第十五話【二日目】信用、というより信頼③
◇◇
よしっ、次! 今度は南の貴賓室よ。
部屋の前に騎士が警備してるからよく分かる。
あっ、ラッキー。クールイケメン変わらず。
「エルヴィン! まだ出立していなかったんですね。聞きたい事があるの」
少しの沈黙。
「……リアか。来たらまず部屋に入れるよう申し受けている」
ノックしてわたしが来たことを伝えると、内側から扉を開いた。促されるままに部屋の中に入る。
「失礼します……」
ピンと張り詰めた空気。作戦行動中のテントの中を思い出す。
「これはこれは、リア殿。その若さで筆頭騎士とは感服致します」
わーお、クルト王子! エルヴィンもなかなかだけど、まぁこちらも超絶美形の少年に育っちゃって、もーう! お姉さんとしては嬉しいよ。
「ありがとうございます。まだ若輩ですのでご期待に添えるように頑張ります」
場が静かだ。少し和ませる為、控え目に両手でガッツポーズをする、が……反応が無い。
悲しい。少し肩を落とし上目遣いに周りの大人達と少年を見る。
「ふふっ。期待しますよ。では本題に入りましょう」
クルトが少し笑みを作り雰囲気が柔らかくなった。周りの緊張も少し和らいだ気がする。
「……全く、リアは変わらずだな」
エルヴィンが呆れ気味の小声で呟く。
「では、せっかく出向いてもらったのだから少し会話しましょう」
「――そうよ! お話ししましょう」
食い気味で返す。情報をゲットしないと!
「まず、こちらから質問させてください」
「はいどうぞ!」
「ラルスと貴女は何をしようとしているんですか」
「そう! 私もそれを聞きに……ん? わたしとラルス? わたしはエルヴィンとラルスの事を……」
静かに目を見つめてくるクルト。エルヴィンはこの緊張に耐えられないと言った感じだ。
ラルスとわたしって……えーっ!
こちらを真剣に見つめるクルト。周りも静かに答えを待っている感じだ。
えっ、えっ、昨晩何しようとしてたかってこと?
ちょっと、紳士がうら若き乙女を取り囲んで何言わせようとしてるのよ!
そういう趣味なの? そういうのが好きなの?
でも……答えないと話が進まなさそう。
「あ……あの……お、おう……」
「おう?」
いやーん、もじもじしちゃう。ダメよ。恥ずかしがってたらダメ、リアちゃん、ここはビシッと答える方が恥ずかしくないわ!
「逢瀬を遂げようとしてました……」
「はぁ?」
げっ、呆れてる!
ということは、もしかして、この世界の普通の未婚のカップルはそんなことしないの?
スケベな女だな、とか思われちゃったの?
「あ、あの、わたしフィアンセですから。カーリンも既成事実を作って欲しいって言ってたし……」
いやーん、多分わたし顔真っ赤よ!
何喋ってるか分かんなくなってきた。
「ラルスだって世継ぎを産んで欲しいって思ってる……かな? えへへ、どうかな、ちょっと気が早いかなー?」
あれ?
エルヴィンはいつもの呆れ顔。クルトは少しびっくり顔よ。もしかして……わたしなんか変なこと言っちゃった?
「あなたが黒幕で、これが演技なら我々の負けですね」
「こいつはそんな器用な真似は出来ないですよ。保証します」
クルトが呟きエルヴィンが返した。
エルヴィンには思いっきりバカにされた気がする。
でも、信頼された感じもあったので、取り敢えずニコニコしながら次の展開を待つことにした。
クルトは一度目を瞑り、真剣な顔で話し始めた。
「分かりました。あなたの話を聞きましょう、リア殿」
「はい。エルヴィンとラルスは何を話していたかを聞きにきたんですけど?」
エルヴィンが答えようと口を開きかけた時、クルトが制した。
「それは今は話せません。我々にも色々と目的があるのですよ」
ここだ!
