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おまけ:教会の秘密は喪失への恐怖

※ アストリッドとクロエの何でも講座 ※


「ご機嫌よう。私はアストリッドと申します」

「わ、私はクロエです。え、エレナはどこ?」

「今日はクロエ様と私の二人だけで皆様のお世話をさせて頂くのよ」

「……分かりました! お姉さま、私がんばります!」

「そうよ。私達も姉妹みたいなものよ。二人ともシャーリー様が妹よ、と仰ってくれたのですから」

「はいっ! お姉さまが二人も増えて嬉しい!」

「あら、エレナ様が不満そうよ」


 柱の影にクロエと似た少女が此方を羨ましそうに見ている。


「良いんですよ! エレナにもお姉さまが二人増えたってことなんだから」


「ふふ、エレナは複雑そうよ。可愛い妹を独り占めしたいのよね! それでは謎に包まれた教会とミクトーランの関係をご覧下さい」

「どーぞー!」



◆◆◆ 帝国暦 百五十年


 パスカーレ近郊


 慌てる老人三人が別棟の扉に飛び込んでいく。


「貴様、何をしている! な、何を作ろうとしている!」

「これはこれは教皇様、今は枢機卿の皆様とお呼びすれば良いですかね。組織をあまり難しく変えないで欲しいですね。ははは。下っ端には覚えるのが大変だ。で、どうされたのですか」

「黙れ! 何を作っているかと聞いている! 答えよ‼︎」

「少し冷静になって下さい。もうすぐ完成するのは今後も教会に永続的な権威と利益をもたらす仕組みですよ」

「どう言う事だ。事の次第では破門だぞ、破門だ!」


 男が不敵に笑う。


「何を仰います。物騒ですね。私は帝国連邦さえも口出しできない様にしているだけですよ」

「意味が分からない。具体的に言え!」

「この世界の医療は我々が手に入れました。だが力で攻められれば敗北するしか無い。分かりますか?」

「それがどうした? だからこそ帝国に要らぬ刺激を与えたくは無いのだよ」


 男が椅子から立ち上がり、苛立ち混じりで机の上のコップを払い除ける。床に落ちたコップが砕けガラスが散乱する。


「弱いっ! 弱すぎる。それでは利用されるだけされて捨てられてしまう。力を持つべきなのです」

「どんな力だ! 雷帝に武で敵うと思っているのか! 思い上がるのもいい加減にしろっ!」

「新たな秩序を創るにはどうしたら良いかと思案した結果、我々にも力が必要だと気付きました」

「何が言いたい! 意味が分からない。教会騎士は魔力を持たない修道士から選ばれる。稀に魔力を持ったものはいるが、そんなもの、国家騎士団の騎士一人にも及ばないだろう。何が『力』などと……」


 三人に振向き、あたかも神に伝えるかの如くに両腕を天に掲げる。表情はうっとりしている様にも見える。


「私が、このイェーレが、盾と鉾となり得る力を、悪病と薬を生み出したのです。これを気に入らない国にばら撒けばいい。そしてたっぷり怯えさせてから薬を渡せば良い」


 一瞬、言葉を失う三人の老人。


「……な、な、何を言っている? そ、そんな事を神の御使である我々が、マリータ教の信徒である我々が……出来るわけがない! その行いは正しく『人類の敵』だ!」

「悪病は自然に発生します。それを我々が救うのです。正しく『人類の救世主』ですよ」


 男は諭す様に淡々と続ける。


「無茶苦茶だ…」

「バレない訳がない!」


 老人二人からは絶望の色が強く見える。


「エルミナ国の謀略は覚えていますか? 教会の術式を奪う為に我がマリータ教の地方の教会を占拠し脅された事件を」

「当たり前だ! あれこそ信仰の力だ。神がエルミナに裁きの矢を落としたのだ。あれぞ正しく神の御意志……! 貴様……ま、まさかっ!」

「そう。あれは私が神になり代わり裁きを下したのですよ」


 老人の一人が力無く崩れ落ちる。



――エルミナ国は連邦にも入れない辺境の独立国家だが、マリータ教の信者はそれなりにいた。教会もあり、医療も同様に提供していたがエルミナ軍部の暴走で教会を占拠し術式の秘密を渡せと要求してきた。

