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プロローグ 髪は艶やかに、印璽には恋人の印

【わたしは夢を見る】


 真っ暗な闇の中、そこだけは柔らかく明るい。

 温かな春の日差しの中で、母と二人の暖かなひと時。

 永遠に続けば良いのに……といつも思うが、その願いは叶わない。


 この夢は必ず終わる。

 この夢は必ず苦しみで終わる。

 この夢は必ず苦しみと後悔で終わる。


『苦しい。わたしは何故アイツに会ってしまったの』


 そして、この夢は決意で終わる。


『あなたに託します。わたしは母の元に……』



◇◇◇ 帝国歴 二百九十五年


 夏の観覧式 前日 自室のベッドの上


さーいーあーくー(最悪)な夢見だー……」


 大事な日が近付くと、この夢を見ることが多くなる気がする。

 しかし……絶対に覆せない絶望たっぷりの夢を繰り返し見るのは特殊な拷問かもしれないわね。慣れたとはいえ、厳しい朝だわ。


 いつものベッドからのそのそと起き上がる。

 窓のカーテンを開けると朝日が眩しい。

 (うだ)るような暑さじゃなくても日焼けには注意よ!

 サッとレースのカーテンだけ閉めた。


 ここはナイアルス公国の州都グロワール。

 王宮内のわたしの自室。


 そう。わたしはこの国のお姫様。

 細かく言うとナイアルス公国の皇位継承権上位に位置するニイロ公爵の一人娘。

 リア・クリスティーナ・パーティスよ。

 年齢は十五歳のお年頃。

 あっ、お姫様歴は八年少々なの。だって七歳の時、普通の女子高生から突然『異世界転生』したんですから。


 鏡台に座ってじっと自分の顔を……というより髪の毛を見る。いつもの通りアホ毛のような寝癖ができてる。


「お前も手強いな……では勝負!」


 左手からミスト、右手から熱風を出して寝癖を治す。尋常ではない高難易度の魔導制御だが、もはや毎朝の習慣になっている。


「キューティー、キューティー、クルクルキューティクル。強いぞー、強いぞー、天使の輪……」


 秘密の歌を歌いながら仕上げのブラッシング。長い髪はブラシをかけるたび明らかに輝きを増す。


 ここでブラッシングのポイント。

 よく前世のテレビCMで見た毛羽(けば)だったキューティクルの顕微鏡画像。あれが整っていくイメージを頭に思い浮かべながら髪をとかしていくのよ。そうすると、歌が精霊達には命令として届くっぽいの。

 だから、わたしの髪はブラシでとくだけで女優顔負けの艶々髪。自慢の逸品よ!


 偶に『リアって何でそんなに髪の毛ツヤツヤなの?』って聞かれるの。だから、『別にー? 毎朝ブラッシングしてるだけだよー』って答えるのよ。


 んふふ、ウソは言ってないわ。

 二、三日すると、『他に何かやってるでしょ』って問い詰められるけどね。でも、これはわたしの秘匿事項。女の武器を研ぐ秘密、そうそう教えられないわよ!


「はい、今日は勝ちー」


 まぁ、昼前には負けてるんだけどね。

 何故かしら。貴族院二年生の時に、ラルスから告白された次の日の朝、気合いで寝癖を直したあの日から、メチャメチャ強情な寝癖になっちゃったのよね。


 さて、そろそろ出かけましょう。


 ドアに向かう途中で、ふとテーブルの上に置いてある手紙が目に入った。豪華な封筒には意匠の凝った封蝋がされている。


 これは大事な手紙。毎回細心の注意で丁寧に封筒の上側を切って開ける。これも秘匿事項の一つ。中身は誰にも見せない。

 立ち止まって暫くじっと見る。そっと目を瞑って手紙の内容を思い返してみる。


 うふふー、ラブラブの証よ。


 封蝋の印璽(いんじ)は帝国本国の公爵のもの。つまり正しくラルスからの手紙を示している。他愛もない内容の最後に筆圧強く『今年の夏の観覧式には絶対に参加する。やっと会えるな!』とだけ書いてあった。


 うふふー、ホントに恥ずかしがり屋さんねー。


 毎週送られた手紙は二ヶ月前に送られたこの手紙以降途絶えてしまった。この二ヶ月の筆不精だけど……わたしの想像では『会えるぜ』なんて書いちゃったから恥ずかしくなっちゃったのよね!


 うふふー、まぁー、可愛いラルス!


 二年間、一度も会いにこなかった理由も過去の手紙に書いてあった。卒業と同時にワイマール騎士団へ入団となったけど騎士見習いは『男女交際禁止』となってるんだって。強豪校の部活か!

 本来、手紙も許されなかったけど、そこは権力、財力、策謀、根性、ラルスの持っている能力全てを使って手紙を届けていたって必死な言い訳が書いてあったわ。


 そして……パンパカパーン!

 今年の九月に正式に騎士見習いが外れることに決まったんだって。合格よ、祝福よ、お祝いよ!


「うへへー、うちの彼氏も正式な騎士様よー!」


 嬉しくなってドアの前でクルクル回る。

 さーて、わたしも頑張るわよー。『夏の観覧式』で久々に会えるなんて最高よ。晴れ舞台、しっかり見てもらわないと。


 ふと動きが止まる。プルプル震えてから徐にグッと両手を胸にガッツポーズ。


 そう、わたしは十三歳でナイアルス公国の国家騎士団たる『第十期閃光騎士団』に入団したの。入団したら速攻で首都ナイアリスで大活躍。それを認められて筆頭騎士代理に就任したのが十四歳。歴代で最も若いって!

 更に……更に、今年のリアちゃんは凄いのよ。


「遂に筆頭騎士よー」


 そうなの! 今年から『代理』が取れるの。この世界は成人が十五歳。成人となったので、無事、正式に就任の運びとなりました。それをご披露するのが『夏の観覧式』というお祭りよ。

 そこに……なんとラルスが来てくれる。

 そう、十一歳と十三歳で将来を誓い合った遠距離カプが遂に四年の歳月をかけて邂逅を果たすのよ。あっ、ちなみにアイツが二歳年上なのは、わたしが貴族院に十歳で入学した天才だから。

 決してアイツが留年したんじゃないよ。


「きゃーーーー! アガるわよ、これは!」


 ふと冷静になる。帝国国家騎士団の「ワイマール騎士団」に正式入団となる、こ……こ、恋人……恋人! 恋人にはどうすれば良いんだっけ?


「お祝い? えっ……ご褒美? どうしよう?」


 ドアの前で思案中。

 これはどうしたものか。騎士団入団へのお祝いで多いのはやはり剣。でもアイツが持つ剣は既に決まっている。

 この世界で序列三位の魔剣『竜雷剣』、それはアイツの父親の雷帝が若い時に持っていた伝説の魔剣。でも、まぁ、儀式でしか使わないらしいからお飾りか。


「あれ……じゃあやっぱり剣が必要なんじゃない?」


 と、ここまで考えたが、山のように届くんだろう、と思い直す。インパクトは薄れるよね。


 じゃあご褒美……えっ……もう、アレしかないの?


 思い浮かべるのはリボンだけに包まれた裸の()()()。ラルスが部屋に入ってくると、部屋の真ん中に飾られたワタシが両手を上げて迎え入れる。そのまま抱きしめられて、愛の言葉を数回囁き合ってから、ベッドに運ばれるーーー!


「きゃーーーー!」


 朝から鼻血出そうなくらい興奮してきた。

 やる気がみなぎってきたー!


「気合い入れるわよ!」


 一人、意気揚々と部屋から出ていった。

★一人称バージョン 1/10★

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