おまけ:教会の秘密は奇跡の宝石と希望
※ セルマとアルマの何でも講座 ※
「セルマです!」
「はい。アルマよ」
背の小さな修道女はセルマと名乗り、背の高い修道女はアルマと名乗った。
「えっ、誰って? そりゃそうよね。第二十六話からしか出演しないから!」
「あら、メタ表現ね。そう。こんなのが、この後に何回かあるわよ。呆れるわね……」
セルマと名乗った修道女がニコニコしながら説明する。アルマと名乗った修道女はあまりやる気が無さそう。
「作者が話の中に組み込むのを諦めたのよ。ふふふ、と言う訳で、私達がこの世界の小難しい話を説明するわ」
「はい。じゃあセルマ、よろしく」
アルマはもうこの場に興味がないらしい。
「あなた、相変わらず……はい。じゃあ説明します。因みに、ここは設定と蘊蓄の塊。設定好きの人はじっくり楽しんでね」
――マリータ正教
「この世界で最もメジャーな宗教よ。イメージはロー○正教ね」
「セルマ……あなた、結構表現キツイわね」
「ふふ、楽しくと言っても限界があるから手短にいくわよ。マリータ正教はこの世界で数ある土着の宗教の一つでよ。土着、位は分かるわよね? 地産地消という事よ」
「多分間違ってるわ……」
「後、大事なこの世界の常識をもう一つ。魔力を持つものは貴族になるのよ、強制的に。貴族の家系でも魔力の無いものは捨てられて教会や商店に拾われるのよ、メラニーの母親みたいに」
「ふふ、私達もそうよ。あ、楽しくやってるから心配しないで。詳しくはもう少し後のお楽しみね」
アルマが楽しそうに手を振っている。
「だから教会に勤める人達は自ずと魔力がない人達ばかりなの。民が病や怪我に苦しんでいても祈ったり、薬草を渡すくらいしかできなかったの」
「貴族は気に入った民はほいほいと魔力で治すのにね」
「万能の魔力もイメージの世界だから怪我は治せても病気は治せないわ。対処療法しかできないのよ」
「それでも昔の教会の呪いよりはマシよ! だから貧乏だったの」
「そう。さっきと言ってる事が違うじゃ無いかって? それは『マリタ・ホープ』という奇跡の宝石が変えたのよ。ステキな伝説があるの。聞きたい?」
セルマの手には付箋紙だらけの分厚い本が握られている。
「セルマに全て任せてると何文字あっても足らないわ。この宝石は、はるか昔に死んだ恋人を復活させた宝石が石になったという伝説のある『元奇跡の宝石』だったの。似たのは良く観光地にあるわ」
「もう、手短過ぎよ。でも本物だったの。寝たきりのお爺ちゃん教皇を復活させちゃったのよ。それでね、教会もビックリして調べ始めたのよ、秘密裏にね」
「ふふ、二十年ほど経つと石からクリスタルに変わる、物質は出せないけど精神と肉体に影響する、効果範囲はほぼ無限、などが教会調べで分かっていったのよ」
アルマの手元には丸い石が握られている。しかし、それはクリスタルへと戻っていった。
「クリスタル状態の時、心の中を一つの願いで埋める事が出来た時、その願いを叶えてしまう事が分かったわ。声が届く範囲で祈ればオッケーよ。だから保管は大変なの。今はザズーイ王国の中核都市、シュルナイテの地下庭園の中の神殿で厳重に保管されているわよ」
「人間邪念が多いから中々難しいらしいけどね。ふふ、この辺りは秘密裏と言っても知ってる人達も多いわ。影とかコブラとか」
「アルマ! それは秘密よ。そう。ある天才がマリタ・ホープの奇跡の秘密を解き明かしたの」
「さぁ、その時の場面を少しだけ覗くわよ!」
◇◇◇ 帝国暦 百四十年
パスカーレ近郊
「イェーレ君!」
扉が勢いよく開いて三人の老人が入ってきた。全員興奮している。
「イェーレ君、君の研究の成果には毎回驚愕しかないよ!」
イェーレと呼ばれた純朴そうな青年は頭を掻きながら照れ臭そうに振り向いた。
「いえ、私の目標を達成するためには、まだまだ道半ばです。教皇様達の協力が必要です」
「謙遜だな。もっと誇って良い成果だよ。」
「そうとも。この成果は教会に莫大な利益を与えてくれる」
「君は俗物だな。ハハハ、まぁ分からんでもないが」
