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第四十五話【四日目】そっと目を瞑るように①

◇◇


 パスカーレとサベイルを結ぶ街道を進む二人。

 サベイル迄は馬の速歩(はやあし)で一時間程度の距離、現在の距離感で十キロと言ったところ。


「さっきの男、ミクトーランよね。枢機卿を乗っ取っていた男……」

「多分そう。サードの記憶にあるミクトーランの雰囲気と似ている。あれは多分……ミクトーラン当人」


 シャーリーがまだ混乱から抜け出せていないのか、時折頭を振っている。


「私の頭の中にはあの男の腹に刺した剣の感触まであるのよ。その後で即刻火刑になった時の呪いの声さえ覚えている」


 シャーリーの独白を聴きながら仇敵について思いを馳せる。


「やっぱり……前も言ったけど、わたしはアイツに何度も会ったことあるの……」

「うん……しかし……凄いわね。死なないだけで運がとても良いのに正気を保てているなんて奇跡に近いわ」


 感心してるシャーリー。皆んなそんなこと言うけど……あのトカゲとかカラス。そんなに凄いヤツなのかな?


「それでね、七歳の時、トカゲを倒した話はしたわよね。倒した時、底無しの悪意がわたしに『小娘め油断したぞ』と確かに言ったわ」

「そんな昔から因縁があるのね……」


 また感心してる。ニヤリと微笑んであげるとビクッとしてくれた。おもしろーい。


「でね、その前の言葉が……」

「『神の力』と言うの?」

「そう。あの時、確かに『神の力に頼るしか無い』と言っていたの。『何が『神の力』よ、偉そうに』って凄く印象に強かったのよ」


 また馬上で腕組んで目を瞑ってる。


「なるほど……神の力……マリタ・ホープがミクトーランの言う神の力、という事ね」

「さっき答えてくれた枢機卿も確かにそう言った。多分そうなんだと思う。そうなると、あいつはまだ『死の街シュルナイテ』にゾンビやオバケと一緒にいると思う」


 こちらを少し見ると、視線を戻してまた目を瞑った。あら、更にじっと考えてるわね。少し黙ってようかな。


「なるほどね……『神の力』の保管場所……。確かにあの秘宝を使うなら最適な場所かな? よしっ、じゃあシュルナイテに向かう? 私達の役目は街を救う事じゃない。世界を救う事よ」


 今度はこっちが考えちゃう。

 分かるよ、言いたいことはね。でも、ダメでしょ。


「まだ五日よ。七日目から浄化は始まるかもしれないけど、先に情報を仕入れたい。二日あれば閃光騎士団を派遣できると思う」


 真剣な顔のシャーリー。

 この先に悪いことが起きるのを知っているような顔。


「それ、あなたの役目?」

「言いたい事は分かるけど……わたしの役目よ! まだ二日あるわ」

「でも、あなたは今、閃光騎士団の看板を背負う必要はないはず」


 首を振るしか無い!


「違わない! 看板なんか無くても――」

「――今はその看板は外すべきよ!」


 うっ、食い気味で被せてきた!

 シャーリーの癖に生意気な。でも賛成できるわけがない。わたしの仕事よ!


「良い訳無いわよ! 何で分かってくれないの?」

「わからないわ! シュルナイテに直接行きましょう。街を救っても世界が終われば何の意味も無い……」

「そんな事は分かるけど、そんな事を言ってないの! シャーリーはこの世界の英雄なんでしょ! 分からないの?」


 しまった……そんなこと言うつもりなかったんだけど、売り言葉に買い言葉よね。あっ……口をパクパクさせてる。これは本気で怒ってる感じよ。


「分かるわけないっ! リアは良いよね、仕事だもの。使命や宿命とは……違う……」


 ちょっと!

 わたしの仕事は使命や宿命とは違うって?


「何それっ! ちょっと聞き捨てならないよ、その言い方!」


 シャーリーも表現間違えたみたいね。でも、流さないわよ!

 今更に謝ったって――

 

「――何よ!」


 シャーリー、ヤル気ね!


「何よっ!」

「リアのバーカ!」


 宣戦布告ね、受けたっ!


「シャーリーの……」


 息を溜めながら悪口を生成。息を呑んで防御のシャーリー。


「おたんこなす! バカ! いけず! バーカ! おたんちん! バーカ! あんぽんたん! バーーカ!」

「あぅ……あっ……うぅっ」


 困っているような、怒っているような変な表情のシャーリー。心なしか顔が痙攣しているようにも見える。

 だからって無言?


「何か言い返しなさいよっ!」

「……」

「今日のシャーリー嫌い!」


 このコミュ障め!

 馬に合図して、とっとと速度を上げる。


「やばいー、きーらーわーれーたー……」


 後ろの方から微かに聞こえるシャーリーの懺悔。

 ふーんだ!

 わざわざ『嫌い』に『今日の』を付けてあげたことにも気付きゃしない。振り返ってみてみるとオドオドして不安そうな目でこちらを見ている。

 今にも謝ってきそうよ!


「煮え切らないシャーリーはもっと嫌い!」


 大声で叫んでから馬の速度をさらに上げる。


「もーっ、イライラするよ、ホント。ほら、もっとスピー上げて」


 腹立ち紛れに馬の横腹を蹴って駆足させようと腰を少し浮かす……が、急に停まるアームガード。勢い余って馬の首に思いっきり顔をぶつける。


「痛たたた……こらっ、何で停まるの……って」


 辺りを見回すと城門が目の前にあった。


「着いた……のね……」


 アームガードの首を撫でながらそっと降りる。怖い位に静かね。街の喧騒が全く聞こえてこない。


 ここでわたしは何をしようというの? まだ自分でも整理がつかない。


 守護騎士の宿営地が見える。だがそこに行くための一歩を踏み出せないでいると、シャーリーが到着した。トランシェから優雅に降り立つが、まだおっかなびっくりでこちらを見ている。

 もっと自信持ちなさいよ、もー。


「ふん……」


 シャーリーに怯えているところは見せられない。去勢を張って歩みを進める。


「えーっ、まだ機嫌治ってないかぁ……」


 数歩分背後から小声の呟きが聞こえる。振り向くと、頭をぽりぽり掻いて愛想笑いを浮かべていた。その様子を見ると、逆に腹立たしくなる。

 無視するように前だけ見て進むことにした。


 そこかしこに大きなテントが設営されており、テントの間を縫うように進むと、本部らしき護衛付きのテントがあった。毛色の違う二人の女騎士というのは流石に物珍しいのだろう。すれ違う騎士達から遠慮無い視線が刺さる。


 しかし……全員重苦しい雰囲気を纏っている、宿営地の空気全体が重く感じるほどだ。街の外周に沿って警備している筈だが本部前の広場に百人は集まっていた。一斉に二人に視線が集まる。流石に気圧される。

 流石に不安になり隣の少女を見ると、周りの騎士では無くわたしの機嫌を伺っておどおどしている。変わらないシャーリーを見られて少し安心した。


 そのまま護衛の立っている本部テントに入っていく。


「ナイアルスよ!」


 不自然に強めに言う。両手は腰だ。


「シャーリー・カーディンです……」


 消え入りそうな声が隣からは聞こえる。

 それを聞いて不機嫌ポイントが加算される。強めの溜息を吐くと横で怯えるシャーリー。


 シャーリー、あなたの態度はわたしにとって物凄く心強いのよ……もーっ。絶対口に出してやらないっ!


 さあ、わたしはわたしの仕事をしよう。


「状況を教えてください」

★一人称バージョン 2/16★

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