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第四十九話【四日目】そっと目を瞑るように⑤

 震える声で問い掛けるが答えは返ってこない。自警団が槍を持ってヴィルマとマリーを追い立てる。


「マリーさん、ヴィルマさん、退いてください。ボク達は死にたくない! パスカーレに薬があるなら手に入れたい!」

「ダメです! 感染を拡げてはいけない。祈りましょう。奇跡が訪れるのを信じて」

「無理だよ……もう無理なんだ! 二、三日前は痛みも無くなり治ったと思った。でも、ここ数日は全身から痛みと出血だ。もうダメなんだ!」


 皆に巻かれた包帯は赤黒く滲んでいる。息も荒く邪魔するマリーとヴィルマを追い立てる。


「だから、パスカーレに向かいます! マリーさんとヴィルマさんも一緒に来てください」

「薬なんて無いわよ! あれば持ってきています!」

「そうです。今も懸命に製造しているはず。皆で教会で祈りながら待ちましょう!」

「教会の手先などに(たぶら)かされるなよ。金の為にお前らを騙しているのだからな」

「フレドリク司教……な、何を……」


 マリーとヴィルマを睨みつけると唾を地面に吐き捨てた。


「この女達は何故生きている? 簡単だ。自分たちはこっそりと薬を飲んだのだからな……」

「な、何を言って……わ、私達が薬を?」


 その言葉を聞いた瞬間、若者達の眼にも狂気が宿った。自分たちを取り囲む瞳の色を見たマリーとヴィルマは恐怖に震えながら後退る。


「マリーさん……信じていたのに……」

「隊長……副隊長もっ! 許せない、早く薬をよこせ!」

「待って! やめてっ!」


 二人とも城門に追い込まれた。

 若者数名が槍でヴィルマを刺そうとした時、マリーがヴィルマの前で両手を広げて立ちはだかる。しかし、躊躇なく襲う数本の槍がマリーの両肩辺りを城門に縫い付けた。


「きゃーーっ! や……やめて、や、やめなさい……」

「まだ言うか、この女めーっ!」

「あなた達、何をしているか分かってるの! ぎゃっ!」


 今度はマリーを庇ったヴィルマが背中から切り付けられた。


「やはりな! こ奴らは死なぬ。既に特別な薬を飲んだのだろう。ははは、さぁ、パスカーレに破壊と終末を齎そうではないか!」

「こ、この男の言うことを聞いてはいけません! さぁ、皆さん、教会に戻って祈りましょう」


 マリーは磔にされながら武器を手に持つ民衆に語り掛ける。その姿にどちらが正しいか分からなくなり武器を落とすものも居た。


「う、うるさい!」

「マリーさん、黙って!」


 優しく語り掛ける。


「さぁ、皆で、祈りましょう」

「うるさーい!」


 足を深く切られて動けないヴィルマ。


「あぁ……マリーを傷付けて何になる! もはや祈ることしかできないのに!」


 二人には若者達の容赦ない槍や剣が襲い、致命傷となるような傷が幾つも出来ていた。ヴィルマの声は止んでしまったが、マリーの声は止まらなかった。二人の言葉を聞かないように両耳を手で抑えていたアンナが横の若者の剣を奪いマリーに斬りつける。


「さぁ、皆で祈るのです」

「黙れーーー!」


 アンナが磔にされたマリーを斬りつける。皆が声を失ってそれを見つめる。


「皆で祈りましょう……」

「うるさいっ! 薬を寄越せ!」

「皆で祈りましょう……」

「く、薬を……イヤよ、私は死にたくない!」

「アンナ、祈るのよ。アンナ、アンナ……ゴメンね。もう……他に……できることはないのよ」

「やだ、やだ……死にたくない」


 血塗れで優しく微笑むマリーの姿を見て呆然とする周りの若者達。自らのしたことを悔いて剣や槍が手から落ちていった。

 遂にアンナの手からも剣が落ち、マリーに抱きついて跪いた。


「あなた達だけでも助けたかった。ごめんなさい……」

「うわーん、マリーさん、マリーさーん……助けて……助けて……くだ……」


 アンナがマリーに抱きつき血が混じった涙を流している。暫くするとマリーに抱きつきながらズルズルと静かに(うずくま)り、もう動くことは無かった。


「さぁ、皆も一緒に祈りましょう」


 他の若者達も、ただ三人を眺めることしか出来ない。すると、フレドリクと呼ばれた司教が面倒臭そうに演説を再開させた。


「ふん、茶番は終わりか? さぁ、パスカーレに行くぞ! 破滅を(もたら)せ! 薬を手に入れろ!」


 演説が再開されると、呆然と見つめるだけだった者たちが操られたように顔を見合わせながら剣や槍を拾い始めた。

 その時、数名の包帯まみれの少女が叫びながらフラフラと現れた。


「争いは控えなさい。もはや祈ることしかできません」

「たった今『七日遅れる者』が降臨されました……」

「マリー、ヴィルマ、見て。ほら見て。もう安心して良いのよ」


 少女達の視線を追って上空を見上げると、青い空の中を一人の少女が歩いていた。


「天使様……」


 マリーもそれ以上何も言わなかった。


 救護隊の他の子達もゾロゾロと屋敷から出てきた。

 厳かに祈る者。

 震えながら祈る者。

 隣の者と抱き合い涙を流す者。


 修道女達は『閃光騎士団』の、教会での呼び名『七日遅れる者』の役割を正確に聞かされていた。

★一人称バージョン 2/16★

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