教皇と呼ばれる三人の老人達は上機嫌で口々に褒め称える。この世界で最も主流の宗教となっていた『マリータ正教』は中央、東、西と管轄地域を分けて、其々に教皇の肩書きを持つ者を置いていた。
「我々の悲願であるマリタ・ホープと同じ奇跡を、まさか我々の代で手にする事が出来るとは……」
「そうだ! これで、あの忌々しい貴族どもの力を借りずとも病に苦しむ人々を救うことができる」
「そして、我がマリータ教の権威もまた上がると言うものだ」
「ははは、イェーレ君、素晴らしい、素晴らしいよ」
三人の老人は握手を求めたりハグをしたりと年甲斐も無くはしゃいでいる。時折イェーレは面倒臭そうな顔をしているが、老人三人は誰も気づかなかった。
「ありがとうございます。神の奇跡により病を無くすことが確認できただけです。これを誰でも出来る様にしなければいけません」
「マリータ教の修道士だけが出来ればいい。そこは間違えない様にしてくれよ」
「そうだな。神の奇跡を庶民が出来てしまうのは困るな」
やり過ぎるなよ、という事なんだろう……低俗だな。
「はい。行使するにはどうしても特別な修行が必要となります。これはもう少し一般化出来そうですが、やはり修行はいるでしょう」
どうしても術式を使うには適性が必要らしい。相性というか、才能と言い換えるべきか……何にせよ術式を使えそうな修道士など殆ど居ない。
もっと一般化しなければ……えーい、邪魔な老人三人め。
「良いぞ、良いぞ。イェーレ君、今日は花街にでも繰り出さないか? 何ならこの部屋に呼んでもいいぞ?」
「いえ、今は研究が楽しいのです。可能であれば、放って置いてくれるのが一番励みになります」
「ほれ、不埒な事を言うから不機嫌になってしまう。さぁ邪魔しない様に退散しよう」
愉快そうに口々に勝手な事を言いながら教皇達は部屋から出ていく。
「俗物共が……」
机に向かいながらイェーレは呟いていた。
◇◇◇
※ セルマとアルマの何でも講座 続き ※
「あぁ、憧れの『イェーレ卿』。ステキよ。何処かの世界なら野○英世かパスツ○ルか、というところ。アルマもそう思うでしょ?」
「そうね。少し後にも出てくるけど、この世界の少年少女が必ず教わる偉人よ。悪魔の病気『赤熱死病』の特効薬を開発したのよ」
「そう。しかも、このお方がマリタ・ホープの奇跡の秘密を解明したのよ」
「魔導は自然界に存在する精霊の力を借りる事で発揮するわ。でも教会の術式は、マリタ・ホープの力は、その斜め上の力を発揮するのよ!」
アルマがクリスタルに祈りを向ける。すると、クリスタルは一瞬でただの石となってしまう。
「……斜め上? アルマ、はっきり言いなさい。良く分からないって。あれっ? 私背が高くなってない?」
セルマの背が高くなっている。
「マリタ・ホープにセルマの背が高くなりますように……って祈ってみたの。話を戻すわ。そう、術式の原理は分からないみたい。でも使い方は分かったの。イェーレ卿が発明した『教会術式』は魔力が無くても修行すると使える人もいるの。これも後で説明するけど、祝詞と同じようなものよ。でも正しく唱えると、この世界ではえらい事が起きちゃうの」
セルマは満更じゃないみたい。モデルポーズを決めながら説明する。
「アルマ、あなた何処出身なの……でも、そうね。術式を唱えられるのは教会でもエリートよ。皆の憧れね」
「魔力を持つ貴族は唱えられる人が多いわ。でも理解は出来ないみたい。その辺りの苦労は第一部でリアが大変だったでしょ。主人公補正で何とかなったけどね」
「説明を戻すわ。教会術式は唱える人の魂を触媒に効果を発揮するわ。だから精神力が無いと倒れたり死んだりするの」
「そう。死ぬほど祈れば死んだ人を復活させる事もできるの。イメージじゃ無いわ。祈りだもの。だから病気も治して、灰からでも人を復活させるわ」
「死ぬほど……まぁ大体死ぬけどね。それでも教会が貴族に勝った瞬間よ。これで帝国連邦と匹敵する力を教会は手に入れたわ」
「ふふ。マリタ・ホープには敵わないけど祈りが通じれば、触媒無しに復活も殺人も思いのままよ!」
二人はこちらを見て和かな微笑みを浮かべている。
「それでは、あなた達はそろそろ三日目の旅路に、リアとシャーリーの邂逅に進みなさい」




