第172話 ちゃんと考えないといけない
……あのあとはいろいろと大変だった。冷静沈着スキルを使っていたとはいえ、下半身を鎮めるのに全力を尽くした。
イアンさん達はニヤニヤとこちらの様子を楽しみながらお酒を飲んで料理を楽しんでいた。そしてリリスさん達はAランク冒険者パーティの中でも人気のある女性だったので、周りの男の冒険者達が血の涙を流しながら、4人に囲まれている俺を睨みつけていた。
俺もいつもは睨みつけている側だったから、その気持ちは痛いほどわかる。……今後この街に来る時は、夜道で刺されないように本気で気をつけなければならない。
みんなに離れてもらうようにお願いしたら、私達が嫌いかと上目遣いで聞かれて断ることができなかった……あれを断ることができる男なんていないだろう……
なんとかしばらくの間、天国みたいなこの状況にいろいろと耐え、この後も一緒に飲もうというみんなの誘いをギリギリで断って、エガートンの街の冒険者ギルドを後にした。
「……リリスさん達はものすごくグイグイ来たな。やっぱりこの世界の女性は重婚がオッケーだから、男の人へのアピールが強いのかな」
確かに重婚が可能な世界なら、そもそもの考え方が元の世界と異なるのは当然か。言ってしまえば、相手が妻帯者だとしても求婚できるんだもんな。
「結局リリスさん達にもはっきりと答えずに保留にしてしまったからな……」
サーラさんへの返事と同様にリリスさん達への返事もはっきりとしないまま、冒険者ギルドを後にしてしまった。もっともリリスさん達にはっきりと求婚されたわけではないが、好きだと言われた。
……今まで一度も女性と付き合ったことのない俺が、求婚されたり、好きだと言われたり、ハーレムがオッケーとか言われても、完全に情報処理機能をオーバーしている。
優柔不断で非常に申し訳ない限りだが、俺にとって本当に大事なことなので、ちゃんと考えて決めていきたい。……というか、元の世界でも川端さんと結構いい雰囲気だったんだよな。数日後からは学校も始まるし、元の世界のことも考えないと……
「こんな時間に外でどうしたんだ?」
「……この障壁魔法を調べていただけだ。周囲の魔力を取り込み、この障壁やあの異世界への扉を繋げるための魔力に変換している機能は非常に興味深い」
「なるほど、そういうことか」
大魔導士の家に戻ってくると、アンデは家の中ではなく、庭のほうにいた。確か大魔導士の手紙によると、魔力がなぜか集まる破滅の森にある周囲の魔力を取り込んで、この障壁と扉を維持しているんだっけか。
「俺は元の世界に帰るけれど、アンデはどうする?」
「我はもう少し調べたいことがある。マサヨシの世界にも非常に興味はあるが、先にこちらを優先したい」
アンデはアンデでいろいろと大魔導士が遺したものが気になるようだ。
「わかった。晩ご飯は食べるか? どうせ母さんの分も作るから一緒にアンデの分も作れるぞ」
「すまんな、頼むとしよう」
「はいよ」
扉を通って日本に戻り、買い物に行って3人分の晩ご飯を作る。
「……ふむ、これはうまいな」
「そうか。ワイバーン肉の甘味噌炒めだ。こっちの世界にはない味付けだろ」
今日の晩ご飯はワイバーン肉を使った甘味噌炒めだ。まだたくさん残っているワイバーンの肉と、こちらの世界のナスとピーマンとネギに市販の甘味噌ダレで炒めるだけの、お手軽だけどご飯が進む料理だ。
「この前の牛丼とやらにも使っていた白いものだな。これだけでは味がないが、他の味が濃いものと合わせるとよい味だ」
「俺の国だと、このご飯という穀物が主食となっているんだ。それと合わせて味の濃いおかずや、こっちの味噌汁を一緒に食べるのが基本になるな」
母さんはいつものように帰ってくるのが遅くなるから、今は大魔導士の家でアンデと一緒に晩ご飯を食べている。
「アンデは料理とかはしないのか?」
「師匠といたころはもっぱら我が料理をしていたな。……いや、料理どころか家事はすべて我がやっていた」
……イメージだけど、大魔導士って家事とか絶対にやらなそうだよな。
「こうして誰かと食卓を囲むというのも久しぶりだ。それに最近の食事は食べやすく、持ち運べるものを優先していたからな。こうして温かくうまい飯を食べるというのも、悪くはないものだ」
「こっちの世界には俺なんかが作るものよりもうまい料理がいっぱいあるからな。今やっている研究みたいなのが落ち着いたら、こっちの世界のうまい料理を食べながら、いろいろな場所をまわってみるのも面白いかもな」
日本だけでもご当地グルメなんかが山ほどある。もちろん母さんとは一緒に行けないから、アンデとは別行動にしないといけないがな。……いや、むしろ友人として紹介するのもアリか。
「……それも悪くないかもしれんな」
晩ご飯のあとはデザートに安いやつだが、ケーキも買ってきている。サーラさん達の反応まではいかなかったが、それでも表情の動きが少ないアンデが驚いてくれたみたいだし良しとしよう。
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