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第十七話【二日目】失恋逆怨み探索一人旅②

◇◇


 ゲートを通ったので危険な砂漠地帯をパスしてザズーイ王国の国境の街に到着した。手続きを済ませてから街道に向かうと、砂漠越えをしてきたばかりと思われる商人キャラバンが休憩していた。

 ふと、砂漠越えの危険について聞いてみた。


「水場の場所を外して遭難する商人なんかが年に二、三組はいますからね。やはり砂漠の縦断は危険ですよ」


 ゾゾゾっとした。干からびちゃうとこだったわ!

 団員の皆さんに感謝ね。


「それでは、探索の旅を始めましょうかね」


 街道に入ったところで愛馬に跨る。

 ここから数時間ほど進むと、昼前にはザズーイ王国の首都セント・ザズーイに到着する筈だ。お菓子を食べたりニンジンを食べさせたりしながら進んでいると、すぐに大きな街が見えてきた。

 ザズーイ王国はナイアルス公国の西方に位置していて国内にパスカーレ市国という小さな独立国を持っている。そのパスカーレにラルスは向かったのよね。


「祈りの道はトラビス商会の馬車をお勧めするよ〜」

「衣装はドマーニ洋品店が豊富な品揃えだよ〜」


 街道に近づくと商人達の呼び込みの声がうるさい。

 首都セント・ザズーイから信仰の国パスカーレへ続く街道は通称『祈りの道』と呼ばれているの。そこを通って大聖堂を参拝するのがトレンドよ。各国の参拝者がわざわざザズーイ王国へ出向いて、そこからローブに着替え徒歩や馬車で街道を通り参拝するの。


「パスカーレ参りは悔いのない様にお金を使って下さいね〜。そしてここがお金の使い所だよ〜」


 ふふふ、身も蓋も無いわね。

 一生に一度は『ザズーイ祈りの道からパスカーレ』に行きたい、というのが信仰心のある民達の夢でもあったのよね。だから、色んな人達が集まってる感じよ。


 門前町の通りにはいってからは馬を引きながら歩くことにした。大変賑やかでよろしい。キョロキョロしながら通りを歩いていると、ふと気付いた。


 わたし、一人旅って初めてだ。


 前世も含めて初めてと気づき少し浮かれる。

 ここは、落ち着く為にも、まずは宿屋を探しましょう。(うまや)付きの宿はそこそこありそうよ。


「まぁ一晩泊まるだけだし……」


 目に付いたそこそこ繁盛していそうな宿に決めた。


「今夜、一人泊まれますか?」

「えっ? 一人旅かい?」

「はい。明日の朝にこの街に用事がありまして」


 用事が王宮訪問ってことは喋らないようにしよっと。


「うちに当たってくれて良かったよ。女の一人旅は何かと寝る時が危険だからね〜」


 何処の世界でも一緒か……と聞いていると怖いことを話し始めた。


「宿屋がグルになって誘拐したり薬漬けにしたりと、コワイ宿もあるからね」


 うはぁ、想像以上だよ……貴族院時代に怖い犯罪組織とやりあった事はあったけどさぁ。


「ふーん、暇があればやっつけちゃおうかな……」


 小声で呟くと、女主人に聞こえていた様だ。


「おっ、威勢がいいねー。ほら、今日はここに決めちゃいなよ!」


 ヒューヒューと茶化す口笛が聞こえる。

 周りの注目を浴びていた事に気づき少し恥ずかしくなる。宿はここに決めて、一旦部屋で落ち着くことにした。


「では、まず一泊お願いします。馬、厩に勝手に繋ぎましたけど良かったですか?」

「あぁ、でも盗まれても恨みっこ無しだよ」

「はい。それは大丈夫です」

「ん? ……そうかい、後で飼い葉をやっておくよ」

「ありがとうございます。鞍や手綱に触らないように気を付けてください」

「あら、なるほどね。あんた、何処かの国のお姫さんだね」

「えっ? 何故?」

「盗難避けが付いている馬を使うのはお金持ちのお貴族様だけさ。皆にも触らないように伝えておくよ」


 むー、ちょっとした事で身分がバレそう。では基本に忠実にいくか。まずはスパイらしく変装ね。


 階段を上がり鍵を開けて部屋に入る。

 よしっ、小綺麗でシンプルだ。合格!

