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第十二話【一日目】ラルスをお嫁さんに下さい

◇◇


 カーリンに椅子を薦めると、申し訳なさそうに座ってくれた。

 とりあえず、スケスケネグリジェを着てなくて本当に良かったわ! リアちゃん、あの時のあなたの選択を誇りなさい。意気地無しじゃないわ。貞淑あれ、よ!


「リア様……大丈夫ですか?」


 カーリンが珍しく狼狽えながら心配そうにこちらを見ていた。


「はっ! あっ、はい……大丈夫です」


 ヤバい、全然別のこと考えてた。


「えっと……ラルスが行方不明って、どういうことですか?」

「……そうなんです……」


 珍しくカーリンが口を濁している。


「あの……その……」

「良いわよ。何言っても。ラルスはどうしたの?」


 そう。何が起きたか早く知りたい。こちらの真剣な表情を見て、カーリンも心が決まったようだ。


「今夜はリア様とラルス公の二人が……逢瀬を遂げるということで宮廷内の警備はかなり緩くしていたそうです」

「……おうせ……を……とげ?」


 ヤバい、ロマンティックな雰囲気の言葉だけど意味が分からない……あら、カーリンの様子が変だわ?


「男女二人が夜に出逢い……愛し合うことです」


 あら、エッチなことね。それくらいでは動揺しませんよ……って……えっ、何? えっ、えっ? ということは、わたし達がエッチなことするのを皆さんで待ってたってこと?

 急激に顔が下から赤くなるのが分かる。


「あ……あら……わたし達……まだ結婚してないし……」

「お二人の関係は既に政略結婚の域です。貴族院の頃からの関係ですから、それ(結婚)前提で両国の外交も進んでいます」


 うひゃあ、すっごく恥ずかしいわ。ナターシャにひっそりと相談したり、侍従さん達に揶揄われたり、わたしのことを気にしてるのなんて、それ位だと思ってた。


「お二人が別の人に目移りすると国際問題になります。というわけで、先ほども言った通り警備を緩くしていました。既成事実を早く作って頂きたかったので」

「へー……」


 カーリンも気不味そう。

 ま、まぁ良いわ。わたし達がラブラブになって欲しいってことでしょ。反対されるよりはだいぶ良いわ。

 それより!


「で、ラルスはどこ行っちゃったのよ」

「はい。最初に言いました。行方不明です。我が国(ナイアルス公国)の国宝である『魔導剣』と共に」

「魔導……剣?」


 二人の周りの空気が少し重くなる。カーリンから若干の『しまった』という雰囲気も感じる。


「はい……我が国の秘匿事項で……」

「……」


 二人で押し黙っていると、扉がノックされた。


「はい、どうぞ」


 声を掛けると若い近衛騎士が入って一礼してくれた。


「リア様、カーリン女史も同行で良いので会議室までお越し下さい。皆さんがお待ちです」

「あっ、リア様、向かいましょう」


 焦るカーリン。わたしを呼びに来てくれたということかな。で、遅いから急かしに来た、と。


「リア様、本当に申し訳あ――」

「――カーリン、あなたの所為ではないのでしょう。謝らなくて良いわ」


 少しウルっときてるカーリン。珍しいわ。


「行きましょう。案内を宜しくお願いします」


 扉の前の騎士に声を掛けてから部屋着のままで向かうことにした。


◇◇


 向かったのは条約締結などで使われる豪奢な会議室だった。迎えの騎士が扉越しに数度やり取りをすると内側から扉が開いた。おっかなびっくり入ってみると、既に関係者が揃っている。

 帝国から雷帝と御付き数名。ユーリア共和国のクルト皇太子とエルヴィン。ナイアルスは情報部と騎士団『影』の関係者らしかった。


 あれ? 何か雷帝さんが小さく見える。世界最強の騎士が肩を落とし俯いている姿はレアだ。

 部下の行方不明ってそんなにショックかなぁ?

 いや、親戚の子が勝手に会社辞めてきちゃった感じか。


「ラルスは私の実の子だ」


 あら……そうなると息子の家出ね。

 しかし、言葉の意味は分かるが急展開過ぎて理解が追いつかない。頭の中がフワフワしてる。正直先に落ち込まれると此方は落ち込みづらいわ。


「百年ぶりだよ、我が子が生まれるなど」


 えー、お爺ちゃん何歳なのよ。

 というかお父さんか……えっ?

 という事は……まさか?


「おとうさん? いや、お義父さん? あっ違う御父様‼︎」


 急に一人パニックになる。

 ぎゃ〜、貴族院の時からどれだけの失態を見られてきたのやら。

 一体どの口が『御父様、私とラルスの結婚を許して下さい』なんて言うのよ!


 あっ、違うか?


『御父様、末永くよろしくお願いします』って感じかな?


 あれあれ?

 早く言うべきセリフを思い出して‼︎


 冷や汗が噴き出て鼓動が早くなる。血の気が引いたから顔も蒼いわよね。何か知らないけど帝国のお付きの方々が凄く優しいの。


「大丈夫ですよ」

「きっとすぐに戻ってきます」


 優しい声が逆に焦るわ。初めてのお父様との対面という大事なイベントに居合わせないなんて、ラルスめ、許すまじ!


 今度は怒りで顔が紅潮してくるのが分かる。身体が震える。


「動揺されているのでしょう」

「お(いたわ)しいことです……」


 よし、少し放っておいてくれ給え。

 話を聞くフリをしながら記憶をフル回転で漁る、がセリフが出てこない。もしかして……お嫁さん側にはお決まりの挨拶って無いのかしら。

 その瞬間、雷帝さんが口を開いた。


「リア殿には申し訳ない事をした」


 一斉にわたしに注目が集まる。

 うげっ、『いらんことしい』だな、雷帝さんわ!

