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第二章「敵は己自身?」の参

 「まあまあ」

 ウタは誤解している。ヒョーゴ殿が怖くて隠れていたと思っているようだ。それにひょっとするとシンが裏切ったと思ってるかもしれない。はっきり言っておく必要があるだろう。

 「ウタ。今回のことはシンの献策なんだ」


 「え?」

 ウタは腑に落ちない顔をしている。それはそうだろう。


 「シンは出て行った投降兵たちはここの砦の構造を知っているし、兵糧がたっぷりあるのを知っているから、早晩引き返して、乗っ取りにくるだろうと読んだんだ」


 「……」


 「なので、わざと自分が門番をして、敵全部を砦内に引き込んで一気に殲滅しようと献策したんだ」


 「…… 佐吉兄ちゃんが捕まったのもわざとなの?」


 「そうだ。ヒョーゴ殿が出てこなかったのもあえてそうした。出てくると顔が笑って、策が露見する心配がある」


 「…… このことはヨク殿(お父さん)サコ(兄ちゃん)も知ってたの?」


 「知っていた。ヒョーゴ殿もな」


 「…… 私だけ教えてもらえなかった訳?」


 しまった。さっきから不機嫌だったのはそれが原因か。

 「いっ、いや、それはウタは女の子でまだ小さいし、今回の策は危ないから……」


 弁解するわしをよそにウタはおとかの方を向いた。

 「おとか姉ちゃんは知ってたの?」


 おとかはウタから視線を逸らすと言った。

 「…… 知ってた」


 「もうっ! 私は本当の本当に心配したんだからねっ!」

 ウタは泣きながらおとかに突進した。しかし、おとかは寸前でそれをかわした。


 「!」


 「やーい。泣き虫ウタ。悔しかったら捕まえてごらん」


 かくて、逃げるおとかと泣きじゃくりながらそれを追いかけるウタの追いかけっこが始まった。


 ヨク殿は苦笑しながら、わしに声をかけた。

 「おとか殿は本当に出来た娘ですなあ。助かり申す」


 「いや……」

 わしも苦笑しながら返した。

 「多分に好きでやってるのでござるよ。あいつは」


 ◇◇◇


 早急に対処しなければ問題。元からいた人間と投降兵の関係の険悪化こそは解決したが、他にも問題は山積していた。


 最大かつ緊急の問題は先の砦を守る際の戦で発生した山のような敵兵の死体の始末である。放っておくと疫病の発生源となる。


 「油はないでござるか?」

 わしの問いにヨク殿もヒョーゴ殿もサコもきょとんとしている。わしは言い方を変えてみた。

 「敵兵の死体を始末するので、油をかけて燃やしてしまいたいのじゃが、どこかにござらぬか?」


 シンがようやく得心が行ったという顔で答える。

 「油は貴重なものでござる。これだけ多くある遺骸を焼く分はとてもござらぬ」


 「ふむ。ここでは油は何から作る?」

 

 「大豆か獣肉でござるな」


 「うーん」

 それはいかん。以前よりましになったとはいえ、大豆も獣肉も大事な食糧だ。多くの量を油に回す余裕はあるまい。


 「ねえねえ。油菜で油は作らないの?」

 不意におとかが問う。うむ。それはわしも聞きたかった。


 答えはサコから帰ってきた。

 「おとか姉ちゃん。『あぶらな』って何だ?」

 今度は、ヨク殿とヒョーゴ殿に加え、シンまで首を捻っている。


 「ほらあ、あの茎が細い緑で、春になると小さくて黄色い花をたくさんつける」

 続けて問いかけるおとかをわしは止めた。

 「おいおい。おとか。この地には『油菜』はないかもしれないではないか」


 「あるよ。ほら」

 おとかの手のひらの上にはいくつかの種があった。

 「この近くの小山で見つけたんだ。たくさんあったよ」


 その間に、ヨク殿とヒョーゴ殿、サコにシンは「油菜」について相談していたようだ。シンはもうこの仲間に溶け込んでいる。


 「あー」

 ヒョーゴ殿が代表して前に出る。

 「狐の姉ちゃんが言ってるのはどうもわしらの言う『茎立(くくたち)』のことらしい。生きる力が強い草で春になると一面に黄色い花をつける。わしらは煮て食うだけだが、油も取れるのか」


 わしとおとかは顔を見合わせた。まさにそれのことだ。

 「それ。ヒョーゴ殿の言う通り、生きる力が強くて、放っといても大丈夫だし、油も取れるけど、非常食にもなる。種を取ってきて、この砦の近くに撒こう」

 おとかは大喜び。やはり農業(なりはひ)の神の眷属だ。こういうことになると張り切る。


 「だが、おとか殿は『遊撃隊』の務めもある。ここはウタに申し付けて下さらぬか」

 ヨク殿の言葉にわしも頷く。しかし、一つ心配なことがある。


 「『茎立(くくたち)自体は勝手に大きくなるから良いとして、油の取り方はどうやるのだ?」

 わしの言葉にヨク殿とヒョーゴ殿、サコにおとかも沈黙する。しかし……


 「今回下った官人の中に大豆から灯明に使う油を搾る仕事をしていたものがおり申す。そやつに任せてよろしいか?」

 シンの言葉に他の者が一斉に頷く。


 良い…… わしは思った。一番大事な「人」が揃って来ている。良い流れにある。 


 ◇◇◇


 死体の処理問題については、油をかけて焼くという方法は現行ではとれないことがはっきりした。


 そこで、シンの提案により、既にかなりの数の死体が空堀の中に落ちているので、他の死体も空堀に落とし、堀を埋めることにした。先の事件の二十人の死体も一緒に放り込んだ。


 更にサコが申し出てくれて、「突撃隊」の一部も動員して、この作業を急いだ。とにかく疫病は大敵なのだ。




 

次回第4話は6/30(水)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに敵を知った上での作戦だったというわけですね! >良い…… わしは思った。一番大事な「人」が揃って来ている。良い流れにある。  ここが佐吉さんっぽいです。
[一言] 死体の処理も大変ですね。 死してなお、迷惑かけるあいつら。 でも疫病は怖いですからね〜。
[一言] やはい「人」は、何よりの財産ですよね!
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