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第二章「敵は己自身?」の肆


 埋めてしまった空堀はもちろんそのままという訳にはいかない。ここは砦なのだ。縄張りの仕方が分かるおとかと投降兵の中の建築の知識が分かる者に話し合ってもらい、埋め立てた空堀の外側に新しい空堀を掘ることにした。


 怪我の功名というか、このことで本丸と二の丸が大きくなり、多くの人を受け入れられるようになった。だが、シンが言うには「この砦に入りたがる人間はもっと出る」とのことなので、三の丸も作ることになった。


 果せるかな先の戦で敗走した者の中から、ここの砦に入りたいという者が出て来た。砦自体はどんどん大きくなっている。しかし、このままでは済むまい。そう思っているのはわしだけではなかろう。


 ◇◇◇


 三の丸の工事の大枠が終わる頃、外での調査を頼んでいたおとかが帰ってきた。早速に状況を聞いてみる。


 「どうだ。様子は?」


 「ひどいもんだよ」

 おとかは大きな溜息を吐いた。

 「この砦攻めの大敗の報が入るや否や、郡府(ぐんぷ)にあった上級官人たちは全員都に逃げ帰ったそうなんだ」


 「な……」

 さすがにわしは驚いた。太閤殿下だったら、切腹をお命じになりかねない行為だ。

 「それで大丈夫なのか? そいつらは罰せられないのか?」


 「残った者の噂話を聞いただけだけど、この国では身分が高い者は何となくそれで許されちゃうみたいね」


 なんてこった。やはり、この国は腐りきっている。


 「それで、郡府(ぐんぷ)はどうなっておるのだ?」


 「まともに動く訳ないよ。先の大敗で兵糧たくさん失くしたところに、逃げ出した上級官人たちが持っていっちゃって、残り少なくなったものは早い者勝ちで持ち去られた」


 「うーむ。食い物がないのか」


 「だから、今、郡府(ぐんぷ)は廃墟。人もいない」


 「下級官人や兵士はどうした? シンの伝手で結構な数がうちの砦に入ったのは知っておるが、他の者は?」


 「殆どが盗賊になったね」


 そうなったか。しかし……

 「この砦にも以前は随分と盗賊が突っかかってきたが、サコが何回かぶちのめしたら、最近、来なくなったが」


 「そう。この砦を狙うと返り討ちに遭うというのは広まっている。だから、他の村を狙う」


 「だからか……」

 わしは大きく溜息を吐いた。


 「おおう。悪いんだけれど……」

 ここで、ヒョーゴ殿から声がかかる。

 「また、佐吉殿に会いたいって、村長(むらおさ)が来てるのじゃが、どうなさる? わしが断っておこうか?」


 「いや、お会いしよう。言わんとすることは想像がつくが、会うのが礼儀じゃろう」

 わしは重い気持ちで面会場に向かった。


 ◇◇◇


 「ヒナイの村の村長(むらおさ)ゴンザと申す。こちらにおわすヨク殿とヒョーゴ殿とも旧来からの知り合いでござる」


 ふむ。ヨク殿とヒョーゴ殿を知っているか。以前にもそのようなことを申した村長(むらおさ)がおったな。


 「こたびは郡府(ぐんぷ)との戦、勝たれたのは大賀の至りと申し上げたいところじゃ、わしらはえらく迷惑しておる」


 この辺の流れはみな測ったように同じだ。と言うことは……


 「ただでさえ、食い物が足りないところをもって、盗賊にも悩まされておる。これというのも、そなたたちが郡府(ぐんぷ)を滅ぼしたからじゃ。ついては……」


 やはり、同じ言い分じゃ。では、この後は……


 「来秋の収穫までの食糧と村を守る兵士を提供されたい。こたびのことの責任はきっちり取っていただきたい」


 新しい話は何もなかった。新たに得るものはなかった。しかし、こちらは真摯に回答しない訳にはいかない。

 「申し訳ござらぬが、それは出来かねますな」

 

 ◇◇◇


 村長(むらおさ)ゴンザは血相を変えて、立ち上がる。

 「無礼な。こちらは迷惑をかけられたのだぞ」


 この流れも定番となっている。わしは今まで通りに答える。

 「では問うが、わしらが郡府(ぐんぷ)を滅ぼさなかったら、ゴンザ殿の村は今頃食うに一切困らず安泰じゃったのか?」


 さすがに黙り込む。それはそうだ。わしらだって追い詰められたから決起したのだ。ゴンザ殿の村ばかりではなく、他の村だって追い詰められていたのだ。


 「なっ、なあ。ヨク殿」

 ゴンザ殿はわしの問いを受け流し、ヨク殿の方を向く。

 「表向きは、子どもがここの砦の領主ということになってはおるが、実際、仕切られているのはヨク殿じゃろう?」


 「はあ~あ」

 わざとらしく大きな溜息を吐いたのは、もちろんヒョーゴ殿だ。

 「また、その話か。この砦を仕切ってんのは正真正銘佐吉殿じゃ」


 「黙れ! ヒョーゴ」

 ゴンザ殿は顔を真っ赤にして怒鳴る。

 「おまえには聞いてはおらん。ヨク殿、なあ、そうなのじゃろう。仕切っているのはヨク殿なのじゃろう?」


 ヨク殿は表情を変えずに淡々と答える。

 「ゴンザ殿。ヒョーゴ殿の言う通りじゃ」


 ゴンザ殿は無言でその場に立ちすくんだ。


 ◇◇◇


 それでも、ゴンザ殿は声を絞り出した。

 「なら、どうすればいいと言うのじゃ。ヒナイの村はこれ以上、盗賊の襲撃に抗しきれぬぞ」


 「村を捨てればいいんじゃ。それで村ごとこの砦に入ればいいのじゃ」

 そう言うヒョーゴ殿をゴンザ殿は睨みつける。


 「黙らぬか。ヒョーゴ! わしらはおまえのような者とは違うんじゃ。先祖伝来の土地を簡単に捨てられるかっ!」

 言い終わった時、ゴンザ殿はヨク殿の視線に気づき、慌てて口をつぐむ。


 ヨク殿は静かに返す。

 「先祖伝来の土地を捨てたのはヒョーゴ殿だけではない。わしもじゃ」


 

 

 


次回第5話は7/1(木)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 村長も大変ですね……。 結局、他人頼りというか、責任転嫁というか、まともじゃないですね。 こんなこと言われたってね〜。食料はやすやすと渡せるものでもないでしょうに。
[一言] 普通は子供が統治してるって、信じてもらえないですよね (;^_^A 食料を要求されても余分はあるのかな (。´・ω・)?
[一言] 結局は伝統と命、どっちが大事かって話になりますよね( ˘ω˘ )
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