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第二章「敵は己自身?」の伍


 ゴンザ殿はいったん下を向いたが、すぐに上を向いた。

 「そのことは謝罪申し上げる、じゃが、わしはそれでも村を今のまま守りたいのじゃ」


 わしは考え込んだ。これを受けてしまえば、他の村の同じ要望にも応えない訳にはいかなくなる。郡内に十いくつある村全てに来秋の収穫までの食糧と村を守る兵士を提供したら、この砦の食糧が足らなくなるし、守りががら空きになってしまう。


 「領主殿」

 考え込んだわしに声をかけたのはシンだった。


 シンはわしに耳打ちをし、わしも頷いた。


 「ゴンザ殿」

 わしは向き直ると言った。

 「望みを全て叶えることは出来かねる。じゃが、こちらでも他に何かやり方がないか考えてみる。今日は泊まっていかれよ。明日にはお答えする」


 ゴンザ殿は不服そうだったが、頷かぬ訳にはいかなかった。ヨク殿に付き添われ、別の間に向かった。


 ◇◇◇


 翌日、わしは再びゴンザ殿に再び面会した。

 「やはり来秋の収穫までの食糧と村を守る兵士の提供はしかねる。じゃが、代わりにこのようなことはどうじゃろうか」


 ゴンザ殿は不満顔のまま、沈黙している。わしは構わず続ける。

 「三月(みつき)の期限で『突撃隊』の一部隊をヒナイの村にお貸しする。その間に武術を村の者に授ける故、その後には己が力で村を守っていただきたい」


 「…… 食糧の方は?」


 「食べられる野草の知識を持った者をやはり三月(みつき)の期限でお貸しする。また、『突撃隊』の者が狩りの仕方をご教授する。それで回してもらいたい」


 「…… 三月(みつき)と言わず、ずっといてもらう訳には?」


 「いき申さぬ。他の村との兼ね合いもある」


 「…… 三月(みつき)で一人前になれなかった際は?」


 「なってもらう。なれなくともヒナイの村から人は引き上げる。じゃが……」


 「じゃが?」


 「村の者でもっと武術や技能を学びたいという者がおられたら、我が砦で気が済むまで学ばせる」


 「……」


 ゴンザ殿はそれ以上、何も言わなかった。だが、不満を言われてもこちらもこれ以上は譲れない。


 この形でやってみることになった。ありがたいことにこのことが決まってから、他の村からもこういった要望は上がってこなくなった。「ヒナイの村の様子を伺っているのだろうよ」とヒョーゴ殿は言った。


 ◇◇◇


 サコは言った。

 「ヒナイの村に『突撃隊』やる件なのだけど……」


 「む?」


 「佐吉兄ちゃん、わしが行ってこようか?」


 「うーん」

 

 「今でこそ佐吉兄ちゃんのおかげで、この砦の中で食うに困ることもなくなったけど、こないだまで自分だって、ヒナイの村の者と同じような思いをしていた。何とかしてやりたい気もするんだ」


 やっぱり、サコは優しい奴だ。だが……

 「サコ。気持ちは分かるが、侍大将が三月(みつき)も砦を留守にするのは感心しまい」

 そう諭してくれたのはサコの実父ヨク殿だ。


 「うーん」

 さすがにサコも口ごもる。だがそこで……


 「兄ちゃん。あたしが行ってくる。もちろん、武術じゃなくて、技能の方だけどね」


 「おっ、おま、ウタ」

 妹のウタの言葉に慌てるサコ。これにはウタの実父でもあるヨク殿も絶句する。

 

 「そんなの駄目に決まっているだろっ!」


 「何で駄目なの?」

 兄のサコの言葉に口を尖らせて反論するウタ。


 「何でって、おまえ、それは危ないから……」


 「え? じゃあさっき兄ちゃんは危ないところへ行くって言った訳?」


 「いや、俺は男で、もう一人前だし……」


 「酷い。あたしは半人前ってこと? それにおとか姉ちゃんは女だけど外に出てるよ」


 「ふふふ。あはははは」

 言葉を失うサコに、大笑いするおとか。

 「これはもうウタの勝ちだね」


 「そ、そんなおとか姉ちゃん」


 「心配しなくても、あたしと『遊撃隊』が重点的に見てあげるよ。それにサコだって、狩猟と訓練で外に出るでしょ。その時に見てくれば」


 「うっ、うん」

 サコは渋々頷いた。


 「よーし。決まりだなっ! サコよお、可愛い妹が気になるからと言って、ヒナイの村ばかり行っちゃ駄目だぜ」

 冷やかすように言うヒョーゴ殿。


 「そんなことはしませんって」

 ムキになって返すサコ。まだ子どもだなあ。わしは何だかおかしくなった。


 ◇◇◇


 「で、どうだ?」

 

 ウタたちをヒナイの村に送り出して一月半(ひとつきはん)くらいたった頃、わしはおとかに問うた。


 「うん。そうだね。あ、今更だけどここの郡は『奥の(こおり)』と言われて、この国でもかなりの外れになるみたいなんだ」


 「ほう。そうか。都から遠いってことか」


 「そうだね。そのためかよそ者を警戒する気質がある。初めはウタも随分つらい思いをしてたねえ」


 「え? 大丈夫か? サコが知ったら殴り込みをかけかねんぞ」


 「サコには言ってない。大体、妹を構いすぎなんだよ。あいつは。ウタはしっかり者だよ。あたしの妹分だよ」


 「そうか。大丈夫だったのか?」


 「大丈夫。大丈夫。ヒナイの村の者だって、やっと生きて来たんだ。いろいろ伝授してくれる者は救いの神だよ。一月(ひとつき)もしないうちに、やる気のある者とは意気投合するようになった」


 「そうか。良かったのお」


 「まあ、全ての者がそうではないけどね」


 「……」

 まあそうじゃろうな。わしは思った。己が面子が潰れるくらいなら、家を滅ぼした方がましと考える奴は前の世でもいた。何より己が面子が大事なのじゃろう。

 「すまぬがまた見守ってくれるか」


 



 

次回第6話は7/2(金)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人前に育てる。 そうですよね。そうやってみんな自分でなんとかできる力をつけないと、ですよね〜。
[一言] 自分の力で何とかさせるのはいい方法だと思います! 誰かに助けてもらって急場をしのいだら、ずっと他力本願なままですからね。
[一言] メンツは重たい問題ですね ><。 自覚せずとも、皆メンツは大切なはずですしね。
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