第四十四話【四日目】七日遅れの姫君⑥
その質問を皮切りにシャーリーを知る子達……何か上品な美人が多いわね。一斉に声をかけ始めた。
「シャーリー様、どちらに行かれるのですか? 私達とは一緒に暮らせないのですか?」
「シャーリー様……シャーリー様は、あのシャーリー様なのですか?」
「あぅ……あっ……」
うぷぷ、シャーリーしどろもどろになってるわ。
「リアさん、あなた、その格好、もしかして……」
「公女殿下なの? あのリア公女なの?」
「ねぇ、ねぇ、リアさんはあのリアなの?」
「リアさん、リアさん、ねぇねぇ!」
「きゃーー! リア様なのーー! ラルス様と夜を共にする時はどちらが上なのですか?」
「公女殿下様……何の目的で?」
こちらにはヤバい子が混じってるわ。
徐々に騒ぎが大きくなりそう。でもうるさいくらいの姦しい騒ぎの中にいると逆に落ち着きを感じる。
皆がわたしを見つめている。
皆がわたしを気に掛けてくれる。
皆がわたしを心配してくれる。
周りが賑やかになればなるほど寂しくなったりしていた。ふと過去の『幸せで楽しい思い出』が蘇ってくると、もう戻ってこない過去を思い返して寂しく、悲しくなっていた。
今は違う。皆さんが楽しそうで幸せそうなのが本当に嬉しい。昔のわたしはいつも強がっていたのかな。だから、賑やかになると、逆に無視されたように……わたしだけ放って置かれているように感じていたのかな。
ふふふ、もしかして今の方が弱ってるのかもしれないわね。弱り過ぎて皆さんの優しい気持ちが心に染みちゃってたりして。
まっ、良いか!
「ありがとう! 騙す様な事になってゴメンね。でも凄く楽しかった。落ち着いたら、また寄らせて貰います」
ニッコリ笑顔で皆の顔を一人ずつ見ながら、手を伸ばす。握手会が始まった。
□□
うぅ、苦手な感じ……。
皆が私の一語一句を逃さないように熱心に見つめてくる。ソフィアにアストリッド、エレナとクロエ。他の子達は別のところに回されたのね。
「もう、会えないのですか? あと三年待って下さい。魅力的なレディーになって見せます!」
走ってきたばかりなのかエレナとクロエは息も絶え絶えだ。だけどクロエは力強く声を出している。
あんなに気弱でか細かったのに。強くなったわね。
自然に笑みが漏れる。
それに合わせてクロエも笑ってくれた。
「また、一緒にベッドに入ってください。昨日は本当に嬉しかった……」
爆弾発言の様な言い方をするアストリッド。
その言い方は語弊があるわよ!
ほら、クロエの瞳に炎が宿ってるわ。
「ライバルよ!」
クロエがアストリッドに叫んでいる。
そんなやり取りをよそにソフィアにそっと抱きしめられた。
「貴女の事は妹の様に思っていました。ふふふ、とても強い妹だけどね。もし生きる事に疲れてしまったら戻ってらっしゃい。また刺繍をしましょう」
ソフィアは瞳を閉じていたが涙が溢れていた。それを見たクロエとアストリッドも抱きついてきた。
人と触れ合う事は嫌いだと思っていた。違った。苦手なだけだったんだ。だって、皆が私の心に飛び込んでくれた事が、こんなにも心地良いのだから。
「いつか、この世界が平和になったら、私の役目が終わったら、また会いましょう。皆様と約束です」
「シャーリー様、生きていて下さい」
「いつの日か、また会えます様に」
「クロエ、アストリッド、あなた達は私の大事な妹よ」
パッと顔が明るくなるクロエとアストリッド。
「お姉様! えっ……お姉様?」
クロエが今の発言について一瞬首を傾げてる。花嫁と妹を天秤にかけてるのかしらね。
「まぁいいや! シャーリーお姉様!」
ふふふ、また抱きつき直してくれたわ。あらあら、エレナが嫉妬してるわよ!
◇◇
「リア、貴女の役目を果たしなさい」
アルマは気怠い修道女を演じるのを辞めたらしい。セルマが泣き濡れている横で右手を差し出しながら強く言う。
「アルマ、あなたも自分で己に課した役目、果たせる事を祈ります」
騎士風に返す。その方がアルマにも似合っている。
ぎゅっと手を握り返す。
「ふふふ、ありがとう」
アルマの変化に気付き、動揺するセルマ。それを放っておいてアルマが両手でリアの右手を握る。
「リア、悪に容赦するのは止めなさい。どんな強大な悪にも打ち勝ちなさい。そして、どんな手段を使うことになっても、必ず『勝利』と『幸福』を掴みなさい」
思わず苦笑しちゃうわよ、そんなこと……わたしがいつも考えていることを言われてもね!
「全く難しい事を言う……でも私もいつも同じ事を考えているわ」
そんなの当然よ、と言わんばかりに満面の笑みを返してあげる。するとアルマも微笑み返してくれた。
ここでセルマを始め皆さんがシャーリー達を見て羨ましくなったのか、一斉にわたし達に抱きついてきた。アルマも含めて倒れると、その上に見ていた他の者ものしかかって来るのよ。潰れちゃうわよ!
「ちょっと、公女様を潰しちゃダメよー」
流石にヤバいと思ってくれたのか、飛びついた張本人達の叫びが木霊してたわ。
◇◇
少しの間、修道女達との騒乱は続いたけど、丁寧に皆に声を掛けながらわたし達は其々の馬に乗りこんでサベイルに駆け出した。
★一人称バージョン 2/10★




