告白。
ひよこは魔法少女オンラインで初めてパーティーを組んだ人だった。
ゲームを始めたたばかりで、何も分からずにいた俺がパーティー募集を理由もなくしたときに参加してくれたのが彼女だ。
目的を聞かれ。始めたばかりで何も分からないと答えたら、俺より少し早く始めていた彼女がいろいろと教えてくれた。それで、気が付いたら毎日彼女とパーティーを組んで遊んでいた。
俺がこのゲームに夢中になれたのはひよこが親切に教えてくれたからだ。
「まさか、香織がひよこだったとは」
早朝、ベッドから起き上がり時計を見る。
四月八日金曜日六時と表示されていた。
早く起きすぎたな。
スマホを手に持ち、魔法少女オンラインを開く。
拠点の街にキャラクターが現れる。
「昨日からひよこがログインしてないな」
俺の知る限り、ひよこはログイン時間が1日を切ったことはなかった。
ふと、くますけとの会話が思い浮かぶ。
『そういうのじゃないわ。ネットの関係って希薄でしょ?なにかのきっかけで突然、音信不通になったりするんだから』
頭を振り、思考から追い出す。
「いや、これはリアルの関係だ。ゲーム上では合わなくなっても教室に行けばあいつはいる」
なんで、俺は動揺しているんだ。
昨日、告白されてから変な気分だ。
あの後、何か答えなきゃいけないと思ったが口が動かなかった。
俺の様子に何を感じたのか、「今は返事を聞きたくない」と言われそのまま香織の部屋を後にした。
せっかくゲームを開いたのだから、デイリーミッションだけ終わらせとくか。
考えても、胸の奥にあるモヤモヤの正体が掴めなかったので、ゲームをして気を紛らわせることにした。
いい時間になったので高校へ登校し、教室に入り、席に座る。
「いつもはもっとにぎやかだった気がする」
この一週間でこんなにも寂しい気持ちになったことはない。
俺は放心したように窓の外を眺め続けた。
「あっれ~、今日は香織まだ来てないんだ」
由美が教室に入り、俺に話しかけてきた。
「ん?ああ、確かにいないな」
「なに今気づいたみたいなふりしてるのよ。香織は洋一の隣でしょ?」
その言葉でようやく気が付いた。
そうか、香織がおらず隣の席が空だから、いつもより孤独感を感じていたのか。
結局、香織は登校してこず昼休憩になった。
俺は一人屋上に向かい、ベンチに座る。
パンを齧りながら、ただ空を見上げていると、横に誰かが座る気配がした。
「隣座るわよ?」
「ああ」
声で美咲だとわかったので振り向かず答える。
今日も弁当を作ってきたのか、蓋を開ける音がする。
「今日元気ないみたいだけど、もしかして香織が休んだのと何か関係しているのかしら」
「関係ねえよ」
それ以上会話を続ける意思がないのを感じ取ったのか、それからは無言でお互い昼飯を食べ続けた。
チャイムが鳴り、昼休憩が終わりの合図を告げる。
「それじゃ、私は戻るけど。困ったことがあるならいつでも相談のるわよ。洋一も香織も私の友達なんだから」
美咲もこの一週間でだいぶ変わったな。
最初は俺を毛嫌いしている節があったのに、今じゃ、悩んでいることを察して、心配してくれている。
学校が終わり、部屋に帰るとすぐにゲームを開いたが、ひよこの姿はなかった。
「何で俺はがっかりしてるんだろうな」
独り言をつぶやいていると、ゆりきちとくますけがログインしてきた。
ゆりきち:こんばんは~。ナダル君狩りに行かない?
くますけ:私もお邪魔するわ
ナダル :ああ。
三人で海底エリアに来た。
ゆりきちの操作しているキャラ黒魔術使いのビオラと俺のナダルが後方から魔法を放ち、くますけのキャラ水魔法使いのルピナスが接近戦で魚人モンスターのヘイトを集めていた。
しかし、相手の攻撃が強く数体倒すだけでも苦労した。
くますけ:このエリアは難易度高いわね。
ゆりきち:やっぱ、ひよこがいないと厳しいかな~。
ナダル :そうだな
ここでも、ひよこがいないことで思い通りに進まない。
そうか、あいつゲーム上手かったんだな。
比較対象ができたことで、より一層ひよこのスキルが際立って見えた。
攻略をあきらめ、雑談に移行し始めたので、思い切って相談してみることにした。
ナダル :ということがあって、なんだか落ち付かないんだ。どうすればいいと思う?
くますけ:本気でいってるの?
ゆりきち:ナダル君、それはもう恋だよ。君もその子のことが好きなんだよ。
ゆりきちの一言で俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうか、これが恋なのか。
俺も香織のことが好きだったのか。
思えば、高校に入って最初に話すようになったクラスメイトってのも香織だったな。
俺はいてもたってもいられなくなり、部屋から飛び出した、
時刻は一八時。太陽が沈み暗くなった時間帯。
がむしゃらに走り続けた。
「はあはあ……」
息を整え、香織の部屋のチャイムを鳴らす。
近くまでくる足音が聞こえる。
俺はノックして声をかけた
「俺だ。洋一だ!」
「え?洋一君?」
「昨日の返事をしにきた。聞いてくれるか」
「……うん」
扉を開けた香織は顔を顰めてつらそうに答えた。
そんな顔しないでくれ、俺は君を悲しませたくないんだ。
「俺も香織が好きだ!ゲームでも高校でも初めて仲良くなったのがお前なんだ。今日、香織と会えなくなってようやく俺は自分の気持ちに気が付くことができた。俺と付き合ってくれ」
柄にもなく頭を下げて返事を待った。
無言の時間がこれほど怖いと思ったことはない。
好きな人に気持ちを伝えるのってこんなに苦しいことだったんだな。
「もう、本当に急だよ。実は私は振られるのが怖くて学校に行けなかったんだ。ゲームにもログインできなかった。なのに、洋一君から告白し返されるなんて」
頭を上げると、目から涙を溢れさせながら笑っていた。
「好きだ」
「私も好きです」
俺と香織はどちらからともなく腕を伸ばし抱きしめあった。
SNSと現実世界はつながっている。
相手の正体が決して分からないとしても、言葉は誰かの人生を変える。
もしかしたら、顔も見えないネット上の関係でしかないと思っていた人は、意外にもあなたの身近にいるのかもしれない。