表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

喧嘩

 学校から帰宅し魔法少女オンラインを開いた。

 拠点の街にキャラクターが出現する。

 チャット欄に新着アイコンがついてあったので、確認した。


 くますけ:おーい、ログインしたらドクロの洞窟まできてよ。

 ナダル :ログインしたとこだ。今から行く

 

 テレポート石を使い、ドクロの洞窟を選択しテレポートする。

 そこは暗い洞窟の中にピンク色の髑髏が光を放っている奇妙な洞窟だ。

 しばらく歩いていくと、くますけとひよこがパーティーを組んで雑魚を倒しているところを発見した。


 ひよこ :あっ、ナダル君が来たよ

 くますけ:待ってたわよ。ちょっと、私のレベル上げ手伝ってくれないかしら。最近ゲームできてなかったから、二人に置いてかれちゃったわ。

 ナダル :確かにゲーム内であったの久しぶりだな。暇だしいいぜ


 しばらく、三人の美少女キャラクターが敵モンスターを沸いては倒しを繰り返した。

 

 くますけ:ふー、そろそろ休憩にしましょう。

 ひよこ :そうだね、ちょっと疲れちゃった。

 ナダル :くますけの使用しているキャラクターってルピナスだっけ?水魔法使いだけあって、水色の透けた衣装がいいな

 くますけ:そうよ、私のお気に入りなの。そういえば、ナダル君と同じキャラクターを使っている子がクラスメイトにいたわ。

 ひよこ :いいなー、私も近くに同じゲームしてる人いたらいいのに。

 ナダル :あまり公言できるようなゲームじゃないしな、露出多めで

 くますけ:そうなのよね、私もその人に同じゲームしてるなんて言えなかったわ。

 ひよこ :そうなの?私だったらクラスメイトにいたら話しかけちゃうな。

 ナダル :フレンド申請でも送ってみろよ。サプライズだってな

 くますけ:その人のキャラの名前までは見えなかったの、野外だったし、男子だったから、あまり近づけなかったのよ。


 そんな日常会話を交わしながらわいわいと一時間ほどゲーム内で過ごした。

 夜飯の準備をするために、ゲームをやめて買い出しに行くことにした。

 時刻は十八時で日が落ち暗くなる時間帯にコンビニへ向かう。

 歩いていると、男子と女子が話し合ってる声が聞こえてきた。

 

 「なあ、田宮。いいだろ?」

 「ちょっと、嫌だっていってるでしょ?」

 

 カップルがじゃれてるのかと思っていたが、どうやらもめごとみたいだ。

 男女の痴情ちじょうに割って入るのは余計に揉め事になることもあるので見て見ぬふりするか。

 

 「あっ!山田君!助けて!」


 ちょうど、通り抜けようとしたときに、女子生徒のほうから声をかけられてしまった。

 名前を呼ばれたことに驚いて、顔を向けたらクラスメイトの田宮由美たみやゆみだった。

 確か、伊藤を昼飯に誘っていたグループにいた女子だったな。

 ここで、何もしなかったら明日以降の学校生活が今より面倒になることは明らかなので、仕方なく助けることにした。


 「田宮か、どうしたんだ?」

 「この、小林先輩がしつこく部屋に誘ってくるの。私は拒否してるのに」

 

 そういって、男の手を振り払って俺の腕に抱き着いてきた。

 小林と呼ばれた男はその態度を見て俺を睨んできた。


 「おい、お前一年か。人の女に手を出すなよ」

 

 身長は俺と同じぐらいで、体格もいい。

 予想してた通りに最悪の方向に事態は進んでいるようだ。


 「田宮は嫌がってるみたいっすよ。先輩。無理やり部屋に誘うとか男として情けなさすぎっすよ」

 「言うじゃねえか。おい、かっこつけて金髪にしやがって。女の前でその化けの皮はがしてやるよ」


 当たりは暗くなっており、周囲に人の姿はない。

 寮は学年別で別れてるので、1年寮の近くで上級生を見ることは滅多にない。

 つまり、この時間帯、場所を狙ってナンパでもしてたんだろう。


 「山田君……」


 ぎゅっと、腕を抱きしめる力が強くなった。

 少し震えているようで、相手が暴力をふるいそうな雰囲気を感じて怖がっているのか。

 喧嘩は中学で終わりにしようと思っていたが、そうも言ってられないみたいだ。

 俺は安心させるように、「大丈夫」と優しく声をかけ、軽く頭を撫でた。


 「おい、小林先輩。他に言い残すことはあるか」

 「ひゅー。かっこいいねえ。先輩として忠告しておくが、上級生の言うことには従っていたほうが身のためだぜ」


 小林がファイティングポーズを取り近づいてきた。

 右半身を前に出すサウスポースタイルか。

 リズムを取りながら、ジャブを繰り返して牽制してくる。

 ぎりぎり当たらない距離から拳を飛ばしてくるのは、俺の実力を図るためか。

 

 「ほらほら、どうしたよ。俺がボクシングできると思わなかったか?今なら許してやるぜ?」


 一歩距離を縮めてくるたびに、俺も一歩下がり。射程内に入らないように安全に立ち回る。

 隙が少なく、それなりに実力はあるみたいだ。


 「そんな遅いパンチに当たるとでもおもってんすか?」

 「防戦一方のくせに強気だな。いいぜ。俺の本気を見せてやるよ」


 俺が挑発すると、小林の動きが速くなり、一気に距離を詰め、ジャブから左ストレートを放ってきた。

 久しぶりのパンチを撃ち込まれる感覚に血が騒ぎだす。

 顔面に当たる直前で俺は、首を右に傾け交わす。

 外れたのを察し、すぐさま右フックを放ってくるも左手でガードし、左足を軸にがら空きの正面に右ストレートを放った。


 「ぐがぁっ」

 