間髪入れずに返す。
「魔導剣ですね? ターゲットは誰ですか?」
ほら、魔導剣のキーワードもさりげなく混ぜるわよ。
「それも答えられません。貴女は誰だと思うんですか?」
あら、顔色一つ変わらないのね。
じゃあもう一つ。
「えーっと、倒したい魔法使いが誰かは分かりません。ただ、わたしと母に関係があると思います」
魔法使いのキーワードはどう?
「何故そう思うのですか」
うひょー、同じ表情のままよ。クールね。
じゃあ切り札情報よ。
「ラルスはわたしの母の死と、わたしの七歳の時の体調不良について調べていたそうです。その調査結果を聞いて『魔法使い殺し』に興味を持ったそうです」
「何処からの情報ですか、それは」
クルトは一瞬俯いて少しだけ声が強くなった。
んふふ、わたしはミステリアスな女。逆に精一杯に柔らかく答えましょう。
「答えられません。でも確実な情報だと信じています」
クルトはふーっと息を長く吐いた。
わたしの勝ちね。
「私達を信用してくれたので、ここまで教えてくれた、と言う事でしょうか」
「信用、というより信頼しています」
ニッコリ微笑む。これは本心。
周りの騎士が顔を見合わせる。それを見てクルトが笑ってくれた。
「ははは、信頼ですか。それは光栄ですね」
「はい。同級生もいますし。これでも人の良し悪しはしっかり見極められると思っていますよ」
クルトと顔を見合わせて笑い合う。
「エルヴィン、お前の生真面目さが役に立ったな」
「はい。エルヴィンは誠実なんです」
周りの騎士達からも笑いが漏れる。エルヴィンは相変わらず横を向いて不貞腐れている。
「リア殿、ラルス公はパスカーレ市国に向かったと情報があります」
エルヴィン以外の騎士達がビクッとする。
「クルト皇太子! その情報は……」
「良い。エルヴィンがラルス公と同窓だからこそ手に入れた情報だ。リア殿も同じなのだから、知る権利はあるだろ? はははっ」
ばっと席を立ち、クルトやエルヴィン、周りの騎士達を見回す。手を肩まで上げてワキワキさせながら動きが止まる。
「クルト王子、抱きしめていい?」
クルトは手で周りを制してくれた。
「あぁ、構わないよ」
「ありがとう! 本当にありがとう」
ぎゅっと抱きしめる。
パッと離れてからエルヴィンをじっと見る。
「俺には抱きつく……」
食い気味に素早く抱きつく。ほぼタックルよ!
「ラルスと仲良くしてくれてありがとう! 絶対見つけるから!」
パッと離れて他の騎士達に握手しながら急ぎ部屋を出て行く。エルヴィンは不意に抱きつかれるのを阻止できず少し驚いていた。
ふふん、まだまだ甘いわね!
エルヴィンを不敵に横目で見ながら扉に走り出すと、背後から声を掛けてくれた。
「リア、パスカーレの闇は想像より深いかも知れない。まずラルスの痕跡を追うんだ。情報を残せ。必ず俺達も追いつく。くれぐれも慎重にいけ――」
「――わかったー!」
よし、情報ゲット。作戦開始よ!
◆◆
エルヴィンとクルトは開け放たれた扉を見ていた。
「だから言ったでしょう。あの二人に搦手は似合わないですから。しかし、上手くいきますかね……」
「まぁ彼女も閃光騎士団の筆頭騎士だ。全てを片付けてくれれば万々歳だし、ダメでも新たな情報くらいは手に入るだろう」
クルトが騎士達に指示を飛ばした。
「では、作戦の一部に変更だ。目的に変更は……」
エルヴィンは扉まで歩き、誰もいないことを確認してから、そっと閉めた。
★一人称バージョン 1/28★
【ユーリア共和国】
ナイアルス公国と同様の軍事大国。特産品は海鮮。
【エルヴィン】
リアの同級生。常識人。苦労人。普通に強い。
【クルト皇太子】
性格の悪いショタのイケメン。年齢不詳。




