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第二章「敵は己自身?」の玖


 「……」


 「わしもヨク殿も佐吉殿に会わねば、飢え死にしてたか、生きててもつまんねえ生き様だったろうよ。だから、こんな面白い生き方があると教えてもらっただけでもありがてえよ」


 ヨク殿も(うなず)く。

 

 「ただなあ、『ミツナリ』とかいう奴にただ殺されるのも面白くねえ。出来るだけ抗ってみてえよな」


 わしも含め、ヨク殿もサコも、そして、おとかも(うなず)く。


 「そうだなあ、武運つたなく敗れたら、どうだい、北の山脈の向こう側は手つかずの大森林だ。そして、その先には一年の半分は雪が降るって、大きな島があるって話だ。そこへ行ってみないかい? そこまでは追っ手も来るまい」


 「なにそれ? 楽しそう!」

 目を輝かせて反応したのはおとかである。

 「行ってみたい! 私、そこに行ってみたい!」


 「おいおい、おとか。それは戦に敗れた後の話だぞ。そうならないようにするのが先だろうが」

 たしなめるわしに、おとかは頭をかく。

 

 「そっ、そうだね」


 そんなおとかに周りは爆笑する。わしは本当に人に恵まれている。いや、狐もか。


 最後におとかはぽつりと呟いた。

 「でも、全てが終わって、穏やかになって、心配事がなくなったら、行ってみたいな。一年の半分は雪が降るって、大きな島」


 ◇◇◇


 「もう一組帰ってきた?」

 わしの問いにサコとウタが(うなず)く。


 「これからは『ミツナリ』様の沙汰に従うから、砦の者に武芸や堆肥の扱いを教わらなくてもいいからって」


 ウタの言葉にサコも続ける。

 「郡府(ぐんぷ)の官人もはっきりとは言わないけれど、砦の者を嫌っているという気持ちを隠さないんだ。村人の方がそれと察して、砦に帰るよう言うことが多いみたいだ」


 他の村の者を勝手であると責める訳にもいくまい。ぽっと出の得体のしれないところがある砦の者と名君の誉れ高い郡司(ぐんじ)を擁する郡府(ぐんぷ)の官人では後の者を信ずるのは自明の理であろう。


 シンの話では、砦にいた郡府(ぐんぷ)の元官人たちも三十人ほど郡府(ぐんぷ)に戻ったとのことだ。


 「『ミツナリ』め」

 わしは思わず独り言が出た。

 

 奴の狙いは、他の村を服させ、砦を孤立させることだろう。その証拠にわしには何も言ってきていない。

 だがな……


 わしはサコに問うた。

 「サコ。ヒナイの村からもう訪ねてくるなと言われているのか?」


 サコはにやりと笑い、答える。

 「全然、言われていないよ。佐吉兄ちゃん。全然ね」


 さすがはサコ、わしの考えがよく分かっているおるようだな。


 「でさ、佐吉兄ちゃん。他の村から帰ってきた組をもう一度ヒナイの村に送っていいかな?」


 わしもニヤリと笑う。

 「ああ、いいぞ」


 「ミツナリ」。そう簡単に思惑通りにさせんぞ。わしも元「三成」じゃ。


 ◇◇◇


 「武具納め?」


 珍しくおとかが二人だけで話したいと言って来た。少なからず気持ちが揺れたわしだが、いつもと変わらぬ話でいささか拍子抜けだ。これならヨク殿たちがいても良かろうに。


 「盗賊退治はこれから郡府(ぐんぷ)が一手に担うから、各村が持っている武具は供出するようにって。そして、武具は(すき)(くわ)の材料にして、各村に戻すって。佐吉。前の世でもやったんじゃないの?」


 「太閤殿下が命じられた『刀狩り』じゃな。あの時は武具を寺社の釘や(かすがい)にしたんじゃ。あの時は百姓に武具持たせると一揆起こすから、差し出せと言ったのじゃが、『ミツナリ』はそういうことを申しておるのか?」


 「全然。農具が足りなくて困ってるだろうから、武具を出せば農具にして返すと言ってるだけ」


 「そうか。さすが知恵があるな。村々はどう言っている。訝しんでおる者はいるのか?」


 「殆どいないねえ。『ミツナリ』は名君だと言ってる奴ばかりだよ」


 「ヒナイの村は?」


 「あはは。あそこは別だよ。例のところに隠したようだね。他の村でも頭のいい奴はこっそりヒナイの村のヘイザとヨミに託しているようだよ」


 「うむ。うちの砦でも他の村から武具を預かってくれと頼まれたら、全て受け付けろと伝えておこう。じゃが、何故、今回、二人だけで話したいと言ってきた? この話ならヨク殿たちもいた方が話が早かろう」


 おとかは少し声を潜めた。

 「いや、内々にしたいのは、この後の話なんだよ」


 ◇◇◇


 「どういうことだ?」


 「『ミツナリ』にはどこへ行く時にも必ず隣にいる者がいる。護衛だと思う」


 「うむ」

 わしは頷いた。春先に「奥の郡(ここ)」に来て、今は盛夏。それでも、ここは「ミツナリ」にとって、まだまだ危険な場所であろう。屈強な護衛を隣に置くことは、至極当然のことではないか。


 「それが『小さな女の子』なんだ」


 さすがにわしは驚いた。

 「何っ、『小さな女の子』って、おとかくらいか?」


 「もっと小さい。ウタと同じか、もっと小さいくらい」


 「それで、護衛の用をなすのか?」


 「なしている。私も『遊撃隊』の者たちも『ミツナリ』には近づけない。それくらいの威圧感がある」


 「何者だ?」


 「恐らく以前佐吉と一緒にいた時にいた狐の子」


 「! なんだと……」


 「人化できるし、私と同じ能力(ちから)を持っているみたいだね」


 「……」

 わしは少し考えた後、言葉を継いだ。

 「わしとおとかの仲だから、敢えて聞くが同族はやはり戦い(やり)にくいか?」


 それに対し、おとかは即座に答えた。

 「やりにくい。だけどね……」


 「だけど?」


 「私には分かる。あの子は『ミツナリ』を守ることに命を懸けている。私が佐吉を守ることに命を懸けているように……そのことに敬意をもって、戦わせてもらうよ」


 「……」


 思わず沈黙するわしに自分が何を言ったか気付いたおとかは真っ赤になった。



次回第10話は7/6(火)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] おとか健気! しかし、キツネがついてるところまで一緒とは…… ミツナリさんの正体がますます、気になります。
[一言] やはり戦わねばならないのですかね。 おとか……。萌えぇ〜。
[一言] 大胆な告白は女の子の特権( ˘ω˘ )
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