表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の銀竜-ドラグニア-  作者: 弓削タツミ
━プロローグ━
1/55

━━━記憶は未だ定着しない━━━

初めまして、初投稿です!

しばらくの間、病気やオンラインゲームやその他諸々の理由でこちらに投稿出来ませんでした。


ですので初めての投稿なのでよろしくお願いします。




 ━━━記憶は未だ定着しない━━━



 聖黎期せいれいき95年、名もなき雪に覆われた大地にて。

 霏霏ひひと振り続ける雪の中、疎らに灯る火の光と巨大な山の様な影。火の光が揺らめき、影の主はそれに応えるかの様に大きく揺れ動く…。

 影の主が一つ、二つと巨大な翼の様な物を大きく振り回す度に火の影は一つ、二つと消えて行く…。


 火の光の中に、一つ大きな炎が燃え上がる。

 大きな炎の主が影の主へと跳び移ると、影の主は振り払う様に動くのだが、それは適わず。遂には炎の主に屈して地面へと倒れ臥してしまった…。


 火の光と巨大な影の決着が着いた頃、先程まで降り注いでいた雪は止み、空を覆っていた黒い雲は晴れて暖かな月の光が差し込んだ…。その光に照らされた姿は、数多の人間達と、黒く巨大な赤い瞳の竜が在った。


 黒く赤目の竜は、既に事切れる寸前で………その瞳にはまるで総ての物を憎むかの様な憎悪に満ちていた。

 黒い竜は最期の言葉を紡ぐ…。



 「定命の者共…貴様等に安息は無い。」


 「我が魂が還る時、貴様等を根絶やしにしてやろう。」


 竜の最期の言葉に、人間達はどよめき混乱に溢れ返るかと思われたが…一人の男。先程、竜を討った男がそれを遮るのだった。

 その男は、手にした剣を空へと振り翳して高らかに宣言する。


 「人は、お前に負けない。この先もきっと…必ずお前を打ち倒し、平和な世界を掴み取る筈だ。」



 こうして、一人の男が勇者として讃えられ人間の世界に平和をもたらしたのだった。



 ━━━記憶は未だ定着しない━━━




 聖黎期312年、暖かな土地。緑が生い茂り、川も通った平原に一つの豊かな町が在った。その町は小高い丘の上に大きなお城を携え、町全体を石造りの城壁で覆われていた。そして町の中には緑で溢れ返り、花や木々が生い茂る中、人や亜人や陸上生活に適応した魚人族マーフォーク等の数多な種族の人々に溢れ、正門からすぐの通りには商業区があり、物流の通った交易の町の様相で在った。

 人々はこの豊かな町を「ブルーディア」と呼ぶ。豊かな町故に揉め事や問題も多い様で、街中の至る所に衛兵の詰め所が有って町中はどこにでも衛兵の姿が在った。


 そんな町の中央に存在する噴水広場で、一人のお婆さんが子供達を集めて紙芝居の読み聞かせをしていたのだった。その内容とは、数百年前に起こったとされる人と竜の戦争の物語。


 黒く赤い瞳の竜が一声空に咆えると、先程まで晴天だった空は曇り雪が降り始め、竜の翼の一羽ばたきで人間は吹き飛び、爪や牙は鋼鉄の鎧をバターの様に切り裂き、竜の口から吐き出す灼熱の火は石造りの城壁を軽く炭に変えてしまった。

 そんな竜の暴政に、人間達は諦めたかと思ったその時、一人の勇者が立ち上がったのだった。 

 勇者は数多に別れた種族を渡り、纏めて束ね、人間や亜人、人魚や天人と力を合わせて黒竜を打ち破り、そして永劫の平和を手に入れた。…と、あらすじにして纏めるとこうである。

 この話を聞いていた子供達は、竜への畏怖と共に人間達の力や勇者への憧れを各々抱いたのだろう。実際に、この出来事を元に宗教や国家が生まれたのだからその影響度は計り知れない物だ。


 しかし、そんな中にも時折例外は居る物で…。ボロボロの黒いフード付きのコートを被った少年と、泥や埃…砂塵で汚れた白いフード付きのコートを被った少女が居た。

 恐らくこの町の住民では無いだろう二人の子供は、この話を聞き片方は酷く怒りに満ちた瞳を向け、片方は酷く怯えた表情でうずくまっていたのだった。

 その様子を見たお婆さんは、心配そうに歩み寄り二人の子供達に声をかける。


 「おや?そこのおぼっちゃんたち、気分が悪いのかい?」


 手を差し伸べたその時、お婆さんの手首から先は一瞬にして消えたのだった。痛みに悶え苦しむお婆さんを他所に、少年は子供らしからぬ表情で、声色で確かな嫌悪を口から吐き出すのだった。