 しかし突如としてエルミナ軍部と上層部が流行病で全滅してしまうと言う事件があった。

 これもマリータ教の権威を上げる事になった。



「私が悪病をばら撒いたのですよ。ははは、思ったより簡単でしたよ」

「ふ、ふざけるな! ひ、人の命だぞ。命を何だと思っているのだ! 庶民を含めて二千人は亡くなったと聞いている……」


 男はたっぷりと間を取り芝居がかった声色で続けた。


「……犠牲ですよ。尊い犠牲です。無駄にはできない犠牲です。だが、これで教会の権威はより確立される」

「教会の権威……き、教会の術式さえも通用しない、あの悪魔の病をお前が生み出したというのか!」

「ははは、私の愛すべき病魔、『赤熱死病』と名付けましたが、此れには貴族共の魔導は元より、万能である教会術式さえ通用しない! 完治できるのは私が作った魔導薬のみですよ」

「……狂っている」


 愉快そうな男と茫然自失の老人達。


「あまりに強過ぎて五日目から臓腑が腐り身体から血が噴き出る。七日経てばもう魔導薬を飲んでも治療は出来ません。ははは、それは正に絶望だ! 教会が民に与える魔導薬は正に天からの贈り物だ」

「悪魔の所業の間違いだろう! 背後で服に火をつけ、前から火傷の薬を渡す事が天使の御技の訳があるか!」

「ははは、エルミナと同じ様な事は今のままなら、また起きるでしょう。そこまで品行方正なら悩まないでしょうが、ほら、選んで下さい」

「何を言っている……」

「寄付に頼って日々の糧を得てボロ布を纏って街を彷徨(さまよ)い民草から馬鹿にされる生活に戻るか、この質実剛健な権威を有した貴方達が民衆に秩序と信仰を拡めるか。さあ、お選び下さい」

「き、貴様……」

「やっとだ。やっと教会が世界の中心になったのですよ。国家より強い。庶民からは羨望の眼差しで見つめられる。気付いていますか? 忘れてはいませんか? 過去、貴方達が渇望しても手に入らなかったものは、今、貴方達は自らの手に掴んでいるのですよ。ははは、良いですよ? 全てを捨てろと仰ってください。それで全て終わります」


 沈黙が支配する。それを破ったのは老人の一人だった。


「……分かった。この件はお前に任せる。研究を続けることを許可する。必要な物があれば言いなさい」

「ま、待てっ! シド! 即断しては……」

「これは……結果的には民衆の為になる……ここで私が決めなければいけない!」


 決断を出せない二人を差し置き、一人の老人が賛同する。これでマリータ教の今後の道筋は決められた。この男と共に進むと。


「そうこなくてはっ! さぁ、光り輝く道を歩きましょう。我々が照らす道を世界も歩くのです!」



 教会の中で最も重要かつ最も恥ずべき秘匿事項が生まれた。



※ オリヴェルとクルトの何でも講座 続き ※


「せめてエルヴィンとクルトじゃないと怒られるだろ」

「いえ、私は壮年の男性もテリトリーですよ」


(えっ? 演技じゃなかったの? 怖い……)


「さ、さて、謎をまとめよう。まずは教皇の話から」

「タイムリーですねぇ、流石は『影』の司令官ですね」

「何を仰います。逆に『コブラ』を指揮しているお方に茶化されるのは光栄に思えてきます。ははは、早速話を戻しましょう」


(手堅い返しだな。もう少し遊べるかな?)


 クルトはニヤニヤしている。


「教皇は東西と中央の三人でマリータ教を治めてきたが、この時を境に中央教会の教皇のみの一強体制に移管している。残り二人の教皇は枢機卿という新たに作られた立場に、まぁ格下げだな」

「あの権力の亡者達が良くそんな事を認めたものだとは思いますけどね」

「まぁ、シド教皇の決断はマリータ教の体制を維持するためにはどうしょうもなかったんでしょう。バレれば雷帝に全員真っ二つでしょうから」

「言葉通りの真っ二つだろうな……」

「と言う訳で、シドは権力闘争に勝利して、代々の教皇は自分と同じ名前にする事さえも規則としてしまった」

「ふふ、やりますね。嫌いではないですよ、そう言うのは」

「まぁ、俺もそうなんだけどね……」


 少し見つめ合う二人。クルトは表情を変えず。オリヴェルは少し鳥肌が立ち始めた。

 感じたことのない悪寒がする。やっぱり怖い。


「よ、よし。一旦『何でも講座』はここまでとさせてくれ。思いついたら、ここは増やしていくから。では本編に戻るが良い」

「姪っ子みたいなのが頑張るからって偉そうだな……。では、我々も宜しく頼む。またの機会に会えることを祈りましょう」

★一人称バージョン 2/16★

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