第十一話【一日目】千九百四十三回!
◇◇
「貴族院の選挙だってこれほど挨拶はしなかったわ!」
三時間ほどの立食パーティも終わってヘトヘト。
やっと開放されて自室に帰ってきた。お腹はケーキで満たされていたが、汗だくの身体が気になりまくる。
そっとシワにならないようにドレスを脱ぐ。今日は侍従の皆さんに「来なくて良いからね」と伝えてあるの。疲れたでしょうから、って気遣いの意味だったんだけど、皆さん「がんばって」とか「近づきませんから大丈夫」とか耳打ちするのよ。
どう言う意味よ……って嘘です。
はい、すみません。意味は分かってます。
アレの意味よね、いやーん。
というわけで、まずお風呂に入ることにしたの。
そう、わたしの部屋はお風呂完備なのよ。
隣の部屋が使われていなかったので、そこをお風呂場に改造して貰ったのよ。少し大きめ。四人くらいはいっぺんに入れるわ。しかも全自動給湯システム完備。魔導でお湯を張ることが出来るの。
魔導機械技師の担当には困惑されたけど、いつでも熱々のお風呂に入れる自慢の逸品よ。
んふふ、十五分ほどでお湯を張れるからメイク落としや石鹸を準備。陶器のバスタブなんてNG。和風だから檜の浴槽。洗い場に風呂桶と椅子にお風呂タオル。
ふふふ、装備に隙は無いわ。
そして重要アイテム。リラックスタイムを満喫する為の入浴剤を選ぶ。
ゆったりと身体が伸ばせないとね。
ふんふん鼻歌を歌いながらお湯に浸かる。
と、いうところで『ラルスが今きたらラッキースケベ状態になってぶん殴って部屋から追い出す』ところまで想像してしまう。
急いで汗を流し、慌てて出ることに決めた。
身体を拭きながら髪をタオルでまとめる。そこで視線を引き出しの一つに目をやる。
『これは最終兵器です。威力は申し分無いですが制御することは大変難しいですよ。リア様、よくよく考えてお使い下さい』
ナターシャの言葉を思い出しながら引き出しをそっと開ける。
そこには、ナターシャから譲り受けた妖艶な部屋着(レースでほぼ透明)が入っていた。
そっと手に取り、まじまじと見つめる。
こりゃダメだ。一旦お前はお休みしてろっ!
引き出しに突っ込み、少し可愛い目の下着にキャミソール。そして普通のワンピース型の部屋着を着る。
うん。まず普通に話そう。
聞いてほしい事が沢山ある。
わたしの仕事を。
異国の地への旅を。
仲間達の事を。
わたしの決意を。
そして、いつもラルスに会いたかった事を。
三年分、全て話したい。
ラルスの事を知りたい。
何をしていたか。
何を考えていたか。
誰と会っていたか。
そして、いつもわたしの事をどう思っていたか。
三年分、全て教えて欲しい。
そして……そして、唯々あなたに会いたかった。
あなたも同じことを考えていたと言って欲しい。
もうすぐ会えると思うと胸が一杯になる。
自分でも顔が赤くなってるのが分かるわ。
よーし。クールダウンしよう、と墨斬丸を手に取り素振りを始めた。
「一回、二回、三回――」
◇◇
「――千九百四十二回! 千九百四十三回! せんきゅーひゃ……」
突然ドアが開く。
「リア様!」
カーリンだ。
「ワーオ……アラアラ、ドウサレマシタカ?」
剣術訓練と見なされるので素振りは禁止だ。気付けば汗だくだ。しまった!
色々焦ってあたふたする。
しかし全く予想外のセリフが飛んできた。
「ラルス公が行方不明です!」
「へっ?」
★一人称バージョン 1/21★
【墨斬丸】
初代は普通の文鎮。貴族院時代にイーリアスの魔剣を受け破壊。二代目はラルスから学生時代にプレゼント。アダマンタイトとミスリルの合金。三代目もラルスからのプレゼント。ミスリルの割合が増えた為、城がニ、三個は買える金額。ラルス渾身のプレゼントだったが、キス一つも貰えなかった。
【千九百四十三回】
素振りを一回一秒でした場合、三十分以上掛かる。お風呂入ったのに汗だく。




