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第九話【一日目】リア姫様筆頭就任記念杯⑤

◇◇


 エメリーの駆る白馬に向けて全速力で走らせていると歓声とアナウンスが聞こえて来た。ニールさんが一着でゴールを決めたらしい。


『――さぁ、大番狂せとはこのことだ! 歴戦の勇者が若駒達を蹴散らしたぞ。その名はオジイチャンサン!』


 観客の(どよ)めきの中、遠くにニールさんが緩やかに走らせながら歓声に応えているのが見える。

 でも、わたしの最後の勝負はこれからよ!


『――さぁ、一着はオジイチャンサンとなりましたが二着争いは最後の直前勝負!』


 エメリーの白馬スノーホワイト。

 本当に綺麗な馬。

 跳躍は嫌がっていたけど本能なのかゴールに向かってわたし達に追いつかれないよう逃げている。


「ねぇ、追いつけるかな?」

「ひひん!(追いつくわよ、)」


 気合い十分!


「では、全速力! エメリーを追い抜けー!」


 一気に距離を詰めにかかる。半馬身差まで追いついた。エメリーに声をかける。


「エメリーー!」

「あっ、リア様! もう追いついていらっしゃったんですね」


 並びかけると振り向いて最高の笑顔を向けてくれた。


「では、お先に失礼します! ハイッ!」


 こちらが声を返す前に馬に気合を入れるエメリー。一気に速度が上がり引き離されていく。


『――さぁ二百メートルを切ったところでアームガードとスノーホワイトが並ぶ。あっ、並ばせない! ここでスノーホワイトが抜け出した!』


 バテバテとはいえ流石は名馬。騎手の指示に従い最後の力を振り絞る。


「逃げられるっ! ねぇねぇ、追いかけようよ!」

「ひん……(まだまだ……)」


 ホント?

 馬上から跨る我が愛馬を疑ってみる、が、すぐやめた。今回はあなたに任せると言った。

 ならば、信じるのみ!


「よしっ! あなたのタイミングで出なさい!」

「……」


 返事も返さずタイミングを見計らっている。背中から気合いがわたしにも伝わってくる。


『――さぁさぁ、スノーホワイトが逃げ切るか! アームガードはどうだ、主役の意地を見せるか!』


 一瞬、愛馬の背中の筋肉が盛り上がった気がした。刹那に強烈な加速が始まった。


『――おおっと、ここで、ここで足を溜めていたか、アームガードがきた!』


 観客の皆さんも盛り上がってるわね。総立ちで声援を送ってくれてる。

 前を見るとみるみる白馬が近づいてくる。あっという間にエメリーの横に並ぶ。エメリーは笑っていたが声を出す余裕はなさそう。

 だから、とびきりの笑顔だけ向ける。エメリーも笑顔を返してくれた。


『――さぁ、アームガード届くか、届くか、どうだ、並んだ、並んだ! さぁ二頭が並んだ、どうだこれは……』


 ここで愛馬も限界に近づいていた。華麗な歩調も失われ、気合いだけで走っていた。


「アームガード、勝ちなさい!」

「ひん!(承知!)」


 更に加速する愛馬。アームガードがゴール前で差し切り鼻差で二着をもぎ取った、そう確信できたが、結果はどうだ?


『――アームガードが差し切ったー! 一着は大番狂せでニール。そして二着は……二着はアームガード、我らがリア姫様だー』


 アナウンスが勝利を告げる。その瞬間、全てをかき消す大歓声と拍手が鳴り響く。皆さん、貴婦人も、少女達も、負けたオッサンも大声で歓声を上げている。


「勝ったよね……」

「ひひん……(勝ったわ……)」


 身体の奥底から歓喜が湧き上がる。喜びに全身が震える。


「いやったーーっ!」


 馬上で一頻(ひとしき)り大はしゃぎしてから、正面スタンドに歩みを戻す。その間はアームガードを撫でたり叩いたりして褒めてあげた。


『――三着はスノーホワイト、貴婦人達の声援を一身に受けたエメリーが意地を見せました』


 スノーホワイトの立髪にキスしてるエメリー。

 うひゃっ、カッコいいわね。その光景を目の当たりにした貴婦人数名が倒れたわよ!


「やはり貴方は私の最高の相棒よ。これからもよろしくね!」

「ひひーん」


 あはは、美人のキスは白馬も大好きなようね。嬉しそうよ。


「リア様〜、エメリー様〜、こちらへどうぞ〜!」

「表彰式をさせて頂きます! こちらへお早く〜」


 そうか。表彰式もやるんだった。

 では、銀メダル、しっかり受け取りましょう!


「行くわよ、アームガード!」

「ひん!(では行きましょう!)」


◆◆ 表彰式後


 優勝はニール、準優勝はリア、三着がエメリーとなり、ナイアズとラルスは棄権となった。


 ナイアズも復活して正面スタンドでセントプリーストを撫でている。


「お前には苦労をかけるな。これからも頼らせてくれ」

「ひひーん(勿体無いお言葉。これからも、全身全霊をかけて尽くすことを誓おう)」


 リアはずっとテンション高く大喜び。


「アームガード! ありがとう。ラルスを悲しませずに済んだわ!」


 ひっそりと帝国一の名馬を振り向かせた芦毛の美人。よっぽど機嫌が良いのか楽しそうにスキップめいた足踏みをしている。


「ひひーん(どういたしまして。ふふ、楽しかったわ!)」


 ランガンナーも治療が終わり、レース後の表彰式にはラルスの横にいた。はしゃぎながら表彰台に登るリアを優しく見つめるラルス。そして横のランガンナーもアームガードを見つめていた。


「ひん……ぶるるっ……ひひん……ひん……(あの牝馬め……次は絶対に負けん! 見返してやる! そして……そして? そして……勝ったら……俺はアイツに……)」


 ランガンナーは初めての感情に思い悩んでいた、


 五人はしばらくの間、総立ちの観客に向かって手を振り続けていた。

 こうして万雷の拍手の中、『リア姫様筆頭就任記念杯』は幕を閉じた。


 その頃、観客席でも一際注目を浴びている女性がいた。


「はーっはっはっはーっ! 我が花婿の華麗なる姿を皆で讃えるが良い! さぁ、これから祝勝会だ。全員奢るぞ、資金はたっぷりあるからなー! はーはははっ!」


 高笑いのカタリナと治安守護騎兵隊の面々と酒の飲みたい観客は酒場に消えていった。

★一人称バージョン 1/21★

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