第五十四話【四日目】いついかなる時も②
◇◇
「リア……」
シャーリーは涙を流しながら優しく微笑んでいる。
その瞬間、ある賭けを思いついた。
もう少しだけ『わたし』が『わたし』として生きていく意味を感じる為のギャンブル。
失敗したらわたしが死ぬだけ。
それだったら賭け金は最小ですむ。
こちらに歩いてくるシャーリーに軽く微笑み返すと、ぺたんと座ったまま剣を抜き放って自らの首に当てる。もう一度シャーリーと目を合わせてから目を瞑った。
そして容赦せず力を込めていく。少しの痛みと共に、首に生温かい感触を感じる。
「ぎゃーーーー! リアーー!」
慌てて走り込んでくる足音がするわ。
乱暴に剣を奪うとわたしに抱きつくシャーリー。すぐにわたしの頬を平手打ちしてくれた。
「バカな真似するんじゃない! このバカリア!」
二人で花畑に座り込んで見つめ合う。するとシャーリーの瞳から、みるみる大粒の涙が零れ落ち始めた。
「バカリア! バカリア! 大バカリア! 自分で死のうとするなんて、このバカ! 絶対にそんなことさせないから!」
涙ながらに本気で怒る顔。わたしだけのことを思って叱ってくれる親友。
「うぐっ……ぐすっ……」
胸の中が暖かい何かで埋まっていく。空虚な暗闇が優しい何かで埋められていく。
「自殺なんて絶対に――」
「――うわーーん、ゴメンねー。リスカするメンヘラ女みたいな真似してー!」
「な、何それ……」
困惑するシャーリー。ゴメンね。
「うぐっ……で、でも、やってみて分かったの! こ、これ……はぁはぁ、凄く気持ち良いのよー! 涙が出るほど嬉しくて、感動して、快感なのーー!」
「…………ハァっ?」
目を閉じてもう一度、必死なシャーリーの顔を思い出す。それだけで心が満たされる。柔らかく暖かな涙が零れ落ちる。
わたしだけを、わたしだけのことを思って、叱ってくれる。それは愛よ。無償の愛よ!
「シャーリー、お願いがあるの」
泣き濡れた瞳を大泣きする親友に向けてまっすぐ見つめる。すると、まだ怒った顔のシャーリーと目が合った。
「何よっ!」
「わたしね……わたしね……許せないの。こんなことが起きること自体が許せないの」
「えっ、リア?」
「だから、もう、わたしで終わらさなきゃって思うの」
「うん……」
「だから、一緒に戦って。ミクトーランと戦って! 一緒に悪を打ち滅ぼす鉄槌になって!」
お前の闘争に友達を巻き込むことになる。それでも良いのか? 答えは『はい』だ。シャーリーなら受けてくれると思う。
「…………」
「えっ……」
あれ?
なんかびっくり顔してる。しかし……ここは二つ返事じゃないのか。何かプロポーズしたら保留されたような気不味さがあるわよ。
あれあれ? しかも俯いちゃったわよ。
「あっ……無理強いはしないわよ。答えはよく考えてくれて――」
言い訳のようなことが思わず口からで始めたところで、俯いたままのシャーリーがボソボソ呟き始めた。
「私……ずっとずっと一緒に戦って、そう言いたくて……でもカーディン家の呪いに巻き込みたくなくて……どうしても言えなかった」
そうか。シャーリーも同じことを悩んでいたのね。
目を瞑ったまま祈るように両手を胸に組むシャーリー。
「リア、私はあなたに誓う。カーディン家の名においてあなたに誓う。一緒に戦うわ」
そっと目を開けてニコッと微笑んでくれる。
その時、突然に悪夢のようなイメージが眼前に拡がる。
『親友の骸の前で血涙を流しながら無様に敵をただ見つめるしかできないわたし』
違う!
こんな悲しい結末は絶対に迎えさせない!
その決意を否定するようにまたも悪夢が拡がる。
『自らの誤った選択で今迄の皆の努力が水泡に帰して次々と討たれていく仲間達。その真ん中で涙を流しながら呆然と立つだけのわたし』
もう、間違えない!
いえ……間違うでしょう。道を間違っても、戻ってくる。戻ってきてやり直す!
