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第十話【一日目】花冠だけが血に濡れて

◇◇◇


 興奮冷めやらぬ競技場から戻って王宮広場で最後の演目の『教会の秘術』の披露も無事終わり。

 ここで一旦休憩となるのはいつも通り。

 来客に挨拶しながらラルスを探しに行くが観覧式の次は視察があるとかでお偉いさんとお出かけしたらしい。


 夜の晩餐会でしか会えないか……。

 なかなか会うタイミングが無いなぁ。まぁ仕方が無い。あっちはあっちで忙しそうだから、邪魔しちゃ悪いか。


 と言う訳で例年より少し遅めの昼休憩。いつも通り籠手と鎧を外したら上だけ平素な服に着替えてお祭りの賑わいに紛れてみる。


 ふふ、毎年同じよ。歩くと両手が貰い物で埋まる。

 た、楽しいわ!


 街の賑わいに華を添えるのは、文字通りに色とりどりの花で髪を飾る新成人の少女達。純白のドレスに身を包み、そこかしこで楽しそうに微笑んでいる。

 真っ白な正装に包まれた新成人の少年達も誇らしげに歩いて祭りを盛り上げている。


 オープンカフェで街の人達を眺めながら貰ったパンやお菓子を口に運ぶ。

 毎年貰い物を食べるだけでお腹いっぱいよね。


 おっ、白い衣装の男の子、一際カッコよく踊ってる。あらあら、周りの女の子達の目がハートね。気を付けて、それはゲレンデマジックよ!


 あっ! 今年も居るわ、新成人カップル。初々しいわねぇ。あぁ、あまり人気のない方に行っちゃダメよ、うふふっ。


 ラルスと自分に重ねて想像する。

 純白のドレスに色とりどりの花冠を付けた自分。横には同じく真っ白の正装に身を包むラルス。

 ふふ、恥ずかしがるラルスの横でモデルポーズを取るのが目に浮かぶわ。二人で剣を持ち並んでいる姿も想像する。うん、こういうのもカッコいいよね。


 あれこれファッション雑誌の写真のような二人を想像して一人ニヤニヤする。




『わたしの純白のドレスと花冠だけが血に濡れて赤く染まる。わたしが握る剣からだけは血が滴っている。二人の後ろには焼け焦げた死体の山が築かれている』




 突如、頭の中のイメージが悪夢にすり替わる。


 目を瞑り軽く頭を振る。

 もう一度、純白のドレスと花冠の女の子達を見る。


 幸せなイメージが何処となく自分とは遠いものに感じた。


「お前はあの子達とは違う……とでも言いたいのか」


 思わず小声で呟いてから苦笑してしまう。

 少しだけ哀しみの色が混じった微笑みが消えると、隊服のスカートの裾を翻らせて街を後にした。



◇◇◇


 夕方の王宮内では盛大な晩餐会が開かれていた。皆ドレスアップしてホールで談笑している。こういう場所は貴族階級の出会いの場でもあるの。だから、壁際に立っている女性陣の目は鷹のように鋭いわ。


 そして、そんな会場の目印みたいに真ん中で立たせられてるのよ!


 ははは。全く苦手よ。何か苦手よ。昔から壁の花になる事すら苦手。こういう堅苦しいのが一番苦手。なるべく逃げ回っていたいの。わたし、中身は純粋な庶民なのよー。


 かわるがわる挨拶に来る来賓の皆様。流れ作業で挨拶が進んでいくわ。この辺り、カーリンに任せるしかないわね……。


 列を作らせて小声で目の前の相手の名前を耳打ちし、挨拶が終わると世間話を始める前に剥がして、を繰り返す。行列は何十メートルもできていた。


 いやーん、お腹痛くなっちゃった、とか言って逃げようかな……。


 この場の主役らしく、会場で最も煌びやかな色合いのドレスに身を包み、ジュエリーも惜しみなく飾られていた。

 当初は伝統的なドレスに今風の飾りをする案で進んでいた。パニエが極端に横に広く、まるでフリルとリボンで飾り付けられたサラダボウルを反転させてその上に上半身が出ているようなドレスだった。

 これには猛反対をして、何とか前世でいうと『プリンセスラインのウエディングドレス』くらいのデザインに落ち着いた。それでもデザイナー達の気合いは凄く、散々『控えめよ、落ち着いて、派手にしないでー』と言い続けるも一目で主役に見えるドレスを作り上げていた。


 新進気鋭のデザイナーさん、気合い怖いくらいだったもんねー。

 ふふ、その甲斐あって自分でも自慢の出来よ!

 髪も上げて大人っぽくしてティアラも付けてもらったし。早く見せつけたいわね!

 そっか、ラルスも正装だからツーショットの写真欲しい……ってスマホ無いからなぁ……うーん、宮廷画家にでも描いてもらおうかな。十五分くらいで描いてくれんかな。

 やっとラルス達も帰って来たらしいし……。よーしっ、早速ラルスを捕まえて自室にでも連れ込もっと!