 綺麗に入ってしまい、相手は悶絶しその場で倒れこんでしまう。

 手加減はしたつもりだったが、あまり打たれ慣れていないみたいだ。


 「あんたのファイティングポーズが見事なもんだったからよ。結構やるのかと思って強めに殴っちまった。悪いな」

 「す、すごい……」

 「それじゃ、俺は行くぞ。夜道は気をつけろよ」

 「待って。それなら、山田君が私の部屋まで送ってよ」

 

 腕をつかまれながら、子犬のような眼を向けられては断り切れない。

 別にそんな時間はかからないし送ってやるか。


 「しょうがねえな、今回だけだぞ」

 「やったー!」

 

 何がうれしいのか、小さくガッツポーズまでしている。

 

 敷地内の店舗が並んでいる通りを横断し、女子寮側へと渡った。

 この辺りから女子しか歩いておらず男子禁制の空気を感じて居心地が少し悪い。

 田宮は気にしないのか、鼻歌を歌いながら歩いている。


 「山田君って、見た目通りに喧嘩慣れしてるんだね」

 「別に褒められたもんでもねえけどな」

 「最初は怖い人だなって印象があって、今回も偶然見つけて声かけたけど、助けてくれるか不安だったんだ」

 「同じクラスメイトだしな、見捨てるのは気分が悪いだけだ」

 「んふふ。今更だけどありがとう。助けてくれて」


 気づいたら女子寮の前まで来ていた。

 田宮は名残惜しそうに俺を振り返った後、笑顔で手を振って別れた。


 「はぁ。なんかやけに疲れたな。料理する気も失せたし適当に飯買って帰るか」


 部屋に戻ると、スマホの通知が来ていた。覗いてみると、珍しい相手からだった。


 ゆりきち:ねーえ。今日すごいことあったんだ

 ナダル :急だな。しかも、2週間ぶりか?

 ゆりきち:知ってるでしょ?私も高校進学の準備で忙しかったんだ

 ナダル :それで?

 ゆりきち:前に話をしたの覚えてる?私の理想の男の子!

 ナダル :バッドアスな人が好きだってやつか?

 ゆりきち:そう!クラスメイトの男子なんだけど。まさに、アニメの中のお姫様になったみたいな体験をしてしまった!

 ナダル :それはよかったな。てか、俺に話す内容か?もしかして友達いねえの?

 ゆりきち:もー、ひどいな。ちゃんと友達いますよーだ。でも、ちょっとクラスメイトには話しにくいのわかるでしょ?

 ナダル :ま、私の好きな人はこの人って宣言するようなもんだしな。

 ゆりきち:んふふ。宣言してもいいんだけど、もうちょっと様子見かなーって感じなんだ。まだ、なんも知らないからね。

 ナダル :そうか


 話したい事を話し終えたのか、そのまま返事も来ずに会話は終わった。

 俺も疲れたし、今日は早めに寝ることにするか。


 スマホの目覚ましで目を覚まし、時計を見る。

 四月五日火曜日 七時五十分。


 「少し寝坊したか」


 急いで準備をすませ、学校へ向かった。


 教室へ入ると、俺の席周辺が少しにぎやかになっていた。

 伊藤香織と田宮由美と森本昇が一緒に話をしていたのだ。

 

 「あ!おはよう、山田君!」


 勢いよく挨拶してきた田宮にクラスメイト達が驚いた顔をしている。 


 「ああ、おはよ」


 返事を返すと、荷物を置き席に座った。


 「あの、おはよう」


 伊藤も控えめに挨拶する


 「おいおい、お前らいつの間に仲良くなったんだ?」

 

 茶髪の森本が、揶揄うように俺と田宮の関係を聞いてくる。

 伊藤も聞きたいのか、俺の顔を見ている。


 「ん?なんだ、話してないのか。なら、俺も別にいうことねえな」

 「んふふ」

 

 やたら、機嫌がよくて気持ち悪いな。

 それにしても、伊藤と田宮はわかるが、森本が輪に入ってるのが違和感だな。


 「女二人の中に男が混じって何話してんだ?」

 「んふふ。嫉妬?もしかして山田君。嫉妬してる?」

 「うるせえ」

 「お前がよく言えたな。委員長と仲良く昼飯食ってたのしってんぜ?」


 何のことかと思ったが、そういや昨日は屋上で飯食ってたか。

 

 「山田君は、その、小倉さんと仲いいの?」

 「飯を伊藤に断られてそれで一人屋上に行ったら一緒になっただけだ」

 「ふーん、そういう割には楽しそうだったけどね?香織」


 うんうんと頷きあってる女子二人。

 ゲームしながら飯食ってただけで、特に言うことはないので無視することにした。

 委員長の小倉美咲はというと、とっくに席に座って、副委員長の佐藤啓介と難しい顔をして話しながら、勉強をしていた。


 「委員長はまじめだねー」

 「そうだね。あれ、私たち何か忘れているような」


 田宮と伊藤が急に静かになって考え込んでいるようだ。

 

 「なんだ?お前らもう忘れたのか?」


 森本は知っていて当然というような風に両手を広げる。

 勿体ぶるように顔を左右に振って、答えた。


 「昨日言われただろ?来週に実力試験があり、その点数の結果によって席替えをするって」


 女子二人は雷が落ちたように固まった。

 そんな様子を見て、俺はすぐに悟った。

 こいつら、勉強苦手なんだなと。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