『わたしが誤った道を戻ろう振り返ると、そこには親しい人や無垢な民衆の骸が無数に並んでいる。もう取り返すことはできない』
わたしは……わたしは……。
「リア? どうしたの……大丈夫なの?」
涙でシャーリーの姿が滲む。視線がまとまらない。息が苦しい。フラフラする。
耐えられない……わたしには悪を倒すなんて大それたこと……できないのかな。
俯きシャーリーの膝が自分の涙で濡れる様を見つめる。
「バカリア! しっかりしろ!」
両肩を掴まれた。前を見ると、優しく笑う親友の顔。
「二人いればどうにかなるわ」
そうか。一人じゃないんだ。
それなら……それなら大丈夫なのかな。
「シャーリー……もう一つお願いがあるの」
「何よ?」
わたしが自分で選択した苛烈な運命。怖くて怖くて想像するだけでまた涙が零れ落ちる。
胸に飛び込んで泣きながら懇願する。
「わたしを待っていて。あなただけは何があっても信じて待っていて。そうすればわたしは道から外れない。例え外れても戻ってこれる」
身体が震える。恐怖に震える。絶望に目の前が真っ暗になる。皆で幸せになる世界が見えない。でも、二人なら……あなたが横で戦ってくれるなら、わたしを信じて待っていてくれるなら、わたしは戦える。
すると、シャーリーの身体も少し震えていることに気付いた。
「リア、あなたのようなか細い女の子が、悪を滅ぼすなんて大それたことを震えながら誓いを立ててくれたのなら……この世界の英雄の血筋の私が戦わないわけにはいかないわね〜」
わざと勝気な感じの台詞。でも、涙声よ。わたしの頭にポタポタと水滴が落ちてきてるし。
「リア……」
髪を撫でながら優しく名前を呼んでくれた。
そっと顔を起こして顔を見ると、シャーリーは祈るように目を瞑っていた。
「私は全てを捧げます。私の全てを捧げます。そしてあなたを信じます。どんな時でもあなたを信じます。いついかなる時も、私はあなたを信じて戦う事を誓います」
祈るように答えをくれた。
そっと目が開くと、涙でクシャクシャになった顔でニコッと微笑んでくれた。
「でも、あなたが間違いそうになったら……ぶん殴って正しい道に戻すわ」
ありがとう。
嬉し過ぎて何も言わずに両手を握る。シャーリーも指を絡めてくれた。暖かい手の温度に安心する。
「シャーリー……」
「何ですか?」
柔らかに微笑むシャーリー。長い黒髪が微風に揺れている。二人なら……皆の幸せのために、わたしは戦える。
「もし、わたしが道を間違えそうな時は……」
「はい」
一人じゃない。ただ、それが嬉しくて、嬉しくて。
安心したら顔もだらしなくもなるわよ。
「もっと叱って〜、もっとわたしに怒って〜!」
「き……気持ち悪いわよ」
少しだけ距離を空けようと座ったまま後退りするシャーリー。あら寂しい。
でも逃さないわよ。
こうなったら、最期まで付き合って貰うわ。
手を離さずニヤリと笑うとビクッとしてくれた。
「変なこと考えるの……やめなさいよ」
「うん。ゴメンね」
しかし……親友からの心底真剣なお説教。
自己肯定感や承認欲求の満たされ方が凄い。恐ろしいほどの満足感よ。
はぁーー、これはもはや麻薬ね。よし、もうやらないようにしましょう。
その時、今度は呑気な声が風に乗って聞こえてきた。
『がんばったね』
『そうよ。クリスは凄いのよ』
可愛いらしい声も聞こえた。すると視界の隅に小さな女の子と美しい女性が映った気がした。
シャーリーにも聞こえたらしく、明るく楽しげな雰囲気に二人で目を見合わせる。
『クスクスクス……』
『あははは……』
そのまま二人目を瞑って耳を澄ます。
微かに二人の楽しそうな笑い声を感じた。
次第に妹の様なわたしと母の笑い声が遠ざかっていった。
「ちょっと……わたし達に全部押し付けるつもりなの? もぉ……勝手なんだから。どう思う?」