 早速旅着を脱ぎ地味目なワンピースに着替えて姿見の前でクルッと一回転。

 これで街のお嬢さんという感じに見えるかな?

 ハンドバッグ的に小さな鞄を手に持ち行動開始よ、と意気込んでみるが何したら良いか皆目見当がつかない。


 まず街を歩いてみようかな……。

 早速に賑やかな街の通りへ紛れてみることにした。


 セント・ザズーイは観光地と言うこともあり治安は良さそう。子連れの観光客が買い物したり、お揃いのローブで着飾った老夫婦が教会で礼拝したりしている。

 取り敢えず食べ歩きしながら大きな教会で礼拝したりしてみた。


「た、楽し過ぎる……遊んでるだけで一日が終わっちゃうわ」


 宿を出てから観光地を廻っているだけ。久々の一人の気楽さが楽し過ぎて、唯の観光客より満喫してるわ!

 よしっ一旦休憩して仕切り直そう。


 オープンカフェがあったので、まずはお茶を頼んで行き来する人々を観察する。


 何かこの国の人達、みんな愛想が良いのよね。殆どの人が観光を生業(なりわい)としているのも影響してるのかな。お貴族様扱いが余り無いのよね。

 わたしってさぁ、元が庶民だから大の大人から畏まった扱いされると気疲れしちゃうの。どちらかと言うと雑に扱ってくれた方が嬉しい。

 だからこの街は気楽で楽しいのよね。


 地元の子供が手を振ってくれたので、笑顔で手を振り返す。


「笑顔が可愛いお嬢ちゃん、これ食べな」


 紅茶と共に美味しそうなケーキが乗った皿を店主っぽいおじさんがテーブルに置いていく。


「あれっ? ケーキ、頼んで無いよ?」

「新作。お嬢ちゃん可愛いから奢りだよ」と手を振りながら店内に戻っていく。

「美味しそう! ありがとう」


 フォーク片手にケーキを口に運ぼうとした時


「まぁた、あんたは可愛い子だと、すぐにサービスばっかりして!」


 女将さんの声が店内から聞こえてきた。口を開けたまま手が止まる。


「あっ、食べて食べて。こいつの飲み代から引いておくから」と女将さんが顔を出してウインクしている。


 ふふふ。こんな日常に憧れる。カフェの看板娘として両親と新作のランチの品目に頭を悩ませたり、隣のパン屋の一人息子に恋をして二人で抜け出してデートしたり、そんなささやかでも穏やかな生活に憧れる。

 貴族としての暮らしは確かに豪華で贅沢よ。でも、わたしの身の丈には合っていない。時々息が詰まる。



 魔力を持つが故の重い責任と引き換えの厚遇。

 魔力がない故の気楽さと庇護される立場。



 前世は間違い無く庶民。一晩でお貴族様に早変わり。

 わたしの様にどちらも経験した事ある人は相当に稀だ。どちらが良いかなんて多分意味が無い。どちらも良い所、悪い所があるのは当たり前。そんな簡単な事が誰も分からない。


 だから互いの事が全く理解が出来ない。


 何とかしたくて貴族院時代にボランティア活動を『お掃除大作戦』と称してやってみた。成果はあったと思う。まぁ結果は想定と違ったけど……。

 願わくば、これから貴族院を卒業した生徒達が大人になり、少しでも貴族と庶民の壁が低くなる事を願うわ。


 ……あれっ? わたし何するんだっけ……そうだ!

 聞き込みしよう。ではお勘定を済ませて行動再開よ。

★一人称バージョン 1/30★

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