 「触るな…!虫けらが!」


 黒いフードの少年の瞳が赤く染まったその時、少年の身体から黒い煙の様な、或いは腐敗がそのまま具現化した様なガスの様な物が周囲に撒き散らされる。

 少年の姿が見る見る内に大きな黒い竜の物へと変化すると、大きく羽ばたき空からこのブルーディアの町を見下ろし告げた。


 「…余は、戻って来た。…余は、定命を終わらそう。…余は、世界に報復する。」


 人々が町中に突如現れた黒竜の姿に、ある者は恐れ、ある者はお伽噺とぎばなしを思い出し、またある者は…この黒竜へと弓を向け矢を放った。

 しかし、黒竜の硬い鱗の前に、鉄で拵えた矢など通る筈も無く…無闇に黒竜の怒りを買うだけで終わったのだった。


 「…余は、ディスペシア。…余は、貴様等に絶望を与える。」


 黒い竜が空へと一咆えしたその時、巨大な隕石が大陸中へと降り注いだのだった。



 ──それから、町中だけでなく世界その物が大きく変化した。

 それまで世界中で神として崇められ祀られて来た竜の一部は悪魔の仲間として処刑され、排斥され、人間の住む場所には居られなくなった。

 或いは世界の各地で空を舞う竜の姿が多く見られる様になり、時に人々を襲い、動植物を殺し、土地を焼き払うのだった。


 時に、黒い竜が置いて行った白いフードの少女はその後どうなったかと言うと。

 騒ぎの下に集まって来た町の衛兵達に捕まり、無理矢理フード付きのコートを剥がされ、角と翼、竜の尻尾が生えていた事が露見してしまった。

 …そうなると、少女の行く末は想像に難くないだろう。


 城の牢屋に一時勾留の下、翌日の処刑が決定されたのだった。

 幾重にも掛けられた厳重な封印の上で、少女は魔法の封印された檻の中に閉じ込められてしまった。


 少女に待つのは約束された死のみであり、希望など何処にも無いのだ。




 ━━━記憶は未だ定着しない━━━




 聖黎期315年、ブルーディアの町。

 今代の勇者が現れない中、本当にあの憎悪に因われた黒い竜を討ち果たせる者は現れるのだろうか?

 王政府の議論は尽きないだろう。それは仕方の無い事なのである。只でさえ混乱する市井、他の町との連携が難しくなった昨今。物流で賄って来たこの町が、ライフラインを断ち切られた現状だけでも相当な皺寄せが来ているのだが、それに輪を掛けたのが───あの日以来、国中に降り注ぐ雪だった。

 一年中振り続ける土地も有る最中、人々が期待していた勇者は現れない。…しかし、竜共の猛勢は未だ止まず。最早竜達の国家すら存在してそうな勢いで、数多くの竜達が空を飛び回る姿が目撃される。

 土地を耕すのも一苦労で、竜の気まぐれで生かされてる現状、時折人が連れ去られては家族を失い泣き暮らす家庭も存在するのだ。


 最悪な事に、疫病が蔓延まんえんする土地も存在した。発生原因を突き止める間も無く、交易自体が遮断された為に原因の究明等もする余裕が無いのだ。

 そんな世の中だからこそ、強盗や山賊。悪党は人間の中にも蔓延る物で、正しく生きる事すら難しい世の中になったとも言えるし、元からそんな物だとも言えるだろう。

 定命の世の中は最早終わったと、人々の心根に強く定着し始めていた…。



 ━━━記憶は未だ定着しない━━━



 交易都市より遥か北の町、山岳地帯に覆われた土地に一つの町が在った。

 山岳地帯に覆われて居るが故に、他の国からの侵攻を受け難く、そして町その物が木々に包まれている為に竜達に未だ気付かれていないらしき奇跡とも言える町が存在した。

 町の名前は「モータルト」、すり鉢と呼ばれる町だった。

 交易都市程では無いがそれなりに人の数は多く、人間の中にもウッドエルフや獣人が交わり、日々を質素清廉に暮らしていた。


 そんな平和なこの町に、一人の少女が到来したのだった。彼女は、泥や砂埃で汚れたボロボロの白いフードと外套に身を包み、そして。



 今正に、断頭台で首を撥ねられる寸前だった───。




 ━━ 記 憶 は 未 だ 定 着 し な い ━━




不定期掲載になります。

今回はなるべく長く掛からない様に気を付けます。

ご迷惑をおかけしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