「んふふ、お母様と妹さん、リアにそっくりじゃない」
あの二人は託すことしかできないんだ。無念さを思うと心が少し痛くなる。でも憐憫は感じさせたくない。
だから、二人とも軽口を叩く。
暫くすると風の音しかしなくなった。だから諦めるように二人とも立ち上がる。
シャーリーはわたしの剣を無言で渡してくれた。受け取って鞘に収める時、ふとラルスの寂しそうな姿も見えた気がした
「バカ。もう行くわね」
アンタの敵なんか討ってあげない。化けて出て自分で討てば良いのよ。
するとラルスからの答えなのか陽射しを受けた暖かな風が吹いてきて優しく髪を撫でた。それはあたかもラルスが髪を手で梳いてくれたような感触だった。
少しだけ心が躍る。
その倍の寂しさが胸を打つ。
その寂しさを親友には見せないように笑顔を向ける。すると、憐れみを含んだ表情を直ぐに笑顔に変えてくれた。
「シャーリー、行こう!」
「はい。じゃあ、最後の戦いに行きましょう」
そうよ。最後よ。
思いついたギャンブルは二つ。
一つは成功。
だから、あと一つ。
皆を幸せにする為のギャンブル。
二人で森を歩く。
徐々に歩みを速め、最後には走っていた。
◆◆◆ 帝国歴 二百八十九年 九月
ナイアルス公国パーティス領グロワールのゲート前
小太りで覇気のない男が小走りで近づいてくる。息が切れて日差しも強くないのに汗だくだ。近くまで来ると、息も荒げているが上品に胸ポケットのハンカチを出すと顔の汗を拭いている。
「はぁはぁ……間に合いました。はぁはぁ……クルト皇太子、もう出立されますか」
嫌味な上品さとだらしない体躯がダメ男の印象を強くしている。
「ここに居ても私達にやれる事は無いのでね」
クルトは多少毒を含んだ口調で返すが、意に介さない様子で更に顔を近づけ小声で問いかけを続けている。
「まだ、うちのリア姫をお疑いで?」
(この男……情報では『影』の責任者、第一候補だが……どちらだ? うーん、会って話すと……流石に鈍感過ぎか?)
暫しの沈黙。質問とは全く違うことを考えていた。
会話の流れをまだ妨げないように続ける。
「……ふふ、ミクトーランの操り人形になっているかも、とは考えましたよ。実際、彼女に会うまでは第一容疑者でした」
七歳での接触は確実だ。あの悪魔の襲撃を逆に撃退するなんて信じ難かったのも事実だ。ナイアルスの欺瞞情報の見事さも、逆に怪しかったが……今なら全力で守りたくなるのも分からなくも無い。
「あの姫は今までも苛烈な運命に翻弄されてきました。母親は責務に耐えられず自ら死を選んだ。しかし、自らの意思で、それから逃げずに戦う事を選択したのです。あの赤熱死病と悪魔ミクトーラン達と戦う事を選択したのです」
汗だくの男、オリヴェルという男はハンカチを畳みながら涙声で語っている。
(劇場型というか……まぁ優しい男なのだろう)
「そろそろ『達』は使わなくても、良いかと思いますが?」
クルトはミクトーランが個人で騒乱を首謀している事をサラッとブッ込む。ここ数日で判明した事実の一つだ。
「ん? 彼女は自らの精神の強さと明るさで戦ってきた。私の妻も彼女のファンなんですよ」
(おぉ、無視されたか。まぁ、少し怪しいが人の良いだけの小役人としておこう)
心の中のリストからオリヴェルの名前に取り消し線を引いた。
「両国とも……いや、全ての国が百年以上に渡ってあの悪魔の言いようにされてきた。彼女達のか細い肩では荷が重過ぎる、と思っていたのですが、いやはや、活躍が過ぎます」
「今は無事に帰って来てくれる事だけを祈る毎日ですよ」
そうだ。彼女達が帰ってきたら、この小役人ではなくナイアルスと……ナイアルスの『影』と軍議を始める必要がある。
(ミクトーラン、この機会、絶対に逃さん!)
