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第三十一話【三日目】人はそれを天使と呼ぶ①

◇◇◇ 少し時間を戻して昼の礼拝が終わった後


 下級貴族向け寄宿舎(リアSide)


 戻ってきた下級貴族の面々の興奮はまだ治まっていない。


「私あんなの初めて見たよ! 感激しちゃった」

「私も私も! 涙出てきちゃった」

「あの新人の子、イジワルされてたっぽかったけど……司祭様のヤツも揉みくちゃになってたね!」

「そうそう。スカッとしたよ! あははっ」

「誰なんだろうね……凄く綺麗だった」


 口々にシャーリーを褒め称えている。

 そうだろう、そうだろう。シャーリーは凄いんだぞ。鼻高々だよ!


「リアさん、何偉そうにしてるの? そう言えば、あなた最初に飛び出して握手しに行ったのよね。私、少し出遅れたらもう近づけなかったわ……」

「ふふっ、ああいうのは勢いよ!」


 よーし、向こうも頑張ってるみたいだから、こちらも何か情報ゲットしてビックリさせてやるぞ!


「わたし、やる気出て来ちゃった! 次は何するの?」

「リアさん元気ね! 昼からは礼拝堂に一般の人がお祈りに来るのよ。そこでのお迎えがお仕事よ」


 ふむ、接客だな。バイトは冬休みに近所の和菓子屋さんでお餅を丸めるお手伝いしたことがあるだけだなぁ……接客業は初めて。おっ、皆さん着替え終わってる! 出遅れちゃう、急げ〜。


「あわわ、脱ぎ方良く分かんない……」


 強引に普段着のローブを脱ごうとして腕と頭が引っ掛かり右往左往する。見かねてアルマが背中のボタンを外してくれた。


「落ち着いて、リアさん。破いてはダメよ」

「アルマさん、ありがとう! あれ? またお揃いのローブを着るのね、可愛い!」

「そうよ。はい、あなたのローブよ。サイズは……大丈夫そうね……」


 少し呆れ顔のアルマがローブを渡してくれる。キャミソール風の下着姿で受け取り早速着始めるが今度は着方が分からない。辛うじてローブは着れたが残りの色々を両手に持ち、アルマをじっと見る。


「アルマ、リアさん初めてじゃあ綺麗に着れないわよ。手伝ってあげて」


 アルマと背中合わせで少し幼い子にローブを着せているセルマが助け舟を出してくれた。


「……はい。手伝うわ」

「ありがとうアルマさん! セルマさん!」

「セルマも足りない背で頑張ってるものね……」


 背伸びしながら自分より背の高い子にボンネットという帽子を付けてあげている。


「う、うるさいアルマ! リアさんをお願いよ!」


 セルマの前にはまだ三人くらい並んでお着替えを待っている。流石に押しつけられないか、と溜息アルマ。


「……(うけたまわ)りました。はい、リアさん。ローブは……はい、着れてるわね。じゃあ付け襟を付けて。それからタブリエを着て下さい。今日は通常礼拝だからスカラプリオは省略されるわ。そうそう、コルネットじゃなくてボンネットよ。リアさんも髪が長いからバンドで纏めてから被った方が綺麗ね」


 えーっ……何も分からない。わ、わたしファッション用語は苦手よ。『ガーリーウエスタンでハイレベルコーデ』とか『こなれ感のあるワントーンコーデだからボタニカル柄のアイテムでアクセント』とか、ファッションに詳しい子の話す言葉が呪文の様に聞こえてたの。


「……」

「……はい。着せてあげるわ。覚えなさい」

「やった! アルマに感謝よ」


 両手を前に出してタブリエを着せて貰う。後ろを向いて髪をまとめてからボンネットを被らせて貰う。何かナターシャやカーリンを思い出して懐かしくなる。

 お澄まし顔で着替えさせて貰っていると、既に着替えが終わった子がこちらをじっと見てくる。


「お姉ちゃんも一人で着替えられないの?」

「そうよ。アルマさんは優しいのよ。良いでしょっ!」


 一緒にニヒヒっと笑い合う。


「ふふっ、アルマで良いわ」


 パッとアルマの方を見て「分かったわアルマ。わたしもリアと呼んで!」と伝えた。

 友達は基本呼び捨てよ!

 するとセルマも「私もセルマと呼びなさいっ」と何故か焦っている。


 ニンマリと笑顔を向けて口を開こうとした時、やり取りを聞いていた周りの小さい子達五、六人が先に「セルマ!」と呼び捨てで叫び始めた。

「あぁ、もう! あなた達は『セルマ()()』でしょ!」

「セルマ!」

「セルマ!」

「セルマ!」


 セルマの注意では合唱は止まらない。

 少し涙目。でもお着替えの手は止まらない。

 ちなみにアルマは知らんぷり。閉じた口が震えているので吹き出すのを我慢している感じ。


「コラっ! 年上のお姉さんは『さん』付けで呼びなさい!」


 着替え終わったので鼻息荒く両手を腰にちびっ子達を叱る。すると『はーい』と元気な返事が返ってきた。


「よろしい!」


 扉に向かって走りながら「セルマさん、アルマさん、リアさん」と合唱が変わった。

 セルマもホッとしてる。でも慌てて「転ぶから走らないで」と叫んでいた。「はーい」と扉の外から聞こえてきたら安心してるわ。優しいわね〜。


「うぷぷっ。私達が最後ね。さあ、行きましょうか」


 アルマは耐え切れず吹き出しながら呟いた。

★一人称バージョン 2/2★

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