 えっ? 連れ込む? きゃー!

 ダメよ……妄想が変な方に…………はっ、正気を失っていたわ! 変なこと口走ってないわよね……。

 すると、横から見知った声が聞こえて来た。


「リア様、相変わらずですね」


 ナターシャだ!


「ナターシャ‼︎ 凄く嬉しい、来てくれたのね」


 少し雰囲気が柔らかくなった事で元の美人に優しさと優雅さを追加した感じ。

 正しく女神様ね。わたしには後光が輝いてるのが見えるわよ。


「こ、これが幸せを手に入れた者の光か……」


 眩しすぎる……と目を細めていたが、それを無視してナターシャが真剣な顔で問いかけてきた。


「リア様、失礼ですが今晩の準備はできていますか?」


 思わずこちらも真剣になる。


「……下着の……上下は揃えたわ」

「他には?」

「……フリルがフリフリよ」

「リア様! 大事なこと、お教えしたでょ?」

「む……ムダ毛は丁寧に処理したわ」


 真っ赤になりながらそっと呟く。すると、安心からかナターシャの瞳に一筋の涙が光った。


「もう、教える事は無いようですね……嬉しいです」


 上品にハンカチを懐から出して涙を拭くナターシャ。


「ナターシャ……ありがとう。あなたのお陰よ!」

「では、リア様、戦果を期待しています」

「ま、任されてよっ!」


 よーし、気合いに燃える。

 で、何に燃えるの?

 変な方向に思考が行きそうになったところでラルスとエルヴィンが一緒に出ていくのが目に入った。


 やっと来たか。挨拶地獄に巻き込んでくれる……って、ちょっと何処行くのよ!


 会場に入ったと思うと、一言二言話しただけで出て行こうとしてる。


「ラルス! どこ行くの?」


 姿が見えなくなる直前で少し振り向いてくれた。


「ゴメン少し外す。後で寄るよ」と


 それだけ言うと薄情にも何処かに行ってしまった。


「えーーっ……」


 もー、同級生と久々に会ったからって。まぁ男の子同士の方が面白いのかもしれないけどね。

 プリプリしちゃうわ。

 ケーキでも摘みましょう。


「あっ、このケーキ食べたいからお皿下さい」

「リア様……?」


 ケーキを摘みながら一人文句を言う。


「ホント子供なんだから……まぁいいわ。後で寄るよって言ってたから」


 ふん! 気を張る必要無くなっちゃった。お腹出ないくらいは食べて良いわよね?

 このケーキ達はもちろんジェニーが作ったの。もちろん全種類食べるわよ!


「ケーキ、美味しいからナターシャも食べなさいよ」

「リア様……」


 何故かわたしのほっぺたを指で突くナターシャを無視してケーキを頬張る。


 何あの二人……怪しいわ。早速わたしに言えない事してるの……。


 と考えながらもぐもぐしていた。



◆◆◆


「ホント子供なんだから……」


 ナターシャがリアのセリフを聞いて最初に思ったこと。それは『何、面白いこと言ってるの?』だった。紛れもないお子様が何を言ってるのやら。

 吹き出しそうになるのを我慢していると、リアが続けて少ししんみりした口調で呟いた。


「まぁいいわ。後で寄るよって言ってたから」


(えっ、何それ、熟年夫婦みたい。折角の晴れ姿に「綺麗だね」の一言も無い恋人にお咎め無しなの?)


 少しビックリしてしまう。


「ケーキ、美味しいからナターシャも食べなさいよ」


 少し照れているのか、頬を微かに赤く染めた笑顔のリア。


『もうすぐ会える』


 ただそれを心底楽しみにしている顔。女が一番綺麗な瞬間。


「リア様……」


 ナターシャは適齢期を迎えて突如、嫁ぐ機会に恵まれた。だから、あまりドキドキ甘酸っぱい、青春っぽい感情を知らない。


(羨ましいな、あー、羨ましいなぁ!)


 柔らかそうなほっぺを突くことしかできなかった。

★一人称バージョン 1/21★


【教会の秘術】

この世界では俗に言う魔法を使う方法として『魔導』と『教会の秘術、教会術式』の二種類がある。自らの魔力を使う魔導と比べて、術式は大気に溢れる力を使うので大規模なことが可能。但し、使うには、ある種の才能が必要。作成や改変したりするのは特別な才能が必要。

貴族は魔力が呼び水となり使える者が多い。

庶民が術式を使えると教会にスカウトされる。エリート職で尊敬されるしモテる。


【ゲレンデマジック】

スキー場などでスキーウェアに身を包んだ姿が思いの外にカッコよく見えること。

同様の事例として

・お祭りの浴衣姿

・成人式のスーツ

などがある。

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