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第二章「敵は己自身?」の仈


 「なんじゃ水臭い。おぬしとわしと仲ではないか」


 「うーん。やっぱ、これ見せるわ。『遊撃隊(うち)』の絵の上手いのが風体描いたから」


 「なんじゃ。まあ、その方が分かりやす……!」


 こっこれは何だ。まるで前世の二十歳頃のわしではないか……


 「やっぱ驚いた? 私も初めて見た時、佐吉のお兄さんかと思ったわ。でも、この世界にそんなものがいるわけないし……」


 その通りだ。わしはおとかと二人でこの世界に転生してきた。親兄弟がいるわけがない。だが何だ。この生き写しぶりは……


 「何だ何だ。わしたちにも見せてくれや」

 ヒョーゴ殿がそう言い、ヨク殿やサコも順繰りに見ていって、驚きの声を上げていく。


 それがシンの手に渡った時、一際大きな声が上がった。

 「ミッ、ミツナリ様っ!」


 ◇◇◇


 「ミツナリだとっ!」

 わしも当然反応した。わしの前世での(いみな)ミツナリ。それをここで聞くことになるとは。

 「シンッ! この新しい郡司(ぐんじ)の名は『ミツナリ』と申すのか?」


 シンは静かに風体を写した紙を机の上に置くとゆっくり話し始めた。

 「ミツナリ様はかつて郡府(ぐんぷ)で私の上司でおられた方です。当時の郡司(ぐんじ)トウキ様にその才を買われ、トウキ様が都に戻られるとき、一緒に連れて行かれた方です」


 「…… その『ミツナリ』と申す者、仕事は出来るのか? 人となりはどうじゃ?」


 「戦も(まつりごと)も非常にお出来になる方です。人柄もよく、部下には大変慕われておりました」


 「……」

 複雑だ。わしに似た風体で、かつての名前の者が無能であるというのもいい気分がするものではないが、あまり有能というのも良い感じはしない。


 そんなわしの気持ちを察したか、シンは黙って下を向いてしまった。


 だが、わしはシンに悪いと思いつつ、どうしても聞きたくなった質問をした。

 「その慕われていた『ミツナリ』が元いた官人たちに郡府(ぐんぷ)に戻って来いと言ったら、戻る者はおるのか? シン、そなたはどうじゃ?」


 「……」


 「答えづらいのは分かる。だが、思うところを知りたい。その答えでそなたへの扱いを変えないことを約束する。思うところを答えてくれ」


 「…… 自分のことは分かりません。ですが、少なからぬ者が『ミツナリ』様の下に馳せ参じるものと……」


 「…… そうか」

 そう言って沈黙したわしにおとかが心配そうに声をかけた。

 「佐吉……」


 「うむ……」

 「ミツナリ」の呼びかけに応えたいと思う者がいたら、やはり無理に止めることは出来まい。それこそ「関ヶ原」の二の舞になる。こっそり敵方に内通されるくらいなら、初めから敵方にいてもらった方が良い。


 とにかく、おとかと「遊撃隊」は今後も情報の収集に努めるよう伝えた。砦は予定通り今期の大豆とかんぼじあの栽培と戦に備えた訓練を行う。他の村との付き合いは是々非々で行っていくことなどを決めた。


 ◇◇◇


 「ミツナリ」情報は続々と入って来た。


 一点目。播種用の大豆を貸して、収穫時の返済の利息は三割と言った。


 「それがどうかしたのか?」

 わしには分からなかった。前世でも米の種もみは収穫時に三割上乗せして返すのは普通の話だった。


 「いや、それなのじゃが」

 ヨク殿がおずおずと話し出す。

 「昨年の『奥の(こおり)』の利息は十割だったのでござるよ」


 「なっ……」

 わしは驚愕した。そこまで腐りきっていたのか。わしは前世で五割の利息で種もみを貸した商人を取り締まったことがある。十割。それも領主が……


 「だから、今度の郡司(ぐんじ)様は名君という話がもう出てきているわ」

 おとかが何とも言えぬ表情で言う。

 「今までがひど過ぎたのだと思うけどね」


 二点目。わしが各村に伝授している堆肥の利用やかんぼじあの栽培をミツナリは容認し、しかも推奨するしているらしい。


 「やっぱ馬鹿じゃないな。頭がいい」

 ヒョーゴ殿が腕組しながら言う。


 わしもそう思った。下手に面子とかにとらわれず、良いものは素直に取り入れる。


 手強い相手だ。


 三点目。各村に盗賊退治を約束し、しかも、それを実際に行っている。


 「口で言うだけなら、今までも居申した。本当に行うのは初めてでござる」

 ヨク殿が感心しているような、畏怖しているような様子で言う。


 「各村はそれを見て、知っているのか?」

 わしの問いにおとかは相変わらずの何とも言えぬ表情で言う。

 「見て知ってるね。ちゃんと盗賊退治をやってると分かるようにやってるから」


 「新郡司(ぐんじ)は名君か」

 わしからも思わず声が漏れる。

 

 さて、どうしたものか。この世界の民が「ミツナリ」の(まつりごと)に服することが幸せだというのなら、わしが今、砦でやっていることは何なのだということもある。


 だが、「ミツナリ」は追い詰められたという理由があるにしろ、反旗を翻した砦の民を許すであろうか。


 わしが「ミツナリ」であれば、民は許すであろう。但し、二つの条件を付けてだ。一つは砦の完全な破却。もう一つはわし、ヨク殿、ヒョーゴ殿、サコ、シンそして、おとかの処刑だ。


 そして、わしが「ミツナリ」だったら、一番大事にするのは「民」ではない。一番大事にするのは……


 黙り込んだわしを、皆が心配そうにのぞき込む。いかんいかん。


 「はっはっは」

 ヒョーゴ殿が大笑いした。

 「まあ、わしらは一度お上に楯突いちゃってるからな。ただじゃあすまないかもな。でもな」


 

 

 

 



次回第9話は7/5(月)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミツナリ!? 彼の正体が気になるところです……!
[一言] おおぅ。 三成対ミツナリ。 面白くなってきましたね〜。
[一言] 強敵出現!? 相手もやり手ですね ><。
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