第二十二話【三日目】パスカーレに行くわよ②
◇◇
パスカーレ迄は街道を半日ほどを見込んでいたが岩石砂漠を通る近道を知っていたので二時間程で到着らしい。
その間は並走するシャーリーと馬上でおしゃべり。
「んふふ、では『世界の秘密』について情報交換といきましょう。ミクトーランのことは知ってる?」
楽しそうなシャーリー。寂しかったのかな?
まぁ、掛け値なしに世界一物騒なテーマですけどね。
「詳細は教えて貰ってないの。筆頭騎士就任後しか多くは語れないって……」
「あら、そうなの?」
「うん。アイツとは多分三回くらい会ってるけど……誰だか良く知らないのよね」
「ふーん……えっ? えぇーーっ!」
シャーリーが面白い顔をしてビックリしている。
「何よ、そんなに驚くこと?」
「いや、それは凄い……というか、何で生きてるの?」
「へっ?」
ホントにビックリしてるみたいよ。
「ミクトーランが未だに正体不明なのは百年もの長い間、接触した者の全員が記憶を失うか、死んでいるかのどちらかだからよ!」
「うひゃー、そうなの?」
そうなんだ。よっぽど運が良いのね、わたし。
「……この子、えーっ? そりゃユーリアのあの兄妹が興味を持つわけね……」
ボソボソと呟くシャーリー。
「えっ、ユーリア?」
「何でもないわ。で、ミクトーランのことはどれだけ知ってるの?」
ジト目で見つめてくるシャーリー。
ムカつく。
でも、まずは情報収集よ。
「えーっと、百年前に退治されたスゴい悪者ってことだけ教わったわよ。第四期もその退治に協力したって聞いてるわ。でも――」
「なに?」
「――じゃあわたしが会ったミクトーランは誰なの?」
目が合う二人。今度は逆にシャーリーが前を向いてしまう。
「そうね……サードと閃光の第四期でミクトーランを狩り出し処刑した記憶が確かにあるわ」
今度はわたしがジト目でシャーリーを見つめる。
こういう話をするとシャーリーの頭の中はどうなっているか不思議になる。だって四人分の記憶だよ。食べたものから……殺した人まで。
一度聞いたことがあるけど理解はできなかった。
『あなたは昨日の晩御飯を思い出す時にどうやってるの?』だもんなぁ。
何か違う様な気がするけどなぁ……。
「ところで昨日は何してたの?」
シャーリーを見ながらぼーっと考えてたら痛いところを突っ込まれた。
「うっ……情報収集と悪者退治よ」
「観光と飲酒でしょ、酔っ払いさん」
「ひどーい」
ニヤニヤのシャーリーを見ながら口を尖らして捲れるしかない。
「遊んでる暇は今日からは無いわよ。さっきも言った通り。スピード勝負だから」
くそぅ……真っ当なことばかり言いよって。
「分かってるわよっ! ラルスのバカ、あいつがわたしに相談してから行けばこんな事になってないのに」
「又は、私が二人を探す事になっていた、という可能性ね」
馬上で動きを止めて無言で見つめ合う二人。
「……なるほどね。その確率は高いなぁ」
「だから、今が最善と思った方が気が楽よ。過去ばかり気にしても意味は無いわ」
おぉ、シャーリー先輩のアドバイス。聞くのも久々よ。貴族院時代を思い出すわねぇー。
「慰めてくれるんだ。嬉しい」
「えっ! 急に素直にならないでよ、照れるじゃない」
照れて動きが固くなるシャーリー可愛い。
「かーわーいーいー」
やっぱり可愛いは正義よね。
「もう、リア、真面目に聞いて! ミクトーランを崇拝する組織が教会の内部に残って活動を続けている。恐らくこれが『世界の秘密』の中で最も深い闇よ」
「組織……ん? 教会の内部?」
「そう。ミクトーラン達を追うと直ぐに教会が隠れ蓑になっちゃうの、まるで隠してるみたいに」
「……そもそも何を誰から隠すの?」
考えれば考えるほど分からない。
「どうやっているか分からないけど奴等は赤熱死病の感染を拡げていると言われているの……」
「えっ? 何それっ! どうやって! 何の為に!」
そんなことをする人間が本当にいるの?
「目的は分からない。ミクトーランが病気の元を生み出したと言われているわ。そしてイェーレ卿が薬を、希望を生み出してくれた」
「意味が分からないわ。どんな目的があっても、そんなことしちゃダメでしょ!」
納得は出来ないし、理解も出来ない、したくない!
「悪魔崇拝みたいなものよ。何処の世界にも同じ様な人々は居たでしょ?」
二人とも、少しの間の沈黙。シャーリーが続ける。
「拡がり方が広範囲すぎるの。ゲートを使ったって一人では絶対に無理なのよ。複数名が……それも多人数が組織的に感染に関わっているのは確実よ」
ここ最近はパタっと感染が止まっている事が気になる。昔から感染の仕方が多様な数年、何か試している様に地域や頻度が変わる数年が過ぎると一時的に殆ど感染が無くなっていた。あまり良い予感はしない。
大抵はその後にとんでもない規模の感染が発生していた。
「そいつらをラルスも追っているのよね。わたし達も早く追いつこう!」
「そのつもりよ。私達で片付けましょう」
シャーリー頼りになるー!
そうか。この世界の『勇者パーティー』なんだよね……って、あれ?
「ねぇ、わたしと一緒でシャーリーも一人で動いてるの? 強い魔法使いの女の子とか無骨な大男とか、なんかそういう人達と一緒に戦うイメージなんだけど」
シャーリーは有名人だから卒業したら強い人達とパーティー組むと思ってたなぁ。
ん? 何か挙動不審よ。
「ぐっ……あっ……い、一緒に戦おうって人は……家に沢山来たわよっ!……そうそう『世界の三悪』は知ってるわよね?」
ん? ぷんぷんしてる? あれっ? 話を逸らされた?
「スリー……エビル? 知らない」
慌ててニヤニヤし始めるシャーリー。
「あれーっ、ここ数年有名でしょ?」
「……ナイアルスでは聞かなかったけどなぁ」
「えーっ、常識〜。知らないの〜? 田舎者じゃな〜い」
少しムカつく言い方……。ゼスチャーもムカつく。
「何よ〜! 知らないんだからしょうがないよー」
「じゃあ教えてあげる」
シャーリーは何故か早口で話し始めた。
★一人称バージョン 1/30★




