不吉で不気味な老婆の憂鬱
夜空に浮かぶ血のように赤い月。
どこからともなく不気味な笑みを浮かべた老婆が現れた。
「ひーひっひっひ……忌まわしき血の満月が輝き空を赤く染めしとき、村に大いなる災厄が降りかかり、封印されし破滅の王が永久の眠りより目を覚ます……終わりじゃ……世界に終末が訪れるのじゃあああ!」
不吉な予言を声高に叫ぶ老婆に近寄る一つの影。
「お義母さん、ここにいらっしゃったんですか。あれは、ストロベリームーンというそうですよ。とっても綺麗ですけど秋の夜は冷えますし、月見ならおうちで一緒にしましょうね」
「よ、良子さん! ……でも、あの、予言が……」
(一人息子の嫁の良子さん。仕事で忙しいはずなのに、こんな老いぼれに対しても嫌な顔一つせず、実の娘のように明るく甲斐甲斐しく世話をしてくれるお嫁さんの鑑! 村……日本……いや、世界一の嫁! 大好きじゃ! でも、村に残された言い伝えがもしも、万が一、本当だったなら……たとえ皆から忌み嫌われようと、わしが警告をせねば……)
そんな二人に近づく一つの影。
「おふくろ、夜に出歩いて怪我したら危ないだろ。ほら、おぶってやるから」
「よ、良男! ……だけど、村に災いが……」
(一人息子の良男。昔は泣き虫で怖がりだったのに、こんなにたくましく、頼もしくなって……。きっと天国のお父さんも喜んでいるだろう。村……日本……いや、世界一の息子! 大好きじゃ! でも……)
三人のもとに駆け寄る小さな一つの影。
「ばあば! きょう、ようちえんであやとりならった! ばあば、いっしょにしよ!」
「りょうちゃん!」
(孫の良太! かわいい! すごくかわいい! 村……日本……いや、宇宙一の孫! 大大大大好きじゃ!! 絶対嫌われたくない!! ……よし、もう予言とか災いとかどうでもいいのじゃ! どうせあんな胡散臭い言い伝えなんてただの迷信じゃ!)
「……心配かけて悪かったねえ。早く帰ろうねえ」
「ええ、帰りましょう。お義母さんの大好きな煮物も用意してありますよ」
「おふくろ、少し軽くなってないか? ちゃんと食べないとだめだぞ」
「わーい、あやとりたのしみ!!」
四人は気づいていなかった。村を覆うほどの巨大な影が、彼らをじっとみつめていることに。
「ワレ、フウインヲヤブリ、トコシエノネムリヨリメザメタ。サキホドノカゾク、ジツニトウトイ! スゴク、トウトイ! ……キメタ……キメタゾ。アノモノタチガクラス、コノムラノヘイワハ、ワレガカナラズマモル!!!」