 ほらっ、皆さんがわたしの言葉待ちになっちゃったじゃない。

 えーい、こうなれば毒を食らわば皿まで!

 思いついたことを口に出す!


「ら、ラルスをお嫁さんに下さい……」


 どう? もう分かんない!

 あっ、カーリンとエルヴィンが物凄い顔してこっちを睨んでる!

 ひーーっ! 何故か皆さんは優しい目をしてるし、呆れられちゃった?

 ここは、戦術的撤退!


「あわあわ、そろそろ失礼しまーす!」


 逃っげろー!

 背後からカーリンも立ち上がる気配がした。


「すいません。動揺している様なので……」


 ヨシっ、一緒に撤退よ!

 すぐさま、自室の方に早足で向かった。

 扉の前で立ち止まるとカーリンが声を掛けてきた。


「リア様、先程は――」

「――もう寝ます!」


 部屋に入るとカーリンが入る前に扉を閉めた。


「今日はゆっくりお休みください」


 そう聞こえてきたので、とりあえず落ち着くことにした。しかし、情報が多過ぎる。頭がパンクする。


「ラルスは家出。明日からの事は明日から考える!」


 シャワーを浴び直して寝ることにした。



◆◆◆ 少し時間を戻して


 何か分からないが、物凄い勢いで冷や汗を出しながら考え込むリア。

 既にカーリンやエルヴィンは少し怪しんでいる。


「リア殿には申し訳ない事をした」


 と雷帝。リアに周りの注目が集まったところで


「ラルス(を)お嫁さん(に下さい)」


 とリアは呟いた。

 まともに聞こえたカーリンは凄い顔になっていたが、それ以外の人はしんみりしている。少し離れたら『ラルスのお嫁さん……』と聞こえたらしい。


「あわあわ、そろそろ失礼しまーす!」

「すいません。動揺している様なので……」


 真っ赤なリアが慌てて部屋から出ていくとカーリンも追いかけて出ていった。


 一瞬の静寂。

 二人を見送ると、まずクルトが会話を続けた。


「そうでしたか。ではラルス公は皇位継承権一位という事ですか……流石に帝国の軍事行動では無いという事は確約頂けそうですね」


 ガタンと帝国の関係者が席が立ち上がり「ずっとそう言っている!」と声を荒げる。


「言葉にして頂いたのは今が初めてですよ」

「わっ、分かるだろう! 言わなくても分かるだろう」

「臆病な性分でして。有難うございます」

「そっちの若い騎士の方が怪しいでは無いか! 歓待式でも二人で中抜けしていたし、何をしていた!」


 クルトが返す。


「此方は何度も言っています。旧友なので話に盛り上がり王宮の外の酒場で二人飲み直していたと」

「怪しいものだ。何か企んでいるのでは無いか! どうだ?」

「情報部としてもその情報が事実な事は確認しています。話題も大体把握しています。リア公女や互いの女性感の話。後はこの国の名物や旅用の雑貨屋の話という所でした」


 ナイアルス側もクルトに加勢する。二国間は既にこの件について調整済みだった。そもそも二国で隠密の活動をしていたところに突如割り込まれたのだ。その上でトラブルを引き起こしたのだから、積極的に対応する気はさらさら無い。

 そんな状況でこちらを犯人扱いとくれば、空いた口が塞がらない状況だ。


「我々は昨年も来ていますから、ラルス公よりこの国に慣れています」

「なぜこの国の者に聞かず他国の者に聞くのだ? 怪しいだろう」

「何度も言っていますが、旧友との話題など食べ物と女の話以外無いでしょうに……」


 帝国側は一方的に質問を繰り返すばかりだった。


(まぁ、誰を主犯にするかで揉めているのだろうな)


 ニヤリともせず皮肉を思う。

 この場で聞けた情報では、ラルスが警備を気絶させて魔導剣を『勝手に借り』て姿を消した事。警備は怪我は無いらしい。手紙を持たされていた様で、ラルスの直筆で『魔導剣を借ります。必ず返します』とだけ書いてあったということしか分からなかった。

 明確にはラルスの目的は不明のままだった。


「我々は別行動を取らせて頂きます。目当てのモノが無いのでは協力も何もありませんからね」


 クルトが席を立つ。


「何か他に情報はありますか?」

「何故、我々だけが情報を出さねばならぬのだ!」

「それでは交渉終了という事で。エルヴィン、部屋に戻るぞ」

「分かりました、ユアハイネス」

「雷帝陛下、お気を落とさないように」


 二人は部屋から出ていった。


◆◆


 数時間後、雷帝本人から「本件は帝国が全ての責任を負うので公にしないでやってくれ」と三カ国の関係者に伝言があった。

 それを尊重する事に決まり、ナイアルス公国、帝国、そしてユーリア共和国の関係者以外には公表しない事が決まった。


 またラルスがいない事の辻褄を合わせる為に、リアには内緒で『痴話喧嘩で家出』の噂が広められる事となった。

★一人称バージョン 1/23★


一日目は終了。

リアの最も長い一週間は始まったばかりです。


【雷帝】

世界最強の騎士。百五十年前の魔剣戦争を戦い抜いた。序列二位の魔剣『竜牙剣』の保有者。並の騎士団では一人で楽勝できる。帝国連邦の皇帝。ラルスの実の父親。


【影】

ナイアルス公国の裏の正騎士団。表は閃光騎士団。各国の騎士団が全貌を掴もうと躍起になっているが情報を掴んでいる組織は殆どいない。

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