さて、本国に報告してからが忙しいな。少し付き合って帰るか。
「そう言えば、オリヴェル公も大層美人の奥方を娶ったとの噂をお聞きしましたが……」
「いや、お恥ずかしい。子宝にも恵まれたのはありがたい話です。私は一生独り身と思っていましたから。そう言えばクルト皇太子は引くて数多でしょうが、そのような噂をあまり聞きませんな」
クルトはエルヴィンをちらりと見て聞こえるように答える。
「ははは。私はエルヴィン一筋なのでね」
「クルト様! またそんな戯言をっ! 私を巻き込まないでください」
口調は丁寧だが心の底から嫌そうだ。
「まぁまぁ、本国では私とお前の春画や物語は相当に売れ筋らしいぞ」
「本国の文化を腐らせないで下さい!」
「とは言えなぁ……今回の騒動はラルス殿下、リア公女殿下、そしてお前の三角関係が原因とかでゴシップ紙は大忙しだ」
「あなたが情報をばら撒いて喜んでいるのは知っていますよ! 欺瞞情報としては最悪の一手です! 本当に、もうお止め下さい……」
「まぁまぁ、そう怒るな。有り難く思っているのだから」
民衆にはどうにか隠したい。裏の事実を知られたら、正しく『世界』がひっくり返る。民衆を騙すには自分で選べる選択肢も用意しないと詮索されてしまう。嘘か本当か判断が付きづらく、かつ面白い情報を渡してやらないと。
他愛も無い話をしていると、制服姿の男が近づいて来た。雰囲気はどう見ても上級士官、なのに部隊章も階級章も付いていない。
「指揮官、火急の知らせです!」
「……何だ?」
オリヴェルの顔があからさまに不機嫌になった。クルトに軽く一礼すると、少しだけ離れていった。
「はっ、パスカーレ近郊の……」
クルトも気配りとして反転するとエルヴィンの方を向いた。『気にせず、どうぞお話し下さい』という姿勢のつもりだった。しかし、余程の火急の話なのか、まだ聞こえる距離の内から報告を始めている。
クルトがオリヴェルに見えないようエルヴィンを小さく手招きで呼ぶ。
「あはは、気付かなかった。あの男が『影』のトップとはな。全く……ナイアルスの巧みな外交や諜報はあの男が首謀していたんだろう」
ナイアルス公国はミクトーランと因縁が深い。それはあの悪魔が操る赤熱死病の最大の戦力が『閃光騎士団』だからだろう。その為、悲劇的な最期を迎える騎士が最も多いのも、この『閃光騎士団』だ。歴代の筆頭騎士四名が戦死、その内二名は確実にミクトーランと関係して死んでいる。
そして、その事実が世界に公表されることは無い。
公女殿下の御母堂もそうだったな。自殺する前にミクトーランと邂逅した可能性も示唆されている。そもそも自殺……いや、分からないことは置いておこう。
そして公女殿下は確実にミクトーランと会っている。それも報告が正しければ二度だ。よく死ななかったものだが、一度でも会ったことが確認されれば基本は関係者全員が纏めて幽閉される。
すぐさま専属侍従を自らの妻に迎え、リアと共に戦った当時の筆頭騎士代理を帝国の有力血族に輿入れさせて二人に手出しできないようにした。リア本人には既に外交で名を馳せていたカーリン女史を専属侍従に迎えるなど、他国からすれば文句のつけようがない対策の打ちっぷりだった。
「この世界は愉快だな。エルヴィン覚えておけ。ナイアルスで一番怖いのはアイツだぞ」
少し微笑んだクルトがエルヴィンの耳元にそっと囁く。囁き終わったところで耳に息を吹きかけ遊んでいると大声が聞こえてきた。
「何だと! サベイルの街が赤熱死病で全滅?」
オリヴェルがクルトの方を一瞬見た。それはクルト達にも聞いて欲しいという意思表示に見えた。
「ザズーイ王国の中核都市の一つだぞ。人口は三万は居たはずだ」
「どうされました? サベイルはパスカーレにも近い。そんな所で全滅は普通に考えればあり得ない」
クルトもオリヴェルに同意する。制服の男が辺りを見回す。少し次の言葉を続けて良いか悩んでいる。
「構わん。続けろ」オリヴェルが促す。
「はっ、既に浄化が執り行われたとのことです……」
「どういう事だ? 閃光は全て出動中と……まさかっ!」
「は、はい。広域殲滅用の術式、『殲滅の劫火』の使用が確認されました」
術式『殲滅の劫火』はリアのような大量の魔力を有していないと発動しない。現状ではリア専用の術式だった。
「恐らく公女殿下が一人で執り行ったと考えられます」
「くそっ……なんてことだっ!」
想定していなかった。パスカーレに向かったことは察知していたが、そんな仕打ちを受けさせるために行かせたわけでは無い。
(俺の失態だ……ははは、ナターシャにどう話せば良いか悩むな)
オリヴェルの顔があまりに険しい。顔を見た制服の男が動揺するほどだ。表情を変えずにオリヴェルが部下に叫んだ。
「サベイルに『影』を派遣しろ。いつ迄に向かわせられる? どれだけ出せる?」
「そ、即応部隊は全て出払っており……」
「では、どうにかしろっ!」
クルトも真剣な顔で自分の思考に集中している。
(公女殿下がサベイルに……サベイル? 何の偽装だ。目的は何だ? ミクトーランとパスカーレ……狙いは世界……いや、世界の……世界の破滅)
最悪な想定がピタリと謎に嵌るのを感じた。
(そうか、『神の力』、マリタ・ホープか。ならば!)
