


 子供達は、ベアトリーチェの言葉に皆意気揚々と声を張り上げて同意する。院長や大人達もまた、彼女の提案に不安を抱きながらも同意するのだった。

 しかし、そんな状況に置いても白い少女はやはり感情は動かない。

 ただただ、使い古しされたうさぎのぬいぐるみを抱き締めて、雲に覆われた空を眺めて居たのだった…。



 ━━━記憶は未だ定着しない━━━

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