「オリヴェル殿、お待ちなさい!」
王宮に駆け出しそうなオリヴェルに声をかけて引き留めるクルト。
「何だ?」
最早、昼行燈のフリをする気もないらしい。『オレを引き留めたのならそれ相応の意味があるのだろうな?』と言いたげな苛立った声色だった。
「向かうならシュルナイテです!」
「何だと? 理由を簡潔に述べてくれ」
他国の皇太子に向ける言葉遣いではない。しかし、クルトもそんなことは一切気にしていない。
「ミクトーランは公女殿下が七歳の時に『神の力に頼るか』と呟いている。ご存知ですな?」
オリヴェルは一瞬混乱した。
此方の機密情報を知っているぞ、と脅してきた? いや、何を目的に言い出した? ただの美形の優男ではないということは知っていたが、サール公女殿下共々底が見えない奴等だな。何処まで気付いている? 先ずはアレの指揮官クラス以上ということは確実だな。
一瞬でそこまで考えて、話に乗ることにした。
「お前は行け。勿論だ。それが?」
部下を蹴りつけると反転してクルトの近くに歩み寄る。蹴られた部下は少しよろけながら走っていった。
「ここ最近、多くの国々で同時多発に感染が拡がっているが、徐々に落ち着きを取り戻してきた」
「当たり前だ。我々が的確に駆逐している。それ故の結果だ」
ニコリと微笑むクルト。
「知っています。だが、ミクトーラン側とすれば、かなり大規模な作戦だ。此方の推測では、ほぼ全戦力を投入しているのではないか、と予測している」
「それは我々も同じ予測だ。時間が惜しい。早く結論を言ってくれ!」
恫喝すればするほど、クルトは楽しそうな表情に変わる。
「最初に結論は言った。『神の力』だ。全戦力を使って大した結果が出せないなら、別の手を考えていると思った方が良い。ましてミクトーランは残念ながら馬鹿ではない。パスカーレは潰したかったんじゃないかな? 邪魔されない為に」
(まだクイズ形式か!)
怒鳴ろうとした時、クルトの思考に追い付いた。そして、その結論に恐怖した。
「マリタ・ホープ…………」
「遅いぞオリヴェル! それでも『影』の司令官か?」
「五月蝿い! 早くお前らも『コブラ』でも何でも良いから向かわせろ!」
「ははっ!」
クルトは笑い出した。自分の思考について来れる者が居る。これでミクトーランとの戦いに勝てる、そう根拠無く信じることができた。
エルヴィンに振り向くと心底楽しそうに叫んだ。
「エルヴィン! 直ぐにシュルナイテに向かえ、そこが事態の中心だ。コブラを六名渡す。使いこなしてみろ!」
エルヴィンと呼ばれた若い騎士は靴を鳴らして姿勢を正した。
「イエス、ユアハイネス! コブラ一小隊と共にシュルナイテに向かいます」
そのまま二人を置いてゲートに向かって走り出した。
★一人称バージョン 2/16★




